今は授業の合間の休み時間。
そんな時間、跡部は一人学校内を彷徨っていた。


「ん?跡部じゃねーか。どうしたんだよ」


偶然、向日に会った。
一人でうろついている跡部を不思議に思ったのか話しかける。


「向日か、ちょうどいい」
「え?なに?」
「放課後、服飾室に集まれ」
「集まれって……なんで?」
「いいから。それと、同じクラスのジローと宍戸の奴にも伝えておけ」
「お、おう」


それだけ言って、跡部は向日の横を通り過ぎた。
どうやらその用件を伝えに回っているみたいですね。
対する向日は何が何だかわからなかったが、とりあえず頼まれたことを全うしようとした。


「……おい日吉」


そして次、跡部は日吉に声をかけた。


「跡部さん……どうかしましたか?」
「お前、確か鳳と樺地と同じクラスだったよな?」
「ああ、はい」
「だったらそいつらにも伝えろ。放課後、服飾室に集まれってな」
「……わかりました。でも、どうしてですか?」
「ん?ああ……別に」


断る理由もないため、快諾する。
だが内容は気になったため聞いてみるも、跡部は答えようとしなかった。
わざわざ追及することもないかと、日吉は別の話題を口にする。


「それって、もしかして麻燐にも伝えるんですか?」
「ああ……そうだが、」
「だったら俺が伝えておきましょうか?ちょうどそっちの校舎に用事ありますし」
「いや、いい。俺は部長だからな」
「……でも、もうすぐ授業始まりますよ」
「構わない」
「(構わないのかよ)」


相変わらずだなと日吉が何も言わないでいると、納得したと思ったのか跡部は背を向け歩き出した。
だが、少しして振り返り、


「俺は部長だからな」
「(2回目……)」


決して麻燐に会いたいわけではないと言いたいのだろうが、逆効果です。
いろいろと空回りをしてますね。


「……子供かあの人は」


日吉は呆れた様子で跡部の後ろ姿を眺めていた。





「……ん?チャイムか」


別の校舎の麻燐の教室まで向かうのに、とうとう授業が始まる時間になってしまった。


「まぁいいか」


あなたそれでも生徒会長ですか。
跡部は特に気にした様子もなく、麻燐の教室へと足を進める。
というか、もちろん麻燐の教室でも授業が始まっているわけで。
大丈夫なんですかね。


「えーと……ここだな」


跡部は教室の目の前まで来て確認する。
そして、


「麻燐いるか?」


ガラッと、何の躊躇いもなくドアを開けた。
教室にいる皆さん唖然としてます。


「あっ!景ちゃん先輩!」


麻燐以外。


「よう麻燐。ちゃんと勉強してるか?」
「うん!ちゃーんと先生のお話聞いてたよ!」


そしてその先生は突然訪問してきた跡部に口をあんぐりと開けてしまっています。
こんなの初めてだったんでしょうね。


「あれって、テニス部の部長だろ?」
「そうよ、跡部様だよ……!」


こそこそ話が始まる。
男子は珍しいものを見たとざわめき、女子は興奮で黄色い声を出してしまいそうになっている。
もう授業どころじゃありません。


「でもどうしたの?」
「ああ、麻燐に直接言うことがあってな」


別に直接じゃなくてもいいと思いますが。


「?なにをー?」
「今日の放課後、服飾室に集まることになった。俺が迎えにくるまで、ここに居ろよ?」
「わかった!」
「ふっ。すぐに言わないと、お前は張り切って部室に向かいそうだからな」
「うん、ありがとー!」


麻燐からお礼を言われ、ついでに一緒に行く約束までこぎつけた跡部。
これが狙いなんでしょうか?


「……跡部くん、用は済んだかね?」
「ええ。失礼しました」
「景ちゃん先輩ー!ばいばい!」
「ああ、またな」

「(……早く卒業してくれんかな)」


突然の訪問と授業を中断してまで言うべきではなさそうな内容に、先生は思わず心の中で呟く。
色々な意味で問題児な彼が卒業すれば、きっと授業も静かにできるようになります。
先生は跡部が教室を出て離れていくのを確認して、溜息をついたものの授業を再開しました。


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