目にして。
五感で感じて。
全てに気付いて。

それが、あの人への償いなんだ……―――





No side



跡部に手紙を渡した越前は、既に青学の部屋に着いていた。


「っ……」


部屋の前に来て、少し迷った。

先輩たちに伝えていいのだろうか。
先輩たちは何を言ってくるだろうか。
先輩たちはどう反応するだろうか。
もし、見捨てたら……。


「……っ、すんません…!」


越前は、意を決して青学の部屋のドアを開いた。


「……!…越前……」


集まる視線。
様々な瞳が、越前を捕らえている。
だが、何故かその中に藤堂が居ない。


「先輩たち……聞いて欲しいことが……」
「何?…てめえ、どの面さげてここに来てんだよっ!」


海堂が怒鳴った。
しかし、越前は怯まず、


「咲乱先輩がっ…!」
「「「!」」」


名前を出すだけで、すぐに反応する青学。
越前は続けて、


「今……屋上に居るッス…」
「……そんなの、知ったことじゃねーよ…」


桃城が視線を逸らす。


「っ何で屋上に居るか分からないッスかっ?」
「知らないよ。そんなこと……」


菊丸が吐き捨てるように言った。


「……咲乱先輩は、…屋上から飛び降りようとしてるんスっ…!」
「………そうか。なら、させればいい」
「部長…っ!」
「…そうだな。あいつがそうするのなら、止めても無駄だ。……いや、止める必要は無い」


乾が眼鏡を掛け直しながら言った。


「……っ先輩…」


やはり、変わらない。
越前が対応に苦悩している時、


「っおい、青学っ!!」


跡部と幸村が部屋に入ってきた。


「……またお前たちか」
「手塚……。今すぐに、屋上に来い」
「……何だ。部外者は立ち去ってくれ」
「どこが部外者だっ!いいからさっさと来い!」
「誰がついていくかっ!」


二人が来ても、青学の意志は変わらない。


「……跡部、少しいいかい?」
「…っだが」
「大丈夫。向こうは絶対に間に合う」
「…っ……ああ」


跡部は、焦る気持ちを抑えて幸村の話を聞くことにした。


「…じゃあ、まず…。藤堂さんはどこにいるの?」
「……そんなこと、聞いてどうするんだよ…っ」
「いいから。ねぇ…教えて?」


幸村は一人一人の目を睨んだ。
緊迫とした空気が流れる。


「……愛美は、まだ体調が良くならないから先にバスで待ってる……」


そんな中、大石が口を開いた。


「っ大石先輩……」
「…そうか。……じゃあ次。君たちは、どうしてそこまで咲乱を拒むの?」
「……何度も言ったはずだ。あいつは愛美を……」
「本当にそれだけ?」
「………」


幸村の問いかけに、手塚は答えなかった。


「……君たちは、真実を目にするまで動かないつもりだね…。……それなら、付いてきなよ。君たちの答え、はっきりと出てくるから」
「「「…………」」」


幸村は、それだけ言うと、踵を返して歩き始めた。
それに続いて、大石が歩み始める。


「大石先輩っ!乗せられちゃだめッスよ!」
「……桃、俺は……疲れたんだ。もう。早く……真実を見た方がいい……」


更に、河村も続く。


「っタカさん……」
「…ごめんね、皆……。でも、俺も大石と同じ気持ちだよ……。こんなの、もう嫌なんだ……」
「……っ」


そして、少しの間が経ち、


「……俺も行こう」
「!乾先輩……」
「見るのも悪くない……。何より、これで俺たちが変わるとしたら……。それも、いいだろう」
「……っなら…俺も……」
「海堂……」


そして、次々と部屋を出て行く青学。


「……お前はどうすんだよ、不二」
「………」


残るは不二だけとなった。


「……僕一人、ここに残っても仕方ないよね」


一歩、踏み出した。


「でも、その代わり……」


跡部と越前、二人を見て、


「知らないよ?」


鋭く、二人を睨んで、


「…何が起こっても、何を目にしても…………僕は、知らないから」


言って、スタスタと歩き始めた。


「………越前、俺たちも行くぜ」
「…ッス」


二人も、別の方向から屋上への道を走った。
後に、不二の言葉の意味が明らかになる。