「ん〜、皆隠れるの上手だね。全然分かんないよ〜」


あれから広間を出て廊下を歩く麻燐と仁王と菊丸。
さっきの広間と違い、荷物置きの個室まであるのでそこも探していたようです。


「合宿所内全部じゃからな。部屋数も多い」
「えーっと、あと21人かにゃ?うひー、大変」
「むぅー、何か悔しい!麻燐、あっちに行ってくる!」
「あ、麻燐っ……」


仁王が止めるのも聞かず、先に走っていく麻燐。
追い掛けようとする仁王を菊丸が捕まえる。


「仁王ー、わざと捕まったでしょ」
「それが?」
「うしし、仁王って意外に麻燐のこと本気だったんだー」


冷やかしにも似た表情で言う菊丸。
思わぬ相手にからかわれ、仁王は口を尖らす。


「お前さんには関係なかよ」
「まーまー。鬼になったからには、少しでも麻燐とデートする奴を減らさないとにゃー」
「阿呆。一人も行かせんようにするんじゃ」
「あはは、仁王怖いにゃー」


これは、二人は手を組んだということでいいのでしょうか。
二人は並んで歩き始めました。
敵の敵は味方。こういう時の団結は怖いものですからね。

隠れている『村人』の方は頑張って隠れ続けましょう!





「んー、どの辺かなぁ……」


とりあえず会議室に入った麻燐。
ここは机や椅子が多いので隠れるには絶好の場所です。


「もし、麻燐だったら……」


自分に置き換えて考えています。
うん、頭が良いですね!
……ちなみに、ここには誰が隠れているのでしょうか。


「(やべっ、もう来ちまった……)」
「(どうしましょう、宍戸さん)」
「(……っつか、長太郎がくっついてくるから逃げづらくなっちまったんだろうが)」


この二人が机の下に隠れていました。
どうやら鳳は宍戸のストーカーをしていたようで……。


「(それ以上言ったらどうなるか、分かりますよね?)」


どうもすみませんでした。
隠れているにも関わらずお黒くなるとは。
ほら、隣の宍戸が誰に言っているのか頭にハテナを浮かべていますよ。


「んーと、やっぱり、さっきみたいに机の下かなぁ?」


麻燐が言った瞬間、二人の時が止まりました。
このまま隠れていたら確実に見つかります。


「んーと、ここにはいない……」


一つ一つ丁寧に探していく麻燐。
二人の居る机は、麻燐が順番に探している机と離れているのでもうしばらくは見つからない。
それでも、すぐに接近してくるだろう。


「(どうします、宍戸さん)」
「(どうするっつったって……ここには入口が一つしかねぇし……)」


麻燐は入口側の机を調べているのでまずは動けない。
立ち上がろうものなら背の高い鳳は見つかってしまう。
見つかるだけでは鬼にはならないが、麻燐が入口のドアの鍵を閉めてしまったらもう二人が捕まるのは時間の問題です。


「(ちっ……俺だけだったら瞬間移動で行けるかもしれねぇが……)」
「(それに宍戸さんは小さいですしね)」
「(なっ馬鹿!俺は平均だ!お前が無駄にでけえんだよ!)」
「(あはは、すみません)」


あの、勝手に二人の世界を作らないでくださ……。


「(お前もうるせぇっ!)」


宍戸まで………泣きますよ?
初めて黒い人以外にツッコまれましたよ。


「んー、居ないなぁ……」


段々と接近してきました。
それに伴い、緊迫とした空気が二人の間を流れる。
ですが、


「はっ……くちゅん!」


それも、麻燐のこのくしゃみで一気に変わりました。
会議室の窓は大きいですからね。
雨もバケツを引っくり返したように降り続いており、気温も下がってきています。


「っ………麻燐ちゃん!」


ここで堪らず立ち上がってしまったのが麻燐には心優しい鳳。
宍戸はびっくりしたものの、つられて立ち上がってしまう。


「ん?あっ!チョタ先輩!」
「大丈夫?風邪ひいてない?というか俺のジャージ貸してあげるよ!」


見ていて引いてしまうくらい優しいですね。
本性を知っている者として、逆に怖いです。


「本当?でも、チョタ先輩大きいからブカブカしちゃうよ……」


さり気なく麻燐は鳳の腕を捕まえる。いつもの癖でしょうが、意外と抜け目ないですね。
鳳もそれに気づいたが今はそれどころじゃないようです。


「それなら、宍戸さんが居るから!」
「なっ、俺かよ!」
「あっ!りょー先輩も居た!」


麻燐は椅子を避けながら宍戸の所まで行く。
捕まるか、と宍戸は身構えたが、無邪気に飛んでくる麻燐を見て脱力したようだ。
捕まえたー、と手をブンブン振る麻燐にされるがままになっている。


「でも、平気だよ!今のはちょっとお鼻がくすぐったかったからだけだから」
「……そう?本当に平気?」
「うん!」


笑顔で答える麻燐に鳳は安心の表情を見せる。
それは宍戸も同じだった。


「でも、もう二人とも捕まえちゃったからね〜!」
「ああ。分かってるぜ」
「今までで誰を捕まえた?」
「んーと、まーくんとひろちゃんと英二!」
「てことは俺達を入れて5人……」
「結構早いな……」


まだ1時間経っていないんですけどね。
皆さん、麻燐に甘かったり寝返ったりしてるからですよ!


「捕まってしまったからには、何としてでも不二さんや幸村さんやジロー先輩を捕まえないと」
「……その3人限定かよ」
「いえ、勿論全員捕まえる気ですよ?」
「……そうか」


鳳の意図が見える宍戸。
だが麻燐は、意気込んでいる鳳を強力な味方として見ているようだ。


「それじゃあ、麻燐は別の所探してくるね!」
「うん。襲われないように気を付けてね」
「おい長太郎っ……。まぁ、頑張れよ」
「うん!」


最後に麻燐は鬼の印の小さな角を渡して会議室から出て行った。