幸せなんて、そう簡単に掴めないから。
もう、願う事もしない。

自ら、捨ててしまうから―――





No side



愛美は青学の皆に体調が悪いからという理由で先にバスに乗っていた。

『すぐ来るから』

そう言っていたのに、まだ皆は来ない。


「……遅いなぁ…」


何か、問題でもおきたのか。
愛美は、ふと、外を見た。


「……あぁ、そういう事ね……」


愛美は、少し目を細めた。





咲乱side



「……さようなら、皆」


言葉にする度に、少しの罪悪感が押し寄せる。
……これでいいの。
私に幸せは、もういらない。


「……手に入らないと、分かっているから……」


私は、幸せを捨てます。
織と……同じ所に行きます……。
フェンスを乗り越えようと足を掛けたその時―――


「咲乱っ!!やめろ!!」
「っ…皆……!」


氷帝の顔が見えた。
……それに、立海の皆も。


「……どうして、ここに来たの?」
「っどうしてやあらへん!なんでっ…咲乱……」
「なんで…こんな急に……っ!」


忍足と向日が、息を整えながら叫ぶ。


「急に……?…違うわ。私は、初めからこうするつもりだった……」
「…っ初めから…?」
「…そう。この……合宿が始まる前から」


自分の運命を悟っていたから。
二度と笑う日は来ない。
二度と幸福な日々は訪れない。
それに……、


「…キリが良くないと、私もけじめがつけられないから……」


今まで、何度死のうと思ったか。
その度に、勇気が無くて断念した。


「……今日で、けじめがつけられる…。皆とは、お別れ……」
「っどうして…?」


ジローが目に涙を溜めて呟いた。


「…ねぇ、咲乱…っ。また…俺たちのマネージャーやってくれるって……言ったよね……?」
「………」
「一緒に、氷帝に戻って……。今度は俺たちが、全力で守ってあげるって……ねぇ、咲乱……」


ジローが頬に涙を伝わせているのが分かる。


「………ごめんなさい」
「っそんな言葉が聞きたいんじゃないよっ!」


謝罪の言葉を言った私に、ジローは怒鳴るように言った。


「っ一緒に、帰ろうよ……」
「………」


私は、今度は答えなかった。
代わりに、視線を逸らした。


「……っ咲乱さん…お願いです…。戻ってきてください……」
「……鳳…。…もうだめなの…」
「なんでだめなんですかっ…!まだ、貴女は幸せに……」
「なれないの、もう。……諦めたわ」
「そんな諦める必要ありませんっ」
「……ありがとう、そう言ってくれて」


それでも、私はその場から離れない。
でも…まだ、フェンスの向こうには立ってない。


「どうして貴女がそうする必要が……っ」
「…日吉、これは、私が決めた運命≠セから…」
「っそんな運命……」
「…私は、こうしたいの」


じゃないと、これから後悔する事になる……。
また、この日のこの時間を、恨むことになる……。
私は……皆の前から消えた方がいい―――


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