皆の本音。

今日、やっと聞くことができた―――





二人が言っている事が真実なら。
あの時……、二人の表情は……。


「あの時言ってたこと……半分はそうだけど、半分は嘘だった……」

「俺たち、愛美が全てなんだ…」
「もう、後戻りはしません…」


あれは、真実……?

「本当…咲乱なんて、大嫌いだよ……」
「俺も…咲乱先輩なんて、大嫌いッス…」


これは、嘘……?
そうなら、二人の顔は無表情なんかじゃなくて……。


「凄く、辛かったッス……」


悲しみ―――?


「……っ」


嘘、あの二人が……。


「……だから、あの時……名前を……?」
「……そうだよ。っ俺…、気付いてから、また咲乱って呼びたかった……」
「……ゲンキンなのは分かってるッス。…でも、懐かしさが込み上げてきて……」


肩が振るえている二人。
……ああ、また一つ、真実を知った。


「……桃先輩」


リョーマが桃城に声を掛ける。


「……悪いな、越前。…あの時の俺の気持ちは、この気持ちがあったからなんだ……」


切なそうに笑ってリョーマを見ている。
その微笑を見ると、リョーマは目を逸らした。


「……っ今更、そんな事言ったって……」


リョーマは、まだ青学の皆を許していないみたい。
私は、リョーマの方を見て、


「……いいのよ、リョーマ。……もう大丈夫。気持ち……よく分かったから」
「……っ」


虐めが起きてから、私は青学の皆は感情を失ったみたいに見えた。
酷くて
簡単に人を裏切って
とても卑怯な人たちだって……。
でも
ちゃんと、人を想う気持ちが残っていた……。
そうでしょ?


「……愛美」


特に、貴女は。


「………。分かったでしょ?貴女は、今でもこんなにも人に想われてる」


投げ出すように言葉を吐くと、


「……っだから、こんな事は止めて……」


少し視線を落として、


「……勝手に、幸せになれば…?」


直接私の目を見ずに言ったけど、気持ちはちゃんと分かったよ。
私は、フェンスから手を離した。


「っ咲乱……」


すると、皆が私に近寄ってくる。


「……ごめんなさい、皆…」
「謝らなくていい。…もう、こんな事はすんなよ……?」
「………うん」


言うと、皆の顔がほっとした。


「……ほら、あんたは……いつの間にかこんなにも人に囲まれるようになっていたのね」


そう言うと、愛美はいつもの笑みじゃない笑みを見せて、


「……それが、信じ合える仲間…なのね」


静かに、呟いた。


「……愛美には、居なかった。……これからも」


そう言った愛美の姿は、とても儚く見えた。


「……周助」
「………」
「今まで、ごめんなさい」
「…愛美…」
「……本当に、好きだった。…愛していた」
「っ、愛美…!」


愛美は、私たちの前から消えるように屋上を降りていこうとした。
でも、周助は愛美の腕を掴み、


「待って、愛美っ!」
「っ離して!真実が分かった以上、もう皆の前に居られない……っ」
「そんな事ない!……っ愛美は、僕と同じだったんでしょ…っ?」


周助の言葉に、愛美の抵抗が収まる。


「……素直に、人を想う事ができずに……。違う道に入ってしまった……ねぇ、そうでしょ……?」


愛美の周助への愛が、私をこんな風にさせた。
それは、決して恨まないよ。


「っ……そう、よ。愛美が卑怯なだけよっ!もうこんな愛美を愛してくれる人なんて居ない……。皆は愛美から離れていってしまうんでしょ!」
「それは違うよ、愛美……」
「っ…!」


愛美が私達の方に向き直すと、


「愛美……っ」


青学が、愛美に向かって走り出していた。


「っ皆……」


愛美は驚いた様子で立ち尽くす。


「どうして……」
「…俺達が、どうして咲乱先輩にあんな事をしたか…。その理由が、答えッス…」
「俺は、愛美の為にやったんだよ…?気付いていても……」


私への行為が、愛美への愛……。


「……俺達にだって、反省すべき点がいくつもある。…お前一人が背負わなくていい」
「…元はといえば、俺達が悪かったんだから……」
「……っ皆…本当に……?」
「うん。俺達は、愛美から離れないよ」
「……俺もッス」


愛美の周りを、青学が囲んでいた。
それはまるで、愛美だけが悪いんじゃない、と言っているようだった……。

愛美、どうやら……貴女の思っている以上に、青学は貴女の事を何より大切にしていたみたい……。