運命って、僕達を嘲笑うようにやってくる。

それを、操っているやつは、
一体何を望んでいるんだ―――





不二side



「……手塚、織の事、本当に信用していたんだね」
「……。あいつは、優しかった……」
「それだよ。…そんなの、上辺だけ。……僕達はそれに騙されていたんだ……」


優しさ≠ネんて、欠片もない奴だったのに……。


「……織の提案で、咲乱を無視≠キるようになったのは……ある意味楽だった」


だって、青学と関わることも無い。
嫉妬をすることもない。
だって、肉体的傷を負わない。
心配することもない。
だって、咲乱と関わりを持たない。
感情が目を覚ますこともない……。


「咲乱をいない≠ニ思えば、僕の気持ちは楽になるんだ……」


ふと咲乱を見ると、切なそうに下を向いている。


「……でも、あの時は本当に驚いた……」


咲乱が、僕の服の裾を掴んでくれた。


「……咲乱が、まだ僕を想ってくれてると思うと……凄く嬉しかった」


つい、声を掛けてしまいそうになった。
でもそんな事できない。
今更―――


「……だから、僕は徹底的に咲乱を無視した」


心では、咲乱を恋しく思っていていたけど、それを止めるにはこうするしかなかったんだ。


「………ごめんね、咲乱」


織が死んだ時も、酷いくらい君に言葉を浴びせた。
これが、本当の別れだと思っていたんだ。
咲乱が学校に居られなくなればいい。
織の事件で、学校中が凍えたようになって、全員の矛先が咲乱に向かう。
そして僕達が咲乱を追い出せば……。

僕は本当に、咲乱を忘れられる。


「っ…なのに、また会ってしまって……」


運命って、本当に皮肉なものだった。
僕が必死で抑えてきた感情を、こうも簡単に呼び覚ましてしまうんだから。
咲乱との再会。
これほど、僕にとって刺激的なものは無かった……。


「この合宿は、僕の運命を左右する出来事ばかりだった。……本当、この感情を消したいよ」


愛してるという気持ちだけは、強くなる一方。


「……っごめんね、咲乱……。ごめん……愛してるんだ……」


よろよろと咲乱へ近づいた。
咲乱は、一歩後退り、僕を見た。


「…不二……、」
「…もう一度、名前で呼んで……咲乱……」


目の前に、咲乱が居る。
ああ、この手で君を抱き締めたかった。


「っ周助……」


僕の手を、咲乱の白い手が握った。


「っ……愛してるよ、心から……。こんな風に……歪みでしか愛せなくて、ごめん……」


気付いたら、雨じゃない別の雫が僕の頬を濡らしていた。


「っ私…も、気付けなかった……」


君にも同じ雫が。
それは僕の為なの?

こんな人形みたいな僕の為に……?


だめだ、愛しい―――