改めて一人で旅立ち始めた麻燐は、廊下を歩きながら一つ一つ部屋を覗いています。
そこで麻燐の鬼の才能の開花が見られました。
次々と村人を鬼に変えていってしまうのです。
例えば、麻燐がつまずいて転んでしまったとすると、


「麻燐ちゃん!大丈夫かい?ほら、これを使って!」


とどこからともなく絆創膏を片手に大石が飛んできたり。
喉が渇いたなぁと呟くと、


「それでは麻燐ちゃん、この新作乾特製デリシャスドリンクを……」
「くおらっ!麻燐に変なの飲ませんじゃねえっ!」


ジョッキを片手に持った乾とそれを押さえる向日が飛び出してきたり。
いずれも麻燐にタッチされて鬼になってしまいましたが。


「えへへ、結構捕まえたなぁ。よーし、この調子で麻燐も立派な鬼として頑張るぞ!」


麻燐の意気込みは高くなるばかり……。
さて、次の場所は……物置、ですね。


「うーん、ここに居るかなぁ?一応、見てみようっと!」


そして麻燐が扉を開けると、


「きゃっ!」


途端に何かに腕を掴まれ物置の中に引き込まれてしまいました。


「ふふふ、よぉ来たなぁ、麻燐ちゃん」
「あ、ゆーし先ぱ……」


驚いて声を上げようとすると、麻燐の口は忍足の手で塞がれた。
麻燐はきょとんとした表情で忍足を見つめる。


「しー。……嬢ちゃんに見つかるなんて、今日はついとるなぁ」
「んー?」


忍足が不適な笑みを見せると、麻燐は首を傾げる。
そしてとりあえずタッチ。


「ゆーひへんぱい、ふはまえはよぉ?(訳:ゆーし先輩、捕まえたよぉ?)」
「そやな。これで俺も鬼になったっちゅーことで……親睦を深める為にちょっと付き合うてくれへん?」


麻燐ちゃん騙されてはダメです!
その鼻の下が伸びるのを必死で隠そうとしている変態なんかに!


「ほれー」


これ、と麻燐が手渡したのは鬼印の角。
ん?と忍足が受け取ると、麻燐にも角が付いているのに気がつく。


「へぇ、かわええの付けとるんやな。鬼さんな麻燐ちゃんに食べられたいわ」
「ん……?」


忍足の変態発言を理解できない麻燐はついていけません。
それでも純粋に忍足を見つめ続ける麻燐はなんて健気なんでしょう!
それにしても、忍足は麻燐と二人きりだということに調子に乗っていますね。


「くく、冗談や。ほんまは俺が食べたいくらいや……」
「んっ……」


自慢のボ……ヴォイスで麻燐の耳元で囁く。
それをくすぐったく感じた麻燐が小さく悲鳴を上げたところで、変化が起こりました。

トントン。


「………?」


ドアからノックが聞こえてきたんです。
おかしいですね。物置にノックをするような人は居るのでしょうか。
いませんね。
てことは、つまり、あれです。


「(見つかった……!?)」


忍足は内心冷汗をかきました。
いや待て、落ち着け忍足侑士。
と自分に言い聞かせています。


「(誰や……。人物によって……)」


忍足の恐れる人物は決まってます。
黒いお人。
過保護な人。
さぁ、誰!?

ドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!


「!?わわわ、分かった!開けるから止めや!」


忍足がガラッと開けると、一瞬にして淀んだ空気が……。
黒いのが見えたのは気のせいでしょうか。


「伊達眼鏡のくせに麻燐になにをしようとしてるんだい?」


出てきたのは元祖魔王、不二周助。
忍足は今度こそ冷汗を流しました。


「いや、これはちょっとした冗談というか……」
「冗談は君の変態オーラだけにして欲しいよ」
「………」


言い返す言葉がない忍足。
そんな忍足から麻燐を奪い取る不二。


「周ちゃん!捕まえた〜っ!」
「くす、最後まで残ろうと思ったんだけどな……。麻燐の貞操には代えられないね」


麻燐に微笑で言い、ぎらっと忍足を開眼して見た不二。
その切り替えの早さが信じられません。
な、なにもそこまで変なことをしようとは……と反論したかったが、不二の笑顔の前に何も言えません。


「はい、鬼のマーク!」


不二にも渡す麻燐。
ありがとう、と受け取る不二。
結局こうなる忍足。


「それじゃあ麻燐、他探しに行こうか」
「うん!……あ、ゆーし先輩も!」


不二と手を繋ぎながら振り向いて忍足を呼ぶ麻燐。
忍足はその麻燐の優しさにぱぁっと笑顔になる。
対して不二は一気に眉を寄せる。


「よし、麻燐ちゃんの為に一肌脱いだる!全員捕まえたるわ〜!」


こういう時の忍足の立ち直りは早いですね。見上げます。
麻燐の手前無下にできないのか、とりあえず3人で移動することになりました。





「「あ」」
「「お」」


さて、麻燐に捕まってしまった人たちはというと。
仁王と菊丸、宍戸と鳳のペアが廊下でばったりと出逢ってしまいました。
一瞬捕まえようかとも思いましたがお互い頭に角がちょこんとあるのに気付き行動は起こしません。


「お前さんら捕まるの早いんじゃな」
「なっ……そういう仁王だって。一番図太そうに残ると思ってたんだが」
「俺は別にやることがあるんじゃ」
「宍戸たちは普通に捕まっちゃったのかにゃ?」
「ああ……まぁな」
「今回は仕方ありませんね」


宍戸の視線に鳳は気付きながらも微笑で返した。
勝負事に厳しい宍戸はやはり負けたくなかったみたいですね。


「誰か捕まえたか?」
「こっちはまだじゃ」
「そうですか……」


どうやら宍戸と鳳もまだ誰も捕まえられていないようですね。


「んじゃ、一緒に探索するー?」
「いや、あんまり大勢だと足音で気付かれそうだしな。俺は長太郎と探すぜ」
「そっか〜。じゃあ、お互い頑張ろうね!」


菊丸は楽しそうに手を二人に手を振った。
仁王は黙って歩きだした。
鳳は軽くお辞儀をして宍戸についていった。


「仁王〜、誰を捕まえる?」
「とりあえず、幸村や芥川辺りじゃの」
「あ、はは……不二みたいなタイプだにゃ」
「そうじゃ。あいつらは遠慮というもんがないからな」


不満を言うように仁王は口を尖らす。
どうやらその辺りが残るのは本気で嫌みたいですね。
それでは、そうならないように頑張りましょう!


「宍戸さん、この人は捕まえておきたいって人はいますか?」
「ん?あ〜……そうだな……」


こちらでも同じような話ですね。
やっぱり危険人物の行方は大事ですからね!


「とりあえず、忍足や跡部には負けたくねぇな」
「あー分かります。忍足さんには絶対に譲りたくないですからね」
「……長太郎、それは別の意味でだろ」
「はい。麻燐ちゃんの貞操etcの為です」


にこやかに言う鳳に宍戸は何も言えなかった。
etcも気になったが聞くのにも気が引けて無理でした。

まぁ、純粋に隠れ鬼を楽しみましょう!


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