「とりあえず、今日はここまでだ。合宿の疲れもあるだろうから真っ直ぐ帰れ」
「……結局、跡部の我儘で決まったようなもんじゃねーか」
「何か言ったか、向日」
「いや別にー」


今日は日曜日。
5日間の部活が終わってすぐにこのミーティングなので、今回はこれで切り上げるようです。


「いいか、明日から学園祭の準備に入る。遅れずに来いよ」
「はーい!」
「わかったー!」


その跡部の呼びかけに楽しそうに返事をしたのは麻燐と芥川だけ。
他の皆さんはいま一つの反応。


「ってことは、部活の時間を学園祭に移すってことかよ」
「そうなりますね」
「あーなんか面倒だな。テニスできねぇじゃん」


毎年のこととはいえ宍戸がぶつくさ言ってます。5日間みっちり練習したというのに、まだ足りないようです。
3度のご飯よりテニス大好きなこの人なら仕方ないですね。


「ええやん。部活はでけへんけど、麻燐ちゃんの可愛らしい姿が見れるんなら構へん!」
「侑士、きもちわりぃ」
「がっくん、本気で思っても口に出すもんやないで」
「そんなことより、明日は何をするんですか?」


鳳が笑顔で跡部に聞く。意外と乗り気なようです。
そんなに学園祭が楽しみなんでしょうか。


「ああ……そうだな、主に衣装決めと、担当決めだな」
「わかりました」
「えへへー、麻燐は何にしようかなぁ」
「麻燐ちゃんのは俺が決めてあげるからね」


そう言って鳳は麻燐の頭を撫でる。


「おいおい、長太郎はやる気なのかよ」
「せっかく麻燐ちゃんの初めての学園祭なんですから、楽しまないと」
「確かにそうだC!でも、鳳には選ばせたくないなー」
「そうや!麻燐ちゃんのは俺が選ぶ!」
「「「お前(あんた)はだめだ」」」
「何で俺には皆してツッコむんや……」


あなたが変に鼻の下を伸ばしているからですよ。


「忍足さんなんですから、絶対に妙なのを選ぶに決まってます」
「そんなの分からんやろ日吉。俺かて可愛い麻燐ちゃんにはそれ相応の衣装着させたいんや」
「へー。じゃあ例えば?」


向日が少々疑わしい視線を送りながらも忍足に聞く。
忍足は拳を作り、


「俺的にはナースさんや!ガーターベルト着用、純白もええけどピンクの天使さんが俺は好きや!本当はバニーさんも捨てがたいんやけど、病み上がりの麻燐ちゃんにまた風邪をひかれたら困る!」
「解散だ」


熱弁する忍足、すぐさま指を鳴らし号令をかける跡部。


「ちょお待てや!まだ話は終わってな、」
「先輩方、お疲れさまでしたー」
「おー」
「皆して無視か!?」


どうやら皆さん、忍足の発言は予想済みのようで。
早々に荷物を持って立ち上がりました。


「ゆーし先輩、」
「麻燐ちゃん……」


その中忍足に話しかけるのは、身の危険を感じていない麻燐ちゃん。
忍足を汚れない目で見つめます。
そんな麻燐の目を見て少しだけ胸が痛んだのは忍足しか知りません。


「麻燐ね、小さい頃、将来の夢ナースさんだったの!」
「そ、そうやったんか?」
「だからね、麻燐はナースさんでも……」
「だめだめっ!麻燐ちゃんはもっと可愛いのじゃないとだめ!」


ナースは断固反対だと芥川。


「でも、ナースさんも可愛いよ?」
「確かにナースは俺達の夢でありロマンだけどっ!」
「(俺達って……勝手に仲間に入れるなよ)」


宍戸が少し頬を赤くしながら心の中で呟く。
想像してはいけませんよ。


「おいジロー、そんなことは明日考えろ。置いてくぞ」
「あ、待ってよ跡部ー!」
「麻燐も行くー!」


帰りはいつものように跡部のリムジンで帰るみたいです。
氷帝テニス部、仲良く車に乗り込みました。





「ただいまー!」


麻燐は5日振りの我が家に足を踏み入れる。


「おかえり麻燐っ!!」


すぐに出迎えてきたのは麻燐パパ。
愛娘を見るなり、抱き上げます。


「あら〜、麻燐ちゃん。帰ってきたの?」
「あ、ただいまーママ!」
「にゃあ」
「あ、蓮くんも、ただいまぁ」


リビングの方から出てきたのは麻燐ママとオスの黒猫の蓮くん。
麻燐ママが抱きかかえています。


「パパは心配でたまらなかったぞ!麻燐、怪我や病気にならなかったか?」
「うーんと、少し風邪になったけど、大丈夫だよ」
「風邪!?もう大丈夫なのか!?」


麻燐パパはかなりの過保護なのか、麻燐の額に自分の額をくっつける。


「大丈夫だよ〜!麻燐、もうこんなに元気!」
「そうか…それならいいんだが……」


麻燐パパは安心したのか麻燐を降ろす。


「だけど、5日間もパパと離れ離れなんて、麻燐は寂しかっただろう?」
「そんなことないよ!」
「!!」


いきなり麻燐に否定されてショックを受けるパパ。
それをママは微笑ましそうに見ている。
どうやら、ママは常人のようです。


「すっごく楽しかった!麻燐ね、ちゃんと皆の役に立ったよ!」
「凄いじゃない麻燐。あの氷帝の子たちと仲良くなれたの?」
「うん!皆もね、楽しかったって言ってた!」
「さすが私の娘だわ。ふふっ、きっと皆麻燐の可愛さにノックアウトしちゃったんじゃない?」


前言撤回です。
ママは小悪魔のような雰囲気を出してます。
見た目は麻燐と似ているんですが……。
麻燐が自分の魅力に気付いたらこうなる、という感じですね。


「なんだって!?麻燐は誰にもやらんぞ!」
「パパは甘いのよ。麻燐はもう中学生なんだから、弄ぶ男の1人や2人や10人くらい居るものなのよ。ね、蓮ちゃん」
「にゃー」


いやいやいや。
あなたと同じにしないでください。


「もてあそぶ?」
「麻燐ちゃんは気にしなくていいんだよ。それよりママ、もしかしてママは中学の時……」
「ふふ、パパは知りたいの?」
「………いや、いいです」


ママ強し。
ですが、麻燐はこれが当たり前の光景なので気にしません。


「ほら麻燐ちゃん、今日は麻燐ちゃんの好きなオムライスよ」
「わーいやったー!ママ大好き!」


麻燐はママの後についていく。
それを未だショックを受けている様子のパパが更についていく。

麻燐が戻ってきて、笠原家もいつも通りに戻りそうですね。


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