「………」


あれから少し時間が経った。
その間、忍足はずっと麻燐の呼吸を聞いていた。
少しでも乱れたら、すぐに落ち着かせないといけない。


「……そろそろ、朝食終わった頃やろか…」


時間を見ると丁度7時半。
朝食が終わる時間だった。
となると……、


「麻燐!!」
「やっぱ来たか……」


心配で心配でたまらない人なら、すぐにでも見舞いに来るでしょう。
ノックもしないで部屋に乗り込んだのは向日と芥川。


「麻燐、風邪かよ……」
「ああ、そうやな。ちょっと無理しすぎたんや」
「麻燐死んじゃうの……?」
「縁起でもないこと言うなや。それに、俺がついとるから安心し」
「えー……」
「何やその目、めっさ悲しいわ」


芥川が少し不満そうな視線を向けるが、今は麻燐の方が心配のようで、すぐに麻燐を見た。
向日も同じように麻燐を見つめる。
昨日まであんなにはしゃいでいたんですから、心配でしょうね。


「俺だって看病したいCー…」
「ジローだと麻燐と一緒に寝るだろ」
「うー……」
「まぁ、心配なのはよう分かるわ」
「麻燐はすぐに治る?」
「ああ」


忍足が言うと、二人は少し安心したようです。
普段変態じみていても、流石は医者の息子。
こういう時は頼りになります。
するとまた、足音が聞こえました。


「忍足、麻燐はどうだ?」
「跡部……。今、ぐっすり眠っとる」


視線で跡部に伝える。
跡部も麻燐を見たが、特に苦しそうな様子もないのでほっと胸を撫で降ろした。


「問題はないようだ。樺地、食堂に居る奴らにコートに行くように言っておけ」
「ウス」
「(居たんか……)」


樺地も心配そうに麻燐を見ていたが、すぐに自分の告げられた仕事に移る。


「しかし、跡部が人の心配なんて珍しいやん」
「ふん、麻燐だからな……」


親バカ発動ですね、分かります。
忍足も少し苦笑気味だが、気持ちは分かるので何も言わなかった。


「麻燐が風邪ってほんとッスか!?」
「っも、桃先輩……引っ張らないでよ……」
「おお、桃城と越前やん」


ドアの方を見ると走ってきた様子が伺える桃城と、その桃城に腕を掴まれている越前が居た。


「さっき不二先輩から聞いて、飛んできましたよー」
「心配なのは分かるけどな、もう少し静かにしてや」
「あ、すんません……」
「なんで俺まで……」
「んだよ、心配してるくせにー」
「………」


今朝は起きることができなかっただけで、風邪と知るとちゃんと心配なようです。
桃城の意味ありげな視線に越前は睨んで返した。
おお怖い、と忍足も思うが、微笑ましいとでもいうように二人を見ている。


「でも普通に寝てて安心したッス!なぁ、越前」
「……まぁ、そうッスね」


今度は越前も少々素直に答えた。


「にしても、自分らはコート行かんでええの?」
「お、俺らは……もう少しここに居る」


向日が呟く。
隣の芥川も同じのようだ。


「俺たちは早く戻らないと部長に怒られるか?」
「そうかもね。手塚部長だし……」
「そうなのか?やっぱ俺手塚苦手……」


向日が呟く。
桃城はその言葉に苦笑いで返し、


「んじゃあ、麻燐が無事なのも分かったことですし、俺ら帰ります!」
「おう、またなー」


桃城と越前は別れを告げると部屋から出る。
忍足はそれを見送った。


「んで、部長の跡部はええのか?」
「俺様はいいんだよ」
「……さいですか」


聞いた自分がバカだった、と思う忍足。
大体答えの予想はついてましたね。
しばらくの沈黙。


「ん……?」
「あ、麻燐……また起きたんか?」
「うん……」
「麻燐ー!」
「大丈夫か?」
「あ、みんな……」


横に見えた芥川と向日の姿に麻燐はふと笑顔になる。


「麻燐は平気だよ。……来てくれて、ありがと……」
「今日は1日ゆっくり休め」
「景ちゃん、先輩……」


優しく言葉をかける跡部を見る。
休め、と言われた時少し悲しい顔になったが、麻燐は何も言わなかった。
また自分が我儘を言って困らせるわけにはいかないからでしょう。


「うん……わかった…。皆、練習頑張ってね」
「あったりまえだろ!」
「麻燐の分も頑張るC!」
「えへへ……」


麻燐は安心したのか、再び瞼を閉じた。
すぐに寝息も聞こえる。


「………。よし、行くぞお前ら」
「ああ、分かった」
「もう少し居たいけど、仕方ないC〜」
「忍足、お前には悪いが、1日ついてやってくれるか?」
「ああ、ええよ。麻燐ちゃんが元気になるまでついとったる」


跡部はその言葉を受け取ると、部屋から出た。
他の二人も、名残惜しそうだったが麻燐と約束したので跡部の後に続いてコートに向かう。
パタン、とドアが閉められ、再び静かな空気が流れた。


「………ほんま、愛されとるな」


良かったな、と麻燐の頭を撫でる。
麻燐はすーすーと静かな寝息を立てている。


「しかし、おもろいなぁ」


こうやって見ると、麻燐と他の人の人間関係がよく分かりますからね。
普段見せない態度を、麻燐には見せている。
……というか、無意識に心を許しているのだろう。
麻燐≠ニいう存在が、氷帝だけでなく他の学校にも欠かせないようになってしまった。
この5日間の合宿で。
そう思うと忍足は少し妬けた。


「今日は大変な1日になりそうや」


はぁ、と忍足は笑みを作りながら呟いた。