それからは皆で楽しくトランプや人生ゲームをして遊んだ。
先輩や後輩関係なく。
麻燐も楽しそうに混ざって皆と笑っていた。


「おい、ババ抜きってなんだよ。……人生ゲーム?なんで俺様の人生を勝手に決められなきゃいけねーんだよ」


ただ一人、遊びについていけない人も居ましたが。
他の皆さんが呆れを通り越してどう接すればいいのか迷っている時、


「えっとね、ババ抜きは……」


一人優しく教えてあげている麻燐を皆さんは微笑ましげに見ていました。
いつもは跡部に教えられてばかりの麻燐が、逆に跡部に教えている光景を見るのがこんなに和むものとは、誰も予想していなかったでしょう。


「(……なんだか、少しおませな娘持ってるお父さんの図、じゃねぇか?)」
「(んー……というより、娘が自立しかけてそれを戸惑いながらひしひしと感じているお父さんの図、だろ)」
「おい向日と宍戸、何か言ったか」
「「何も言ってません」」


地獄耳なところは相変わらず恐ろしいですね。


「……なるほどな。じゃあつまり、金を一番多く集めた奴が人生の勝者、だと」
「うん!いろんな事が起きて楽しいんだよ!」


人生ゲームのルールまで教えてもらって、どうやら理解した様子の跡部。


「ふっ……ふははは!だが俺様がキングだ!」


完全にやる気のようです。


「………誰かあのテンション止めてくれない?」
「我慢や越前。ああなった跡部は誰にも止められん」
「ふっ、手強そうだが、不意をつけば操りやすそうだな」
「柳さん……部長で遊ぶのは止めてくださいよ」


忍足と鳳が何とか他校のテンションを保させてくれました。
さて、跡部もルールを理解したところで遊びを再開し、皆さんは合宿の最終日をとことん楽しみました。





「………うーん……麻燐、もう眠い……」
「っえ!?もうかよ?……まだ10時過ぎだぜ」


夕食が終ったのが7時だったので、約3時間ほど遊んでいたことになりますね。
眠たそうに目をこする麻燐を切原が驚いたように見る。


「そういや、麻燐はいつも9時に寝てるんだよな」
「くっ9時ぃ!?」
「くす、そういえば麻燐ちゃんは寝るの早かったね」
「うー………ふぁ……」


もう限界なのか、大きな欠伸をして隣にいた樺地にもたれかかってしまった。
急に麻燐の身体がもたれかかってきても、樺地は動じない。


「……まぁ、夜更かしはするもんじゃねぇからな、皆解散だ!」
「えー!?もうかよ!」


向日が少し渋る。
まだ遊びたいんだろう。


「うるせーぞ向日。お前、今日は麻燐と同室なんだろ?責任持って送ってけ」
「い、いいけどよ……」


少し機嫌が斜めの跡部に、う、とたじたじの向日。
そこで忍足が横から口を挟む。


「まぁまぁ、岳人、察したるんや。跡部かてもうちょい遊びたいに決まってるやろ」
「は……?」
「折角麻燐ちゃんに教えてもらったんやで?もっと麻燐ちゃんと遊びたいに決まってるやん」
「おい、侑士……」


目の前の向日が、忍足の後ろを指差す。
それに気付いた忍足が後ろを見てみると、


「締められたいのか?」
「っか、堪忍や……!図星ついてもうたんは謝るから!!」


どこから手に入れたのか、太い縄を両手に持ちながら低い声で言った。
忍足は今までに感じたことのない迫力に即謝罪。


「あ、あはは〜……む、向日っ!俺も麻燐ちゃん運ぶの手伝うよ!」
「お、おう」


空気を察した菊丸と向日が樺地から麻燐を受け取り、部屋に運ぶ。


「あ、それでは私も……」
「おい柳生」
「何ですか?仁王くん」
「麻燐に手ェ出したら似非紳士説学校中に流すからな」
「っわ、私はそんな破廉恥なことしませんよっ!」
「どーだか」


あの隠れ鬼以来、少し仁王の柳生を見る目が変わったようです。


「仁王先輩、なんでそんなに疑ってんスか?柳生先輩がそんなことするわけないじゃないッスかー」
「そうだぜぃ。赤也じゃあるまいし」
「って俺もしないッスよ!」


柳生ムッツリ事件を知らない人は柳生を信用しているみたいです。
それを聞いていた菊丸は思わず苦笑い。
仁王がまた一つ、柳生の弱味を握りました。


「っこほん、それでは……失礼させてもらいます」


柳生は冷や汗を浮かべ眼鏡を直す素振りをしながら二人の後をついて行った。


「あれ?乾たちは行かないの?」
「ああ、もう少ししたら行くさ」


動かない乾と柳に、大石は声をかける。
そして帰ってきた答えが、


「「もう少しここに居たら面白いデータが取れそうだからな」」
「そ、そうかい……」
「ていうか、テニスのデータは?」


越前がまともな事を言いました。
そろそろ自分の学校のデータマンの方向性の危機に気付く頃でしょうか……。


「……で、何で俺様を見てんだよ!」
「麻燐が関わるとお前の素が見れそうだからな」
「大丈夫だ、麻燐に言うつもりはない」
「お前らには関係ないだろうがっ!乾はノートをしまえっ!!」
「ふむ……。むきになるところがますます、」
「い、いい加減にしないと合宿が終わった後お前らの悪口を麻燐に流し込むぞ」


