「おじゃましまー……す……?」 麻燐が先頭に立って203号室のドアを開く。 すると、麻燐の言葉の語尾が疑問形になったので後ろの二人は首を傾げた。 「ん?どうしたんや、麻燐ちゃん……」 「ふふっ」 すると、どこからともなく不気味な笑い声が。 「あっ……自分……!」 忍足が嫌なものに会ってしまったような表情になる。 そう、部屋の中に居た人物、それは…… 「ゆきちゃん!」 ……そう、神の子にて魔王であるこのお方。 「ふふ、早かったね」 「ゆきちゃん、隠れなくていいの?もしかして、身体の調子でも悪いの?」 「大丈夫だよ。ちゃんと隠れてたから」 心配する麻燐に天使のように優しい微笑みを向けた。 ああ、白い微笑は綺麗ですね。 「ところで、後の二人は出てっていいよ」 「そういうわけにもいかないな」 黒い微笑みは恐ろしいですね。 忍足があわわと震えているじゃあありませんか。 出会わせたくない人物のツートップが出会ってしまいましたからね。 「君はこんなところで麻燐を待ってたんだね」 「俺は麻燐が一人で探しに来てくれることを望んでたんだ。君たち二人は必要ないよ」 「くす、尚更見逃せないな」 「……?」 二人の間に挟まれている麻燐は不思議そうに首を傾げた。 「あっ、そーだ!ゆきちゃん捕まえちゃったから、はい、この角あげる!」 「ありがとう。麻燐はよく似合ってるよ」 「えへへ、ありがとうっ!ゆきちゃんのは麻燐が付けてあげる!」 その言葉に幸村がしゃがんであげると、麻燐はちょこんと角を頭に付けた。 器用な手付きに幸村は短くお礼を言った。 「それにしても、どうして二人は麻燐についてきているのかな」 「今日麻燐が泊まるのは僕の部屋だからね。汚染される前に荷物を移動しようかと」 「?」 「君の部屋に居る方が麻燐に悪い影響を及ぼすよ。本当は今日もここに居て欲しいんだけどね」 「そんな子供みたいな我儘にはついていけないな」 言っている内容は恐ろしい程に嫌味ですが、笑顔で言い合っているので麻燐は悪口には聞こえてません。 ただ忍足だけがこの状況にびくびくしていました。 「大体、捕まるの早いんじゃない?あれだけ意気込んでたくせに。不二って意外に鈍くさいんだね」 「そういう幸村だって、こんなところで麻燐を待ち伏せするなんて、考えが忍足並なんだけど」 「(こ、怖くて口の出しようがない……!)」 この後、10分ほど言い争いが続いていました。 「さて、どこ探すか?長太郎」 「そうですね……意外に放送室とかに居るんじゃないでしょうか?」 「なるほどな、見落としがちだぜ……。んじゃ、そっち行くか」 「はい」 言いながら、放送室の前まで来た。 二人は誰が居るのか分からない緊張感の中、宍戸が先頭になってドアノブに手をかけた。 そして、一気に開けると、 「行ってよし!」 「「…………」」 そこに居たのは中年のおっさん。 略して43である。 「ここには誰もいないぞ。私の麻燐ちゃんを守る為にお前たちはがんばっ……「「失礼しました」」 声を揃え、代表として宍戸が素早くドアを閉めた。 「……別の場所行くか」 「そうですね」 切り替えが早いですね。 ここは大ハズレだと分かった二人は、とりあえず周辺からもう一度探すことにしました。 「宍戸さん、こっちの部屋はどうでしょう?」 「ああ?……あー……ロッカーの中とか誰か居るんじゃね?」 冗談ぽく宍戸が言う。 鳳も笑いながらいくらなんでもそれはないでしょうと返した。 「いくらなんでも、俺たちが隠れるには狭すぎますよ」 「でもま、一応見とくか……」 そして一番端のロッカーを開けてみると、 「!?」 宍戸は目を見開いて後ずさった。 鳳は何が起きたかと宍戸の視線の先を見る。 そして鳳も同じく驚愕した。 「……ふむ。ここに隠れると見つからない確率は非常に高かったんだが……」 ぶつぶつと呟きながら二人を無視してノートに記録を取る柳の姿。 宍戸は、開いた口が塞がらないという状態で柳を指差す。 「おまっ……え、柳、なんっ……!?」 立海の参謀として恐れられる柳が狭いロッカーの中で身体を小さくして隠れている姿はなんとも不似合いで。 流石の鳳も驚きすぎて何も言えませんでした。 そしてデータを書き終えた参謀は、 「まぁ、見つかってしまったものは仕方がない。鬼の印を貰おう」 「……お、おう……」 差し出される掌の上に宍戸は角を置いた。 「隠れるより探す方が楽だろうな」 柳は清々しそうに笑いながらぶつぶつとノートを片手に二人の横を通り過ぎて言った。 「………な、んなんだ……」 「さぁ……。でも、立海への謎は深まりましたよ」 鳳が珍しく正論を言いました。 宍戸も頷き、戦意喪失する前に行動へと表そうと別の場所を探すことにしました。 |