「麻燐……大分大胆になったね」
「ほえ?」
「少しだけ心配になってきたよ……。ああ、明日でお別れだなんて……」


二人は優しい顔で麻燐に話しかける。
麻燐は何の話かいまいち分かっていないが、つられて笑う。


「麻燐も寂しいな。せっかく仲良くなったのに……」
「そうだね。でも大丈夫。麻燐がもう少し大人になったら、もっと俺と仲良くできる方法があるから」
「ほんとう?」
「うん。だから、その時は俺の部屋に……」
「幸村。麻燐に変な話をしないでくれるかな。麻燐は僕ともっと仲良くしたいよね?」


お二人とも、少しは自重してください。


「ふふ。不二はこの合宿を通して変態になったんじゃない?」
「幸村だって人の事言えないよ。麻燐のこといやらしい目で見てるじゃないか」
「その言葉、金属バットで打ち返してあげるよ」


と、麻燐を挟んで言い争っているところ、誰かがやってきました。


「麻燐ーーー!」


この二人の間に入れるのは、同じ部類の人しかいませんよね。
走ってきたのは芥川。


「あっ!ジロ先輩!」
「ほらほらっこっち!皆もう待ってるよー!」
「ほんと?麻燐も行く!……っあ、でもそっちは食堂じゃないよ?」
「えへへ、それは着いてからのお楽しみだCーっ!」


芥川は太陽のような笑顔で麻燐を連れ去る。
それに成功した時の不二と幸村をみた顔はとても麻燐に見せられるものではありませんでした。


「……芥川、相変わらず邪魔ばかりするね」
「そうだね。……今日くらい、一緒に居させてくれてもいいのにねえ」


幸村のその言葉は少し寂しそうにも聞こえますが……。
表情は悪魔です。怖いです。


「まぁいいさ。僕は都内だからいつでも会えるしね」
「ふふ、それはそれは、直球な嫌味をありがとう」


この醜い争いも今日までと思うと、安心しますね!


「「あとで夢に出に行くぞコラ」」


………あなたたち本当は仲が良いんじゃないんですか…っ。





「ほら、ここっ!」
「うわぁっ……皆いる!」


天使のような笑顔で麻燐を部屋へと案内する芥川。
着いた部屋のドアを開けると、そこには3校仲良く盛り上がっている光景。
真ん中には、いつもより豪華な夕食。


「あれ、ここって……」
「そ!あの広いホールなんだよー。跡部が頼んで、床に畳をいっぱいに敷いたんだ!だから、いっぱい遊べるC!」


芥川がVサインを麻燐に送る。
麻燐は楽しくなってきて、部屋に入った。


「みんなーっ!ひさしぶり!」
「おっ麻燐!」
「元気になったかー?」


一番に寄ってきたのは切原と桃城。
桃城に連れられて越前も居た。


「うん、もうばっちり!皆のおかげだよ!」
「そうか、ならよかったぜ」


切原はポンポンと麻燐の頭を撫でる。


「見た目から、完全に直ったみたいだな!よかったなー、越前」
「なんスか、桃先輩……」
「ったく、素直じゃねぇなあ……。麻燐、越前なぁ、お前の風邪が心配で全然練習が身に入ってなかったんだぜ?」
「え!そうなの?リョーマくん」
「そ、そんなわけないじゃん……。桃先輩も変なこと言わないでよ」
「へいへい」


それでもにやにや顔の桃城。後輩をからかうのは楽しそうですね。
越前は口を尖らせ、桃城を少し睨んだ。


「おーい麻燐ー!もう身体は大丈夫なのかー?」


少し話をしていると、遠くから麻燐を呼ぶ声。
それは氷帝の集団の中から聞こえた。


「あっ!がっくん先輩が呼んでる!じゃあ皆、またあとでね!」


3人に手を振り、氷帝のメンバーの元に向かった。
忍足もいつの間にか戻ってきていたようだ。


「みんな!」
「麻燐ちゃん!」


元気な姿を見て安心したのか、鳳が麻燐ちゃんをすり寄せる。


「あはは、痛いよチョタ先輩〜っ」
「心配したんだよーっ!だから練習の時も、何発かサーブミスしちゃったんだ……」
「そうだぜ。鳳のせいで俺と樺地の顔に……ほら、見てみろよ」


