全部、貴方たちのおかげ。
嫌いだったものが、初めて……

綺麗って思えた―――





「そして……私は、氷帝に転入してきた」


……これで、私の過去は全て話した。


「……リョーマ、ごめんね」
「え……」


織が転入してきた頃から、リョーマとは会う機会が無くなった。


「……『さよなら』も言わずに…居なくなっちゃって……」
「……そんなの、気にしてないッスよ……」


嘘…。
顔が、そんな顔してない…。


「……氷帝に来て、落ち着きたかった」


過去……青学の事を忘れる為に。


「………」
「……でも」


氷帝が顔をあげる。


「……運悪く、あんたの隣になっちゃった」


跡部を見て、微かな苦笑いをした。


「……そう、だったな」
「私の第一印象、最悪だったでしょ」
「……まあな。自己紹介があれだもんな」
「…仲良くしようと思って来てるわけじゃなかったしね」


笑顔を見せるわけもなく、名前だけ言って、自ら自分の席に座った。
そして、HRが終わると同時に席を立ち、初日から授業をサボる。
……これで好印象を持つ人は居ないでしょ。


「……それで、数週間で女子からの反感を買ったのか?」


宍戸が聞いてきた。


「まぁね。跡部が話しかけてくるから、それに少し答えるだけで……」
「なんや、跡部。自分から話しかけたん?」
「……担任から面倒見るように言われたんだよ」
「何にしろ、反感を買ったのは確かよ」
「……それで、また……?」
「そう。呼び出されるようになったわ」


呼び出される事に恐怖を感じる事は無くなったから、もう平気だったけど。
それでも、女の嫉妬の表情は気に入らなかった。


「……呼び出された時、お前はどうしたんだよ?」


向日が聞いてきた。


「……言われっ放しにはしなかったわ。私も少し言い返した」
「……それで、相手はどうしたんですか?」
「私のこの性格に相当頭にきてたみたい。何回か制服を買い換えたわ」


高いのにね……。
制服をボロボロにするのが好きな人たちだった。


「……そうか。気付いてやれずに、悪かったな」
「……謝らないで。一番に気付いたのは貴方だった」


あの日、あの時。
私の腕を引っ張って、闇から連れ出したのは貴方だった。
この出逢いが、私をここまで成長させてくれた。


「……悪い、咲乱…」
「…?どうして宍戸が謝るの?」
「俺……お前がマネになってから少しの間……お前の事が嫌いだった……」


反省しているような顔をして、俯きながら言った。


「……気にしないで。私は、嫌いになってくれることを望んだんだから」


関わらないで欲しいって。
関わりたくないとも思ってた。


「……俺も、姫さんには酷い事言うたなぁ」
「……そうだったかしら?」


今までの事があったから、全然気にしてない。


「……私はあれでも、氷帝は居心地が良いと思ってたわ」
「…そうか」


私の事を何も知らない。
上辺だけで決め付けてる。
何も知らないから、接しやすかった。


「……これで、私の話したい事は全部…」


過去、想い……。
全て話した。


「……もう、いいの?」


精市が優しい笑みで聞いてきた。


「…うん」


窓を見ると、空が広がってる。
今、私は気分が軽い。
空も、綺麗だと思える。
嫌いだった空、太陽……。
今では、見つめることができる。
一人じゃないって思える。
こんな気持ち、初めて―――