感情を全て捨てて
云われるがままに、動くしかない。

そう、操り人形みたいに―――





不二side



雨は相変わらず降り続いている。
そんな中、僕は全てを話そうとしていた。


「……咲乱。まず初めに、君にずっと言いたかった言葉がある……」
「………」


咲乱は少し不安そうに、僕を見ていた。


「僕は……君が大好きだった」


その言葉に、愛美以外、全員が目を丸くした。
……いや、跡部や幸村辺りは目を細くして僕を睨んだかな。


「っ不二…?お前……」
「だって、不二……」
「皆、僕に喋らせて」


納得のいかない様子だったけど、僕は無理矢理話を続けた。


「咲乱、これは、僕なりの守り方だったんだ……」


全ては、たった数時間の会話で変わった―――





「ねぇ、周助」
「………」


昼休み、突然愛美に呼び出された。


「今日はね、どうしても周助に言いたいことがあるの」
「………」
「ねぇ、返事をして?」
「僕は君に話すことなんて何も無い」


まだ僕が咲乱を信じ、守り続けていた頃だった。
愛美に呼び出され、少しの苛々があった。


「あら、怖いのね。……咲乱だったら、喜んで話を聞くのに……」


その呟きに、僕は愛美の方を向いた。


「愛美、知ってるわ。…貴方が、咲乱の事が好きだって事」
「………それが、どうしたんだい?」


図星を当てられたからか、
愛美が咲乱の話題を出すからか、
とにかく、嫌悪感でいっぱいだった。


「……愛美、ね……周助の事が好きなの」
「………」


いきなりの告白に、僕は驚いたけど、特に何も返さなかった。


「……本気よ?」
「…だとしても、僕はそれを受け入れない」


僕には、咲乱が好きだという気持ちがあるから。
だから、咲乱を陥れた愛美と付き合うなんて、絶対に考えなかった。


「……それが返事でいいの?」
「うん。僕は、咲乱が好き。……君とは付き合えない」
「……あら、そう」


愛美は黙って、少し俯いた。
すると、すぐに顔をあげて、


「断ったら、咲乱が酷い目に遭うと言っても?」


その言葉が、僕を縛り付けることになったんだ。


「え……?」
「愛美と付き合わないのなら、これ以上に咲乱に傷ついてもらう」


僕は、その言葉の意味がよく分からなかった。
つまり、


「貴方の判断次第で、咲乱の生死が決まると言ってもいいわ」


僕が、咲乱の運命を……?


「……僕が君と付き合ったら、咲乱には……」
「…そうね、考えてみようかしら」


その時の笑みは、まるで悪魔のようだった。
こんなの、全て愛美の企みだって分かってる。
でも……僕も、あんなに傷ついている咲乱の姿を見るのは辛すぎた。
僕が我慢するだけで咲乱が救われるのなら……。


「……本当に、咲乱に手を出さないんだね?」
「ええ。愛美からはね。でも……」


その次の言葉は、更に残酷だった。


「貴方に、咲乱への気持ちを捨てて欲しい。愛美だけを想って……」


僕の気持ちの方向さえも、愛美は操ろうとしていた。
僕が愛美を好きだと言えば。
完全に咲乱に嫌われる。


「っそれは……」
「それが駄目なら、咲乱には……」
「、分かったよっ」


僕は、肯定するしかなかった。

今思えば、最後まで咲乱を守ってれば……。
それからの日々が、地獄とならなかったのに。
僕は気持ちを押し殺して。
思っても無い言葉を口にして。
そう、あれは……

まるで人形のような日々だった。