「行ってきます!」
「いってらっしゃい麻燐!変な人を見つけたらすぐに大声を出すんだぞ?」
「もうパパったら。麻燐はもう子供じゃないのよ」
「それはそうだけど……」


翌朝。今日からいつもの日常に戻ります。
麻燐が手を振りながら学校へ向かおうとする姿を、パパは名残惜しそうに見る。これも日常です。


「こんな可愛い麻燐がそこらを歩くなんて……危険すぎるじゃないか!」
「あっ、もうこんな時間!遅刻しちゃうからもう麻燐行くねっ!」
「行ってらっしゃい。パパのことは気にしないでね〜」
「はーい!」
「あっ麻燐!」


麻燐はいつものことなのでやはりお構いなし。
心配で叫んでいるパパのことを再び見て、笑顔を見せて学校へと向かった。





「おはようっ皆!」
「あ、麻燐ちゃん!おはよう」


部室に入ると、すぐに出迎えたのは鳳。
綺麗な微笑みで麻燐の頭を撫でてます。


「麻燐も来たし、全員揃ったな」
「えーと、今日は衣装と担当決めだっけか?」
「そうだ。コスプレというからにはありきたりな恰好は却下だ。客寄せにならねえ」


跡部は腕を組んで司会をしてます。
その隣ではホワイトボードに書き込む用意をしている樺地。


「でもよコスプレって、例えば何があるんだよ」


宍戸が問う。
それに腕を組んで考える人と、すぐに例をあげる人に分かれます。


「そうやなぁ、メジャーからいくと、やっぱりメイドさんやバニーさん、チャイナドレスもええなぁ」
「着物とか、白衣とかもいいんじゃない?」


忍足と芥川です。
それ以外の人は興味なさそうな顔をしたり呆れたりしてます。


「うーん、麻燐はよくわかんない」
「うんうん、麻燐ちゃんはそれでええんやよ?」


忍足が微笑ましそうな目で麻燐を見て、頭を撫でようとすると、


「汚れた手で麻燐に触るな」
「なにそれっ目怖っ!」


さっきの忍足の発言で完全に汚物≠ニ判断してしまった跡部が忍足の手首を掴む。
ミシミシ言ってます。


「つーかっ!俺がそんな扱いやったらジローかてそうやろ!」
「アーン?ジローのはマシだろ」
「なんでや!」
「露出が少ねえ」


どうやら跡部の基準はそこみたいです。


「ろしゅつ?」
「……麻燐は気にしなくていい」


頭の上にハテナマークを浮かべる麻燐に、首を振る日吉。
部長があんな感じの今、麻燐を冷静に守るのはあなたしかいません。


「でも、今お二人が言った衣装って、女の子用ですよね」
「あーそういえば」


鳳の言葉に宍戸は頷く。
確かに、今あがった意見の中の物ほとんどが女性用だ。
強いて言うなら、着物と白衣は男性用もありますが。


「肝心な俺達の衣装が決まらねーじゃん」
「んー、そう言えばそうだねえ」


向日が跳びながら頬を膨らませる。
芥川も他にコスプレが思い浮かばないのか、首を捻る。


「確かに。一応メインは俺達みたいなもんやからなぁ。……うーん」


あの忍足でも考えてます。
やっぱり興味のない方向には詳しくないみたいです。


「ここは女の子の麻燐ちゃんに聞くしかないですね」
「おい待てよ鳳。麻燐がコスプレなんか知るわけねえだろ」
「聞いてみるだけですよ」


そう言って跡部の発言を振り切り、鳳は麻燐を見る。


「ねえ麻燐ちゃん、麻燐ちゃんは何か案ある?」
「うーん……」
「麻燐ちゃんが凄いなとか素敵だなって思うような男の人の服ってどんなの?」
「うーん……あっ」


何か思いついたらしく、手を叩く麻燐。
全員が次の言葉を待つ。


「お巡りさん!お巡りさんは凄いと思う!」
「警官服か……」


跡部が顎に手を当てる。


「ありだな」
「まじかよ」


跡部の反応に宍戸がいち早く反応する。
予想外だったみたいです。


「あとは何かあるか?」
「えーと……あ、スーツもいいと思う!」
「スーツ?」
「うん。ママがね、スーツが似合う人は素敵って言ってた!」
「麻燐ちゃんのママかぁ……きっと、可愛らしい人なんやろうなぁ……」


忍足は想像していますが、その予想が当たっているのかはよくわかりません。


「確かに、スーツにきゅんとくる女の子は多いって聞きますしね」
「そうなのか?」
「はい。眼鏡をプラスすると更に好評価らしいです」
「つまり、大人な知的っぽさがいいってことだな」


跡部が指示して、樺地がホワイトボードに今の内容を移す。
丁度書き終えたところで朝部活の時間が終わった。


「……もう時間か」
「結構早いですね」
「ああ。続きは放課後だ。解散!」


跡部の号令で、それぞれ立ち上がり部室から出た。
そして皆さんは麻燐を無事教室に送ってから自分の教室に向かいます。
これが自然となっているのが不思議です。