「樺ちゃん先輩、ここだよ!」
「……ウス」


麻燐が止まるように促し、樺地は足を止めた。
見上げるそこには、屋上へと続く階段。
樺地は麻燐へと顔を向けた。


「合宿所にも屋上ってやっぱりあるんだ!見てこよ、樺ちゃん先輩!」
「ウス」


麻燐は今度は階段だからか、樺地の背中から降りて樺地の手を引っ張りました。
樺地はゆっくりと歩き出す。


「ん?……あれれ?」


たたたっと階段を駆け上がっていた麻燐は、その途中で目の前に見覚えのある姿を見つけた。


「リョーマくん?こんなところでなにしてるのー?」
「……ん……」


中腰で問うが、越前は声を漏らしただけで起きなかった。
どうやら昼寝でもしているようですね。
麻燐は樺地を振り返る。


「捕まえちゃってもいいのかなぁ?」
「……いいと思います……」
「んじゃあ、タッチ!」


眠っていて無抵抗の越前に麻燐はそっとタッチをする。


「ん……?……あれ……麻燐……?」


今度こそ起きた越前は目を擦りながら麻燐を見上げた。


「おはようっリョーマくん。今は隠れ鬼なのに寝てていいの?」
「あぁ……別に。捕まってもいいし」
「それってもしかして、せんいそーしつってやつ?」
「漢字で言おうよ」


だって分からないもん、と言う麻燐を呆れたように見る越前。


「でも、どーして外に出ないの?」
「………」


首を傾げて聞く麻燐。
もう少し上まで行けば屋上に出られるドアがあり、昼寝ならそこが最適だろうと思っているようです。
越前はまた溜息をついた。


「あのさ、どうして今隠れ鬼やってるか分かってる?」


そう言ってみるが、理解できていない麻燐の顔が見えたので諦めて単刀直入に言うことにした。


「雨が降ってるから、こんなことやってるんでしょ」
「っあ……!」


そうだった、とポンと手を打つ麻燐。
越前は短く「馬鹿だね」と言う。


「むっ、麻燐馬鹿じゃないもん!でもね、もうリョーマくん捕まえちゃったから鬼だよ〜っ」
「あっそ……面倒だから終わるまで寝てる」
「だめだよ!ちゃんと参加しないと!」
「きっと、他の人たちが必死に探すから平気」
「?」


その通りといえばそうなんですが。
逃げる方も必死ですし、鬼はいくらいても困りません。


「でも、こんなところで寝てたら風邪ひいちゃうからだめ!樺ちゃん先輩!」
「ウス」


麻燐が言うと、越前の目の前にぬっと現れた樺地が軽々と越前を持ち上げた。


「!?あ、ちょっ……」
「きょーせいてきにお連れしまぁ〜す」
「ウス」


言葉通り強制的にお連れされてしまっている越前。
新しい仲間も増え、麻燐は上機嫌な様子で笑っています。





その頃。


「桃城、そこに居るのは分かってる。早く出て来い」
「……ちぇー。どうして隠れてる場所まで分かるんスかね」


食堂の中に隠れている桃城を見つけた乾。
データ隠れ鬼ですね。


「食いしん坊のお前はそこしかないだろう」
「あはは、たしかに、自然と足が向かっちゃいました」


隅に居たのでどうやっても逃げられなくて観念した様子ですね。
大人しく捕まりました。


「はぁ〜。乾先輩ならデータでほとんどの人見つけることができるんじゃないッスかね」
「いや、お前が初めてだ」
「えっ!マジっすか……?」
「ああ。ほとんど麻燐が捕まえている。あの子の鬼の才能は計り知れない」
「……そ、そうなんスか」


何となく想像できてしまう桃城。
苦笑いでいるしかない。


「あっ桃ちゃんとワンちゃんだ!」
「ワンちゃんというのは誰のことだい?」
「ん?だって、お名前が『いぬい』でしょ?だから!」
「つまり、『いぬ』を取ったわけか……。キミの発想は面白いな」
「ありがとう!」


さして嫌な表情をしていない乾。
別にいいのでしょう。


「で、どーして越前は樺地に担がれてんだ?」


桃城がにししと笑いながら越前を見た。
対する越前は顔を逸らした。


「あのね、寝てたら風邪ひくからあったかいところにでもって」
「なんだよ、寝てたのか。ま、越前らしいっちゃーそうだな」
「……うるさいッス」
「樺地から降ろしてやろーか?」
「遠慮するッス」


それだけは断固拒否して、越前は自分で樺地から降りた。
樺地は動じない。


「んじゃあ、桃ちゃん、リョーマくんをお願い!麻燐ね、他にも探しにいかないといけないの!」
「へぇ、頑張ってんだな。えらいえらい」
「えへへ……」


桃城に頭を撫でながら褒められ、麻燐は嬉しそうに笑った。
麻燐にとってはこれは『隠れ鬼』でもあり皆の練習の手伝いでもありますからね。
役に立っていると言われているようで嬉しいのでしょう。


「でも、それでいいの?後で行く買い出し、人数が少ない程大変だけど」


越前が尋ねると、麻燐は一瞬きょとんとしたが、すぐに笑顔に変わり、


「それはいーのっ!だって、ずっと一人で隠れてたら寂しいでしょ?だから麻燐が早く見つけてあげるの!」


だから行ってくる、と大きく手を振って再び廊下に出る麻燐。
残された4人は時が止まったように麻燐が去った後を見つめていた。


「ったく……俺らじゃ考えつかねぇようなことばっかりだぜ」
「珍しいだけじゃないッスか」
「ふふふ……データの取り甲斐のある奴だ」
「………」


それぞれ麻燐へのイメージが違いますね。
さて、次に麻燐はどこへ行くやら。