「これから緊急ミーティングを行う」 合宿から帰ってきて早々、跡部が部室にテニス部レギュラーを集めました。 もちろん、麻燐も皆の輪の中にちょこんと座っています。 「何やねん、そんな真剣な顔して」 「跡部にとっちゃ、重大なことなんだろうよ」 「Aー?麻燐ちゃんのメイド服姿見たいC!」 「絶対にだめだ」 跡部が芥川に向けてぴしゃりと言う。 本能的に麻燐の安全を守ろうとしていますね。 「確かに、俺もあれはちょっと……」 「だよな……。いくら学園祭でもメイド服なんてのは……」 「さすがにスカート丈が短すぎでしたよね」 「そこかよ」 どうやらメイド服に関してはOKのようです。 いつになく真剣に呟いた鳳に宍戸が思わずツッコむ。 「んーと、学園祭はメイド喫茶をやるの?」 麻燐ちゃん、メイド喫茶の意味がよくわからないので聞いてみます。 「違う!」 「そうや!」 「……?」 跡部と忍足の意見が真逆で、麻燐がさらに頭を傾げる。 その様子に日吉は額に手を当てた。 「どうするんですか。学園祭は5日後ですよ」 「そうだ。だから緊急ミーティングだ。何かメイド喫茶より良い案を言え」 「そう言われてもなぁ……学園祭なんて、喫茶店がメジャーだろ?」 「だったら宍戸、麻燐にメイド服を着せていいのか?」 「そ、それはまた違うだろ……」 跡部のあまりの形相に宍戸がたじろく。 跡部は本気です。合宿で培われた保護者力が光ります。 「じゃあ、お化け屋敷は?」 「麻燐に気味の悪い化け物の恰好なんてさせられるか」 「受付でいいじゃん」 「俺達のいない間に誘拐でもされたらどうするんだ」 ここは学校なので誘拐なんて起きないと思いますが。 跡部の本気の表情で皆何も言えません。 「じゃあ……何か屋台とか、」 「俺様がそんなことできると思うか」 「じゃあどうすればいいんだよ!」 向日が文句ばかり言う跡部に、うんざりだと声を荒げる。 跡部は眉を寄せ、黙った。 「ん〜。跡部は麻燐ちゃんのメイド姿見たくないの?」 「んなわけねーだろ」 あ、そうなんですか。 あまりに素直に言う跡部に一同がコケそうになりました。 「ただ、その姿を見て妙な気を起こす輩がいるから困るんだよ」 跡部がため息交じりで告げる。 「メイド喫茶でええやん〜。可愛え麻燐ちゃんが見れるんやで?」 ここで、その妙な気を起してしまいそうな人第1位の人が声をかけました。 跡部がぎろりと忍足を睨む。 「こわっ!やけど、他に案もないし、監督も乗り気やし……悪いとは思わんけどなぁ」 「……忍足、よく考えろ。メイド喫茶≠セろ?」 「そうやけど?」 「……メイドが、麻燐一人で足りると思うか?」 その跡部の問いかけに、忍足がはっと気付く。 「まさか……テニス部員が、女装せなあかんのか……?」 「げっ!」 忍足の言葉に嫌そうな顔をしたのは向日だけじゃない。 芥川以外が何か不味い物でも食べたような顔になりました。 「えっ!皆もメイドさんになるの?」 「そうだねぇ、麻燐とおそろいになるね〜」 「しねえよ。俺達テニス部の気品を落とすつもりか」 「忍足さん、言いだしたんならやってくれるんですよね」 「さ、流石の俺でも女装はできんわ!見るんはええけど」 ジト目で言う日吉に忍足が慌て出す。 その様子を見て、ようやく跡部が安堵の息をつき、 「やっと気付いたか。鈍いんだよ。なぁ樺地」 「ウス」 「あかん!ほな、メイド喫茶やなくて普通の喫茶店にしようや!」 「それでも結局喫茶店なんですね」 「しょうがねえだろ?他に意見が出ねーのは一緒なんだから」 日吉の呟きに宍戸が答える。 どうやら、喫茶店というのはほぼ決定になりそうです。 「あっ!」 「どうしたの?麻燐ちゃん」 今まで静かに成り行きを見守っていた麻燐が急に声を出しました。 隣に居た鳳が優しく聞いてみる。 「麻燐にね、いい考えがあるの!」 「いい考え……?」 「うん。普通の喫茶店だと、他の人たちと被っちゃうかもしれないでしょ?」 麻燐の言葉に皆頷く。 確かに、喫茶店はオーソドックスだ。 何のひねりもなければ、客を惹きこむことはできない。 それは跡部も考えていたようだ。 「……だからって、あまり金をかけるとこいつらがうるせえしな」 「ったりまえだ!あんなの学園祭の域を超えてるぜ」 どうやら去年は跡部が何かやらかしたようです。 宍戸が呆れたように言った。 「だからね、皆で色んな人になろうよ!」 「……色んな人に、なる?」 「それってもしかして、」 「うーんとね……こすぷれ≠チてやつ!」 麻燐の口からそんな言葉が出たことに驚く一同。 一番に反応したのは忍足だ。 「コスプレ!ええやん!それやったら他の喫茶店と比べて色が出るし、女装もせずに済む!」 「しかもこのメンツだからな……女子の客が多く来そうだぜ」 向日が跡部や鳳辺りを見て呟く。あなたもその一員ですよ。 少し嫌味を含んだ言い方でしたが、二人は気にしていない様です。 「面白そうですね。それなら衣装代を考えればいいだけで、他は少しの費用で済みますし」 「確かに……簡単に客寄せはできそうだが、コスプレ喫茶とするからには、麻燐も何か着るんだろ?」 鳳はまだ常識的に予算を考えてくれているのか、ふむふむと納得する。 他所との差別化という面では一理あると、跡部も顎に手を添えながら呟く。 そして、問われた麻燐は、 「うん!だって、皆ばっかりにさせるわけにはいかないし、麻燐だってテニス部の一員だから!」 「さすが麻燐だC!コスプレは俺が選んであげるからねっ」 「ジロー先輩はだめです。絶対変な趣味丸出しのを選んでしまいそうですから」 「ふうん。鳳よりはマシだと思うけどなぁ」 おっと、黒い空気が漂い始めました。 この二人によって、コスプレ喫茶はほぼ確定となりそうです。 「コスプレですか……。また面倒なことになりそうだな」 「激ダサだぜ……。俺、厨房がいい」 日吉と宍戸が力無しに呟く。 合宿が終わって一難去ったと思ったのに、すぐにまた一難やってきたという感じですね。 「だめだ。役割は俺が決める」 「な、なんでだよ!」 「俺様だからだ」 「わけわかんねーし!」 跡部の我儘に宍戸は何度も抗議するも、跡部は折れなかった。 今年は麻燐が居るので、自分で慎重に決めたいようです。 対する麻燐は、自分の意見が無事に通り、皆の手助けとなれたと思って満足げにその様子を見ています。 さて、どんな学園祭になるのか……今から楽しみでもあり、不安でもあります。 |