跡部渾身の脅し。
……少し小学生みたいな発想ですが。
それに乾と柳は一度黙って、


「……分かった。それならば仕方がない(部屋に戻ったらこのデータも加えておかねば)」
「……そうされると困るからな(跡部……意外と幼稚らしく可愛いところがあるんだな)」


跡部さーん。
二人の中の跡部さんの印象ががらりと変わりましたよー。
そうとも知らず、当の本人は、


「おう、分かればいいんだ」
「「(かなり単純だな)」」


そう思い残して、部屋に戻った。





「………何してるんだ、菊丸」
「にゃああっ!か、勘違いするなよ乾!」


部屋に戻ると、早速変な現場に遭遇したデータマン二人。
菊丸がパジャマのボタンが上半分しか閉じてない麻燐のボタンに手を伸ばしていたからだ。


「……何があるのかは大体想像がつくが、本当に襲ってるみたいだな」
「し、仕方ないじゃんっ!麻燐がこんな状態なんだからさ〜っ」


麻燐は本当に意識朦朧で、今にも倒れて眠ってしまいそうだった。


「うー……英二ぃ……」
「にゃ!だ、だめだって麻燐〜〜!」


麻燐は限界なのか菊丸に抱きつく。
まだパジャマの上の方のボタンが閉められていないので、菊丸は動いていいのかよくないのか分からないでいた。


「っくそくそ菊丸!麻燐から離れろー!」
「菊丸くん!破廉恥ですよ!」
「そ、そんな事言ったって……じゃあ麻燐を離してよー!」
「ちっ、しょうがねぇな……。ほら麻燐、起きろー」
「んみゅ……」


麻燐は完全に菊丸に抱きついて眠ってしまった。


「……………きのこの山があるぜ」
「っふえ……きのこ……欲しい……」
「麻燐……?」


きのこという単語に反応した麻燐に、菊丸が驚いて向日を見る。


「麻燐が言うことを聞かない時は、大抵これを言えば反応するんだよ……」
「……なかなか大変なんですね」
「あ、麻燐が離れてくれたっ」


向日は菊丸から離れた麻燐にきのこの山を渡すと、麻燐は少し目を開けた。


「ほら、それやるから、自分でボタンを閉めようなー?」
「……うん……」


麻燐は素直に聞き入れ、きのこの山を枕元に置いてパジャマのボタンを閉め始めた。
こうして見ると、向日もきちんと先輩をしていますね。


「……流石氷帝だな。麻燐の扱いに慣れている」
「いや、慣れっつーか……」
「ふっ……麻燐の性格を理解するには時間がかかったな」
「そ、そうなのか……」


向日は初めてのデータマンにどう反応すればいいのか分からなかったが、とりあえず相槌を打っていた。


「……できたぁ…」
「よし、じゃあ麻燐のベッドはここだから、もう寝てもいいぜ」
「うん………皆、おやすみなさい……」
「ああ、おやすみ」
「おやすみにゃ〜」
「おやすみなさい」
「良い夢を見ろよ」
「疲れただろう。ゆっくり休め」


それぞれが麻燐に優しい言葉をかけると、麻燐は安心して目を閉じた。
それを見届けた皆も、


「それでは、私たちも眠りましょうか」
「そうだにゃ〜…」
「じゃあ、ベッドの場所を決めなきゃな……」


向日がベッドを見る。
麻燐は当り前のように真ん中なので、また揉めることになるだろう。


「それなら、俺は端で構わないぞ」
「俺もだ」


柳と乾がごく普通に言った。
口喧嘩になると思った向日は拍子抜けだ。


「それでは私たち3人で取り合うことになるんですね」
「いや、柳生……君もやめておいたほうがいいんじゃない?」
「な、何故ですか!」
「仁王にばれたらどうするの?」
「…………。仕方ありません。諦めましょう」
「(どんだけ仁王こえーんだよ!)」


向日は改めて仁王は恐ろしいと確信し、菊丸と視線を合わせ、眠ることにした。

明日はいよいよ青学と立海とお別れです。
きっと、麻燐はまだ合宿の夢を見ていることでしょう。


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