それからというもの。
午後は計ったかのように入れ替わりでお見舞いに来る人が居ました。


「麻燐ー、大丈夫か?」
「俺たち、凄く心配しで急いで試合終わらせてきたんだよ」
「宍戸、自分の方が大丈夫やなさそうやわ。鳳、まさか相手に一服盛ったんちゃうやろうな?」


汗だくの宍戸と爽やかな笑みを浮かべる鳳。
麻燐以上ある宍戸の汗に忍足が眉を寄せて言った。
鳳からは一瞬消されそうになってました。
その後は、


「顔色良好。体温も1時間前より下がってる。これなら心配無用だな」
「麻燐さん、汗はちゃんと拭かないと身体によくありませんよ?よければ私が拭いて差し上げ……」
「柳、自分1時間前の麻燐ちゃんの体温分かるんか。……で、そっちのは本当に自分とこの紳士なんか?」


もはやストーカー&変態と化そうとしている立海のお二人。
どうやら柳生は変装した仁王ではないようです。
忍足は麻燐が及ぼしたであろう立海への影響について少し頭を抱えた。
その後も、


「麻燐、調子はどうだ?たけのこの里を持ってきたのだが」
「俺、麻燐が元気になるようにいつもより張り切っちゃったんだもんねー」
「手塚、自分それにこだわるなぁ。……いくら菊丸が張り切ったかて関係ないと思うんやけど」


丁寧に両手でたけのこの里を差し出す手塚に忍足も丁寧にツッコむ。
菊丸のVサインにも冷静に。
そして、


「ふふ、どうやら麻燐は元気になったみたいだね」
「そうだね。頑張った甲斐があったよ」
「………お二人さん、随分遅い登場ですね」


何の間違いで不二と幸村の二人が一緒に来たのかは気にしない。
そして、何を頑張ったのかはあえて聞かないようにする少し賢くなった忍足。
いつもすかさずツッコんでいましたが、流石にこの二人にそんな勇気は持てませんね。


「あ、二人も来てくれたんだ!」
「当たり前だよ。麻燐ちゃんの為ならね」
「一人や二人、犠牲を問わないよ」


それは止めてください。


「まぁ冗談だけどね」


貴方の冗談は冗談に聞こえません。
それではさっき、トイレに直行した真田は何も関係がないんですね。


「………………………ふふ、」


絶対に何かある。
忍足も確信しました。


「病み上がりだから今日は無理なことしないよ。僕たちは夕食に呼びに来たんだ」
「え、でも麻燐……まだ、菌持ってるかもしれないし、」
「それなら心配いらへん。今日1日安静にしとったんや。もう大丈夫のはずや」


それにもし菌が移ったとしてもここには、麻燐の菌ならむしろ来い、みたいな人たちが多いですからね。
平気でしょう。


「いいの?」
「うん。ほら、一緒に行こう?」
「っうん!」


麻燐は表情を輝かせ、ベッドから降りた。


「忍足にはここの片づけを任せても良いかな?」
「あ……お、おお、ええよ」
「今日は麻燐に手を出してないみたいだからね。許してあげるよ」


まるでずっと監視していたみたいな言い方。
忍足は苦笑いで返す。


「あ、じゃあちょっと待って!」


不二と幸村が麻燐を連れて行こうとした時、麻燐は立ち止まる。
そして、くるっと方向を変えて、


「ゆーし先輩、ごめんね?」
「「「!?」」」


そのまま忍足に抱きついた。
まさかこんな展開になると思ってなかった3人は言葉を無くす。
不二も開眼しています。


「麻燐ちゃ……」
「今日1日、練習時間を潰して麻燐の看病してくれて……」


ぎゅ、っと抱き締める力が強くなる。
これには流石の忍足も本格的にやばいと本能で感じました。


「でもね、麻燐、すっごく嬉しかった!寂しくなかったし、1日で治ったのも、ゆーし先輩が看病してくれたからだと思うの!」


にこっと笑う麻燐。
忍足は自分の顔が赤くなっているのを隠すために口に手を当てて、


「……そ、そんなん気にせんでええて…。麻燐ちゃんの為や……あ、当り前やろ……」


変態は真正面からの攻撃に弱いみたいですね。


「本当に、ありがとう!」


そう最後に言って、不二と幸村の後をついて行った。
その小さな後ろ姿を見送った忍足は、


「……………あかん。マジで心臓ばくばくしとる」


がくん、とベッドに座った。
そして自分の胸のあたりを手で押さえた。


「………………」


そして、


「惚れてまうやろ……っ!!」


一人で声を押し殺しながら言いました。