「あれ?そういえばジロ先輩がいないよ?」 一番に気づいたのは麻燐。 やっぱり、全員の事を気にしているからでしょうか。 「あぁ、芥川ならあっちだぜ」 両手が塞がっているので、顎で場所を差す丸井。 そちらへ視線を向けると、そこには、 「わぁー!ジロ先輩いいなぁっ!」 大きな白い犬の背中を枕に眠っている芥川がいました。 静かだと思っていたら眠っていたんですね。 そのまま寝かせておけば静かですが、麻燐はそうしないようです。 「麻燐も一緒に寝るー!」 空いているスペースに自分も入り、一緒に横になってしまう麻燐。 二人を支えている白い犬は大して重く思ってないのか平気な顔つき。 海堂はその力強さに少し感動を覚えた。 「んむー……あれ、麻燐もお昼寝するの?」 「えへへ、ジロ先輩が気持ちよさそうに寝てたからー」 「そっかぁ……さっきね、ちょっとだけ夢に麻燐が出てきたC〜」 「えっ本当?どんな夢ー?」 「秘密だよ〜」 起きた芥川が麻燐を優しく見つめ囁く。 甘い雰囲気を醸し出してます。 それに嫉妬するかのように見ているのは跡部と丸井。 「おいジロー!ここは昼寝するために来たんじゃねーだろうが!」 子犬を片手に、もう片手で芥川を引き剥がす。 保護者意識炸裂です。 「麻燐も、今は寝るんじゃなくて、合宿所の猫の飯を買いにきたんだろぃ?そろそろ買いに行こうぜ」 丸井も麻燐を起こし、にこっと笑いかける。 麻燐の扱いが段々と上手くなってきましたね。 そろそろ仁王辺りの嫉妬を買いそうです。 「あっそうだね!」 本来の目的を思い出した麻燐は、ぱっと立ち上がり白い犬にありがとうを言った。 「薫ちゃん!猫ちゃんのご飯と、首輪見にいこっ!」 「ああ、そうだな」 海堂も名残惜しそうだが犬に視線で別れを告げ歩き出した。 手塚は子犬達から脱出し、行く手を阻まれながらも子犬を避けて歩きだす。 跡部は先程の子犬にズボンの裾を噛まれて行かないように態度で示される。 「あははっ、跡部めっちゃ懐かれてんじゃん」 「うるせえ。ったく……お前、そんなに俺様が気に入ったのか」 この際痛い発言でも気にしません。 跡部は軽く溜息をつくと、子犬を抱き上げて出口の所で降ろす。 きゃんきゃんと名残惜しそうに吠える犬に少しだけ情が移ったのか見つめている。 「飼ってやったら?」 「……俺の家じゃ広すぎて、寂しい思いをするからな」 呟くと、跡部は麻燐たちの方へと向かった。 丸井は膨らましたガムを割り、その後をついていく。 ……って、何か跡部が良い人オーラ出してますね。 この際それについても触れないようにしましょう。 「あーこれも可愛いっ!迷っちゃうね!」 「そうだな……あの猫は、メスだったか?」 「あ、うん、女の子だよー」 まずは首輪を選んでいる二人。 それを眺める手塚。 そして、そんな純粋に選んでいる二人の隣で、ジローだけが奇怪な行動を始めていた。 「ほらっ見て見てー!似合う?」 「ジロ先輩!似合ってるよー!子猫ちゃんみたい!」 ジローが大きめの首輪を首に付けていた。 それを見た海堂はぎょっとして、何も言葉が出ない。 手塚はいつの間にか真剣に首輪を選び始め気付いていない。 「あ、でもジロ先輩ならこっちの小さいのも似合いそう!」 「ほんとー?でも、俺は麻燐にも付けて欲しいC!」 「えー?麻燐に?」 「うん!んで、その麻燐を俺のペットにしちゃっ……」 ベチッ! 最後まで言葉を言えなかったのは丸井のおかげです。 近くにあったリードで芥川を殴る。 「お前なぁ、麻燐にそういう冗談は早いだろい」 「むー。丸井くんに叩かれても、俺はMじゃないから感じ……「少し黙ってろって、な?」 丸井はしっかりと麻燐を守ってくれるようで安心します。 それを見ていた跡部は肩の荷が少し降りる。 だが手塚の姿を見ると再び溜息が出た。 青学はこれで大丈夫なのか、そう思った。 自分がそう言える立場なのかとも思いますが。 「で、首輪は決まったかよ」 今のうちに麻燐に聞く跡部。 お会計は跡部がまたしてくれますからね。 「んー……こうやってたくさんあるとね、全部似合う気がして……」 むぅ、と口を尖らして迷う麻燐。 海堂は麻燐に決めて貰うつもりのようです。 そうか、と跡部は言うと、 「それじゃあ、特にいいと思う物を3つくらい選んでみろ」 「ほえ?どーして?」 「いいから」 跡部に促され、麻燐は海堂と手塚と相談しながら3つ決める。 1つは麻燐の選んだお花のついた首輪。 もう1つは海堂が選んだ鈴のついた首輪。 最後に手塚の選んだシンプルな黒色の皮の首輪。 芥川がごつい大きな首輪を麻燐に渡そうとするのは丸井が何とか抑えてます。 「これだな」 受け取ると、跡部はパチンと指を鳴らす。 それに気づいた店員は何事かと近づいてきた。 「この3つを違和感のないように組み合わせろ」 「あ、あの……申し訳ございませんが、当店はそのような申し出は、」 反応を予想していたのか、跡部は財布からキラキラ光るカードを出した。 スーパーでも使った、ゴールドカードですね。 すると男の店員は目を丸くして、苦笑交じりで首輪を受け取る。 「何とか店長にお願いしてきます!」 と言い、少し待つように促した。 決まると、跡部はふんと鼻を鳴らす。 そして、ほえーと跡部を見上げる麻燐を見て、 「迷った時はこうすれば早い」 ごく普通に言って見せた。 それを見て、手塚が、 「跡部……俺は、お前が一番常識がないと思うぞ」 「だからお前に言われたくねえよ」 手塚の言葉は正論だと思います。 それに跡部は少し眉を寄せる。 何かと行動が大胆なのは跡部だと海堂や丸井も同感の様子です。 そして30分ほど待つと、 「お、お待たせいたしました!」 店員が焦って出てきた。 初めて見るゴールドカードに、店長と協力して急いで仕上げたのでしょう。 大事そうに出来上がった首輪を抱えている。 「早いな。……どうだ、麻燐」 「うわぁ……可愛いっ!」 そこには、黒色の皮に鈴がついて、その鈴の上に可愛い花がワンポイントを飾っている首輪があった。 特注ですからね。 気に入らないわけがありません。 「これでいいよねっ!薫ちゃん、ぶちょー!」 「ああ……これは一番良い」 「麻燐がいいなら、俺もそれでいいと思うぞ」 「わーっそれ可愛いC!絶対子猫ちゃんにはいいと思うー!」 「俺も賛成だぜぃ。可愛いしなっ」 首輪については芥川もまともな意見を言う。 他3人も賛成のようだ。 麻燐は嬉しくて満面の笑みで首輪を見つめる。 「そうか。店員、決まりだ」 「は、はい!ありがとうございます!」 そして跡部はカードを掲げながら会計を済ませた。 荷物は跡部が持つと言ったが、麻燐が持ちたいとねだったので仕方なく渡した。 良い買い物ができてよかったですね! ×
|