いいんだよ。

素直になれないのなら
これからなれるじゃない。

道を改善したいのなら
これからがあるじゃない―――





「っ何よ……今まで、散々振り回してきた愛美なのに……っ」


そう言っていても、貴女の表情はそんな事を感じさせない。
だって、泣いているじゃない。
私は、貴女の涙を見るのは初めて。
……嘘泣きじゃない、本物は……。


「それでも、君を失いたくない」
「っ……ばかよ、皆……。本当に……」


愛美は、周助の腕の中で声を出して泣き始めた。


「………これで、終わったのね」


私はその姿を見て呟く。


「……そうだね。咲乱、俺は……これで良かったと思うよ」
「…うん、私もそう思う。……これからは、もう…あんな思いをする事はなくなるのね……」


そう思うと、すーっと気持ちが楽になる。
初めて、鎖から解放されたような気がする。


「……咲乱さん」
「…リョーマ…。青学の皆の事、貴方なら分かってくれるわよね……?」
「……本当は、少し納得いかないけど…。咲乱さんの、そんな顔を見ると、これから頑張れそうな気がするッス」


私の顔……。
今、どんな顔してるのかな?


「凄く、安心感に包まれてる咲乱さんを見ると」


安心感……。
ああ、これね。
私が今まで感じたことのない気持ち……。
肌じゃない、五感に染み込むようなあたたかさ。


「……リョーマ、ありがとう」
「…俺は、何もしてないッス」


帽子を深く被って言うと、リョーマは青学の方に近づいた。


「……藤堂先輩」
「……リョーマ…」


愛美は、リョーマの顔を見れずにいた。


「俺、もう何も言いません。……これからがあるんスから」
「っ……リョーマ…」


愛美はまた、嬉し涙を流した。
もしかしたら。
愛美も、こんなに仲間のぬくもりを感じたのは今日が初めてなのかもしれない―――





「咲乱、本当に悪かった」


バスに乗る直前まで、青学は謝ってくれた。


「……もういい。もう充分よ」


私は慣れない事に、少し恥ずかしいと思ってしまった。


「不二、藤堂をちゃんと見てやれよ」
「勿論。……そういう皆こそ、咲乱を幸せにできなかったら許さないからね」


青学と氷帝はそんな話をしていた。
その間、少し合宿所を見ていた。


「…咲乱、もう、吹っ切れた?」
「精市……。うん、もう平気」
「その……織のことも……?」
「うん。大丈夫」


織には、また帰ったら謝る。
……まだ一度も行っていないお墓参りをしながら。
今まで、罪悪感で行けなかったから。


「咲乱さん、また会いましょう」
「うん。……でも、次に会う時はそう長く話はできないけど」


次に立海に会うのは……大きな舞台。
そう、全国大会―――


「俺達、咲乱の為にも必ず強くなって迎え撃つから」
「私達も、負けないから」


次会う時は、白けた顔はしない。
きっと、笑顔で会える。


「俺達も、今までの分を取り戻すつもりで練習をする。ただでは負けない」
「うん。楽しみにする……」


青学とも、正々堂々。
昔の事を、思い出として語れる日が来るように。


「……もう、お別れの時間だね」


そろそろバスが出発する。


「ああ、そうだな……」


皆がバスに乗り込もうとする時、


「……咲乱」
「…愛美」


まだほんの少しだけ目の赤い愛美が私を呼んだ。


「……幸せに、なりなさいよ」
「……分かってる」
「………ならなかったら、今度こそただじゃおかないんだから」


真剣な顔をして言う愛美。


「望む所よ」


それが、私達なりのお別れだった。


「皆――………またね」


また
いつか
絶対
会いましょう。

私の、かけがえのない大切な人達―――