「……相変わらず凄いね、麻燐ちゃん」
「んー?何が?」
「だって、あのテニス部制レギュラーに送り迎えさせちゃうんだもん」


麻燐が教室に入ると、女の子の友達が寄ってくる。
同学年でも麻燐は人気者ですし知らない人はいないくらいの有名人です。
あのテニス部のマネージャーであり、さらに今みたいに仲良くしているからですね。
かと言って、恨まれたりはしていません。
麻燐を虐めたら、テニス部や麻燐のファンクラブがすっ飛んでくるだろうというのが大半の理由です。


「あはは、皆が優しいからだよー」
「うーん……それは麻燐ちゃんに対してだけだと思うなぁ」
「私も……」


でもそれ以前に、裏表のない純粋で真面目な麻燐自身が認められていると考えた方がよさそうですね。


「そういえば、テニス部は学園祭の出し物は何にするの?」


友達の内の一人が、興味津津の様子で麻燐に聞く。
麻燐は笑顔で、


「こすぷれ喫茶!」
「「「コスプレ!?」」」
「うん、皆ノリノリだよっ!」


いや別に、ノリノリなのはごく一部だけなんですけどね。
この麻燐の発言が、大きな宣伝効果となりそうな予感です。


「出席を取りますよー。席に座りなさいー」
「あっ先生おはよー!」
「ああ、笠原さんが戻ってきたんですね。また賑やかになりそうです」
「うん!」


担任の先生は眼鏡をかけた少し高齢の穏やかそうな男性の先生だ。
その先生が教壇に立ち、話し始める。


「皆さんもすでに聞いていると思いますが、5日後に学園祭があります。今日は、このクラスの出し物の意見を聞こうじゃないですか」
「はーい!お化け屋敷!」
「売店ー!」
「展覧会ー!」


次々に挙手がされ、意見が述べられる。
その意見を黒板に書いていくうちに、先生がふと気づく。


「おや、珍しいですね。メジャーな喫茶店が出てこないなんて」
「あ、せんせー!テニス部で、喫茶店やるよー!」
「そうなんですか。また派手にやりそうですねえ」
「うん!」
「「「(そりゃあ、あのテニス部と競いたくないから……)」」」


皆さん、同じ喫茶店はやりたくないみたいです。
あのテニス部と比べられたらたまったもんじゃないですからね。

その原因でもある麻燐は、終始にこにこして話し合いを聞いていました。





その頃。


「はぁ……なかなか難しいな」
「どうしたん?」
「学園祭の出し物だ。……男の衣装がな」
「ああ、確かに。思いつかんわな」


教室に戻った跡部と忍足は悩んでいた。
女の子の衣装はいくつも浮かぶのに、男の子の衣装はあまり思いつかない様子です。
……それもどうかと思いますが。


「あら、何を悩んでらっしゃるの?」
「………安藤か」
「随分素っ気ないんですね。久しぶりに会ったのに」


ここで登場したのは安藤美衣。
元々はテニス部のファンクラブだったが、今では麻燐の魅力に惹かれて麻燐ちゃまファンクラブの会長をしている。(詳しくは日常編の変化で)
その美衣が、二人に近づいた。
跡部は面倒そうに見ている。


「麻燐ちゃまに会いたかったのに、ギリギリまでミーティングしてるなんて……ファンクラブを舐めてます」


気のせいか、少し怒っているようにも取れる態度。
テニス部から麻燐に乗り換えてからというもの、今みたいに積極的に話しかけてくるようになった。
同じく麻燐を愛でているという仲間意識なのか逆にライバル意識なのか分からないが、それは別に良くも悪くも皆さんは気にしてないみたいです。


「堪忍な。今俺らおもろいこと考えてん」
「部活の出し物よね?」
「ああそうや。なかなかアイデアがなぁ……」
「それは大変。でも、コスプレについてなら私に良い考えがあるんだけど……」
「ほんまか?助かるわー」

「(……ん?なんでこいつ知ってるんだ?)」


忍足は美衣の発言を気にしていないが、跡部は疑問に思った。
テニス部の出し物がコスプレ喫茶だと知っているのは部活関係の人物だけ。
加えて、美衣が来てからの会話にも「コスプレ」というワードは出てきていない……。


「………まぁいいか」


すぐにホームルームも始まるため、跡部は深く考えようとしなかった。