向日が自分の頬と樺地の頬にあるガーゼを指差す。


「あっほんとうだ!……大丈夫?」


麻燐が鳳の元を離れ、向日に寄る。
そしてゆっくり、ガーゼの張られている部分に触れた。
向日の頬は、麻燐が背伸びをすればなんとか届く距離にあった。


「……少し、腫れてる……」
「こっ、これくらい平気だぜ!」


麻燐に触れられ、少し頬を赤くする向日。
麻燐の顔がこんなに近くにあり、嬉しくも、少し複雑な気持ちになっていた。


「(くそくそっ……2年も先輩なのに、この身長差かよっ……!)」


なんだか自分に腹を立てているようですね。


「痛いの痛いの、飛んでいけーっ!」


麻燐がおまじないの言葉を言う。


「っ……麻燐……」


その麻燐の優しさに、向日の心は感動に打ち震えていた。
これだけで、鳳のサーブを顔面に受けたこともプラマイゼロになりますね。


「おー、こう見とると二人ともめっさ可愛いわー」
「…………」


向日は麻燐から離れ、忍足にキックを食らわした。


「いたぁっ!な、なんやねんがっくん!?」
「うるせー!もう侑士なんかとは絶交だ!!」
「!?!?」


急に相方に見限られた忍足は目を白黒させた。
ですが今回は仕方ないですね、向日のコンプレックスを刺激してしまいましたから。


「えっと、樺ちゃん先輩も……」
「………ウス」
「ん……っ!……うう、」


その間にも、麻燐は樺地に向日と同じことをしようと試みる。
だが、
背伸びをするも、跳んでみるも、樺地の頬には触れられない。
その姿を、心の中では可愛いと思っていた跡部も、流石に可哀想に思え、


「……樺地、しゃがんでやれ」
「ウス」


親心は優しいですね。
麻燐は、やっと届く位置にある樺地の頬に触れてさっきと同じことをした。


「……向日さん、何落ち込んでるんですか」
「うるせぇ日吉!お前に俺の気持ちが分かるかっ!」
「………まぁ、触れないでおきますけど」


大体察してはいますが、日吉も先輩への心遣いができるようになってきましたね。


「わか先輩、お見舞いにぶちょーからたけのこの里もらったの!きのこの山じゃないけど……あとで一緒に食べようねっ」
「………ああ……。別に俺は、たけのこでもきのこでもどっちでもいいんだが……」


最期の呟きは麻燐には聞こえてないようにした。
麻燐の誠意は正直のところ、嬉しいからだ。


「麻燐、忍足には何もされなかったか?」
「それ本人の前で聞くか?」
「?ずっと寝てたから分からないけど……すごく優しく看病してくれたよ!」


跡部はどうもそれが一番心配だったようです。
ですが麻燐はにっこり笑顔で言います。


「そうか……。寝ている間に………」
「………いややなぁ景ちゃん。そんな疑いの目を向けて……」


忍足は説得するも、跡部は親バカパワー発動中なので聞きもしません。
そんなに心配していたのなら、麻燐と忍足が二人きりの時は尋常じゃないくらい心配していたでしょうね。


「大丈夫ですよ、跡部さん」
「鳳……!自分、とうとう俺の事信用して……っ」
「ちゃんと見張ってましたから」
「HOW!?」


忍足は頭を抱える。


「もー、皆してゆうし先輩を虐めちゃだめだよー!ゆうし先輩のおかげで、麻燐の風邪もどっかいっちゃったんだから!」


ここで麻燐が庇いに入る。
その行動にほぼ全員が動揺した。


「麻燐が……忍足さんを庇った……?」


日吉が眉を寄せる。
いつもならいつものこと、と気にしないでいる麻燐なのに。
……まぁ、それもどうかと思いますが。


「麻燐、どうしたんだ?」


この件には宍戸までも気にしているようだ。
麻燐に問う。


「?だって本当のことだもん。ねー、ゆうし先輩っ!」


きらきらと可愛らしい笑顔で忍足を見る。
忍足はその親切で天使のような麻燐に涙をこぼしそうになった。


「っ……ついに、俺の想いが届く日がっ……!あかん……俺、もう悔いはないわ……っ」
「ならそのまま逝っちゃう〜?」
「冗談です何でもありません」


後ろからの芥川の囁きに一気に背筋が伸びた忍足。


「……怒られるのは、ゆうし先輩より麻燐だもん……」
「え?」
「だって、今日は合宿最後の日なのに……風邪で休んじゃって……」
「麻燐……まだんなこと言ってたのか」


跡部が優しそうに微笑む。
そしてしゃがみ、麻燐の頭に手を置いた。


「だから、言っただろ?お前はそんな心配しなくていいって。俺たちは、本当の事言うと、テニスより麻燐の方が大事なんだぜ?」
「でも……」
「麻燐、んな暗い顔すんなって。折角元気になったのに……ほら、もっとお前の元気な顔、見せろよ」


宍戸も子供を慰めるかのようにして麻燐に言った。


「りょー先輩……」
「皆、同じ考えだぜ。だから、お前は気にしなくていい」
「……うん、わかった。じゃあ、また明日から、頑張って頑張ってサポートするからね!」
「おう、楽しみにしてるぜ」


跡部が笑うと、それにつられて麻燐も笑った。


「じゃあ麻燐、飯食おうぜ!」
「うん!」


どうやら麻燐が来るのを待っていたのか、まだ他の学校も加えて、誰も夕食を食べていないようだ。
話も一段落ついたところで、跡部がステージに上がる。


「麻燐も戻ってきたところだ。これから夕食の時間にする」
「「「いただきまーす!!!」」」


この時を待っていたと言わんばかり、全員が大きな声で言い、豪華な食事を食べ始めた。


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