「……赤也」 「あぁ゙?」 「やけに角が似合っているな」 廊下でばったりと出会った柳と切原。 柳が興味深そうに切原を見る。 赤目だろうと気にしない。 「その様子だと、仁王辺りに何か言われたな」 「……!!」 切原は思い出したのか、更に眉を吊り上げた。 「知ったように言ってんじゃねえよ」 「……全く、先輩に対してその口の利き方はないだろう」 柳は言うことを聞かない犬を見るような目(開いてませんが)で切原を見ると、溜息をついた。 「このままだと弦一郎がうるさいな。赤也、悪いが、」 「!」 柳の言葉のすぐ後に、切原の頭にチョップが下った。 それで切原を抑えようとしているのだろうか。 更に気を悪くすると思いますが………。 だが、参謀は気にせず、両手で頭を押さえる切原を見る。 「痛ってぇ……」 「赤也、冷静になれ。笠原に笑われるぞ」 「なっ……」 その一言で、切原は赤目から戻る。 まるで魔法の言葉です。 「少々の事でキレているようでは……。少しは大らかな笠原を見習ったらどうだ」 「う、……」 参謀は掌で転がすように切原を操っています。 ……というか、大半の皆さんは『麻燐』と聞いただけで大人しくなりますが。 「落ち着いたか」 「ッス……」 ばつの悪そうな顔で返事をする切原。自分の姿を客観的に見たのでしょう。 柳は、それでいい、とでも言うように頷いた。 「それでは、探しに行こう」 「はい……」 動物使い本領発揮! 柳の後に続くように切原は歩き出しました。 「……あの、柳先輩」 しばらく歩いていた二人。 すっかり普段の調子に戻った切原は口を開く。 「なんだ?」 「こんなところに、誰が居るんスか?」 切原が言う、こんなところとは。 図書室ほどの規模ではないが、本がたくさん置いてある部屋だ。 息抜き程度に使うような、そんな部屋。 「隠れ場としては丁度いいだろう?」 「そうッスかね……。こうも本に囲まれると頭が痛くなると思うんスけど」 「それはお前だけだから安心しろ」 柔らかく柳が言うと、早速部屋に足を入れ周りを見る。 切原も不満な顔をしながらも視線を動かす。 「こういう場所は、本棚の隅や……」 「柳先輩」 「また、本棚の後ろに隠れていて俺達の動きに合わせて動いたり……」 「あの、柳先輩」 「何だ赤也」 説明の邪魔をするな、とでも言いたげな顔をする参謀。 こういうのには厳しいですね。 「あそこに居るのって……」 こそっと指を指し示す方向。 そこには、柳も開眼してしまうような光景が。 「………、弦一郎……」 本人には聞こえていないだろうが、柳は呆れたように呟いた。 視界に映っている姿、あれは間違いなく真田だ。 机の下に潜り込み、まるで地震が起きた時の避難訓練のように頭を抱え身体が大きい所為でお尻が机からはみ出ているあの姿だろうと、立海が誇る副部長であり皇帝なのだ。 何とも情けなくて二人は深い溜息をついた。 「……赤也、ああいう姿を何というか知ってるか」 「えーっと、頭隠して尻隠さず、っやつッスか?」 「ああ。意味は違うか、姿はそのままだな」 誰かを知ってしまえば声をかけたくなくなるだろう。 だが、そうはいかないので二人でジャンケンをし、切原が声をかけることになった。 「あ〜……っと、副部長?」 「!?」 隠れていた真田は驚いた机に頭をぶつけたが、すぐに立ち直り机の下から出た。 「来たなっ鬼め!俺は貴様らに屈したりはせんぞ!」 「妙に感情入っててキモイっす」 「なっ……!」 「赤也、落ち着いて対処するんだ」 「わかってるッスよ」 後輩からの冷たい言葉にショックを受ける真田。 最近、体操座りをするのに慣れてきています。 「とりあえず、捕まえとくッス」 そして汚いものに触れるかのようにタッチする切原。 柳は心の中で切原を讃える。 真田が捕まったのを確認すると、柳は一歩ずつ真田に近づいた。 「弦一郎、これが鬼の角だ」 「あ、ああ……」 必要最低限の事だけを口にした。 角を投げる形で渡すと、振り返って歩き出す柳。 「ま、待って下さいよ柳先輩!」 追うように切原も移動した。 残された真田は真田で一人心細く角を見つめていました。 「………寂しいではないかっ!!」 まるで悲劇のヒロインのように叫び、部屋から飛び出す真田。 真田も久しぶりに童心に返っていたのでしょうね。ある意味、恐怖です。 |