ペットショップから全員が満足そうな顔で出てきた。
中でも麻燐は幸せそうに首輪の入っている袋を抱えていた。


「宿舎に戻ったら早速プレゼントしようぜ」
「うん!」


丸井の言葉に楽しそうに返事をする麻燐。
その顔を見るだけで他の皆さんの心も和んでいます。


「あ、そういえば今何時〜?」
「今は……4時だな。帰るのに30分かかるとして、あと寄るとしたら1か所だ」
「1か所……手塚部長は寄りたい場所とかあるんスか?」
「……俺は、ルアーが見「はい却下!」


芥川に即答され手塚のモチベーションが10下がった!
手塚は体操座りをしている!


「手塚、今度にしろ」
「………」


少し哀れに見ているが仕方ない、というような顔で見る跡部。
麻燐が楽しめるとは思えませんからね。
手塚は黙って渋々頷いた。


「あっ!麻燐ね、もう一つだけ寄りたいとこあるの!」
「A〜?どこどこ〜?」
「んーっとね……あそこ!」


そうやって指を差したのは、ペットショップの向かい側にある手芸店。
麻燐以外が首を傾げた。


「手芸店……?何か作りたいもんでもあるのか?」
「えへへー秘密!あそこは麻燐だけで行ってくるから、皆はワンちゃん達と戯れて待っててもいいよ?」
「麻燐だけとか危険だCー!」


駄々をこねるかのように叫ぶ芥川。


「もし忍足とか幸村とか不二みたいな変態ストーカー野郎にでも遭遇したらどうするの!ね、皆!」
「「「(俺らにどんな反応求めてるんだよ……!!)」」」


芥川の言葉に賛同するのは自殺行為です。
忍足だけならともかく、芥川は黒いので二人の魔王の侮辱も遠慮なしです。
その勇気が羨ましいです。


「?ゆーし先輩たちは皆優しいよ?」
「行くなら俺も行く!」
「おいジロー、我慢しろ。麻燐だって一人で買い物したい時もあるだろ」
「何だよ!一番心配してんの跡部のくせに〜」
「う、うるせえ」


今携帯を片手にボディガードを呼び出してるのはどこのお坊ちゃんでしょうか。
跡部はさっと携帯を仕舞った。
図星だったのか、呼びだすのは止めたらしい。


「っとに氷帝は過保護な奴らが多いな。麻燐、すぐ戻ってこれるんだろぃ?」
「うん!ちょっと買ってくるだけなの〜」
「なら平気だな。俺らここで待ってるから行って来いよ」
「わかった!ちゃんと待っててね!」


麻燐は手を振って、走り出す。


「待て麻燐!道路を渡るときは右手を挙げ「跡部、麻燐は小学生じゃねーだろ」……」


そうだった、と跡部ははっと口を抑える。
……もうだめですね、この部長。

そして麻燐の姿が無事手芸店へ入ったのを見て、跡部は安堵の息をつく。
この程度で心配するのならこの先がかなり思いやられます。


「にしても、何なんだろうな?」
「手芸と言えば、マフラーとか思い浮かべるが……これから本格的な夏の時期だしな」
「もし誰かに渡すとしたら相手が気になるなー」


少し黒い笑みで告げる芥川。
他4人はナチュラルに無視します。触らぬ神に祟りなしです。
そして気まずい雰囲気が少しの間流れた。


「ただいまー!」
「おかえりー」


良い子に右手を挙げて渡ってきた麻燐にすぐに飛びついたのは芥川。
そして次々と近寄る。


「結構早かったな」
「うん!買うの決まってたから!」
「何を買ってきたんだ?」
「えへへ、秘密ー」


跡部が聞いてみても笑顔で誤魔化した。
いつもなら笑顔で自慢してきそうな麻燐なのに、どうしたんだと一瞬皆不思議に思った。


「んー?なんか見せたら恥ずかしいものでも買ってきたのか?」
「そんなー、忍足じゃないんだからぁ」


丸井の言葉に、無意識かわざとか、きつい言葉を放つ芥川。
とばっちりの忍足はいつも可哀想ですね。


「違うよー。これは、後のお楽しみ!」
「お楽しみ……?」
「うん!だから、皆にはまだ秘密だよー」


首輪と一緒に大事そうに抱える紙袋。
麻燐がそう言うのなら、と皆さん渋々聞くのを諦めました。


「じゃあ、もう時間だから宿舎に戻るぜ」
「ねーねー跡部ー」
「なんだ、ジロー」
「俺麻燐と駆け落ちしたいCー!」


次の瞬間跡部は芥川の首に腕を回して歩き始めた。
丸井は溜息をついて額に手を当てる。


「ねー部長、かけおちって何?」
「………俺は許さんぞ」
「?」
「まぁまぁ、ほら麻燐、行くぜ」
「あ、うん!」


とりあえずこの空気に馴染ませてはならないと思い、丸井は麻燐の手首を掴んで跡部についていく。
残った海堂は父親気分の手塚を宥め、さらに後をついていった。

このメンバーでの別行動も、ここで終わると思うと安心します。





その頃合宿所の方では、


「今何時かな?」
「4時半だ……。そろそろ、帰ってくると……思うぞ」
「ふふ……午後の間、ずっと麻燐の顔を見られなかったからね、寂しかったよ……」


恐怖政治が行われているようです。
とても寂しいだけの表情ではありません。


「くすっ、青学からは手塚と海堂かぁ……。抜けてる二人が抜け掛けとは、やるね」
「……まぁまぁ不二先輩、落ち着いてくださいよ〜」
「………負け惜しみ?」
「こ、こら越前っ」


青学も危うい感じですね。
頑張って宥めています。


「そろそろ帰ってくる頃だよなー」
「そうやなぁ。あの二人がおらんと氷帝も少しはまとまるんやけどなぁ」


あの二人とは跡部と芥川のことですかね。
どうやら二人がいない練習というのも新鮮だったようです。


「麻燐ちゃんだけ帰ってきたらええのにー」
「その言葉、二人に言ってもいいですか?」
「鳳、それは軽く俺に死んでこいって言ってるようなもんやで……」
「はい」
「……俺もう泣くで」


それでも慰める人は誰も居ないのがまた悲しい事実ですね。
宍戸や日吉は完全に見ようとしません。
この状態も、後少しでいい方向にいくでしょう。
それまでの我慢です!