「ってことで、これから隠れ鬼をするよ。何か質問はある?」
「はーい!『ってことで』の意味が分かんないC」
「それくらい察しなよ」
「「「………(無理だろ)」」」


只今の状況を簡潔に説明すると、幸村は朝食を終えた皆さんを集めました。
そしていきなり、あの言葉を発しました。
脈絡も何もないですね!ここでも独裁を極めようとしているようです!


「何?文句があるなら正面で堂々と言いなよ」


すみませんっしたあ!!
ていうか、正面は流石に無理があります!


「じゃあ俺から伺おうかな?」


ごめんなさいごめんなさいどうかお静まり下さい……!


「……幸村、誰と話してんだ?」
「さあな。この世の者じゃないもんでも見えとるんじゃろ」


少し離れた場所で丸井と仁王がこそこそ話。
この世の者じゃないとは失礼極まりないですね。


「あー……とりあえず、始めから説明してくんねぇか?」


おっ!普段純情な宍戸さんが男らしく幸村に尋ねました。
流石!宍戸さん流石です!


「ふふ、しょうがないな。じゃあ手塚、」
「ああ」
「「「(結局自分は説明しないのか……)」」」


それが幸村様なので仕方ないです。


「今日は見ての通り雨だ。なので、合宿所内で隠れ鬼をする。トレーニングも兼ねてな」
「はーい、質問や」
「何だ、丸眼鏡」
「丸眼鏡て!自分も眼鏡やろ!」


まさかの呼び名に思わず突っ込む丸眼鏡。ではなく忍足。


「いいから質問をしてくれ」
「……何か跡部に似てきたんちゃう?……隠れ鬼って何ですか」
「ああ、ルールだな。それは今から説明しよう」


今度は素直に答えてくれるのか、手塚は樺地が用意したホワイトボードに絵を描き始めた。


「まずは、鬼を一人決める」


ホワイトボードに現れたのは角が2本、赤い身体でしましまパンツの鬼。
これが手塚の想像する鬼なのでしょう。


「そして、他は全員村人だ」
「「「(村人!?)」」」


何かいらん説明が入りました。
今度手塚が描いたのは村人なのだろう……普通の棒人間だ。


「そして、村人は襲ってくる鬼から隠れたり、逃げたりしてもらう。まぁ鬼ごっことそう変わらないな」
「へー。鬼ごっこなら俺得意だぜ!」


飛びながら楽しそうに言う向日。童心をくすぐられているようですね。
手塚はよろしいと頷く。


「そして鬼ごっこと違うのは、鬼に捕まった者は村人から鬼へと変わる。元から鬼だった者はそのままだ」


そして棒人間に角を付け足す。


「なるほど、鬼は増殖していくんだな」
「そうだ、乾。そして、これを昼食の時間まで行ってもらう。そして、最後まで村人のままでいられた者には、優勝賞品がある」


その言葉に皆がざわつく。


「何だ?食いもんか?」
「賞品か……そりゃあ楽しそうだぜ」


丸井とジャッカルは面白そうに胸を高鳴らせる。
もちろん、その二人だけではない。


「それでは、その説明は跡部に頼もう」
「……ああ、分かった」


手塚が一歩引くと、跡部は眉を寄せ渋りながらも一歩前に乗り出す。
雰囲気からして乗り気ではないようだ。


「……この隠れ鬼で最後まで生き残ると……昼食後の練習時間の丸々、麻燐とデートができる」
「「「なっ…何ぃ!?」」」


皆の目の色が変わりました。
跡部はこれが気に入らなかったようですね。
皆は一斉に麻燐へと顔を向ける。


「デート?あぁ、買い出しのことだよね!」


そう言ってにこにこと笑う麻燐。
真実を知ると皆は少しがっかりした様子を見せる。


「なーんだ、買い出しって雑用かよ……」
「甘いで丸井!!よう考えてみ!」


ここで忍足が熱く語りだしました。
周りは何だあいつ的な視線を配らせながらも、とりあえず話を聞くことにした。


「俺が思うに、買い出し自体は1時間もあれば充分なはずや!そして買い出しへと出かけるのは13時から17時まで……つまり、4時間あるんや!」


人差し指を立てて興奮しながら話す忍足。
そういう計算は相変わらず早いですね。


「ほー。つまり、買い出しを終えると時間が3時間余るっつーわけじゃな。で、その3時間をどう有効に使うかで優勝する意味が変わる、と……」
「そうや、そうや仁王!流石俺の仲間……「お前さんの仲間になった覚えはない」


普段ぶっ飛んだことをしている仁王ですが、さすがに忍足と同じにされるのは嫌なようです。
少し哀れですがやはり自業自得としか言えません。


「くすっ、それなら頑張らないとなぁ」


不二が心なしか黒い笑みを浮かべてます。
周りの青学メンバーはごくりと生唾を飲みました。


「……ま、負けてらんねーな、負けてらんねーよ!」
「へっ!一番はこの俺だぁ!」


桃城はそんな先輩を見て見ぬふりして自分を鼓舞し、切原は威勢よく叫びます。


「……ちなみに、」


盛り上がっている皆の視線を跡部は戻す。


「誰も、優勝賞品は一人って言ってねぇからな?」
「「「……はっ?」」」
「昼食までに残った者、だ……。複数の可能性もあるだろ?」


その言葉に忍足や忍足、忍足などの変な考えを抱いていた人の肩が思い切り下がる。


「俺の名前ばっかやない?」


貴方しか居ないということですよ。
冗談は置いておいて、その可能性を事前に言っておくことで、皆さんのモチベーションがぐっと上がります。
少しでも麻燐を独占するために、敵は減らしておきたいですからね。


「ふふ、二人ともナイスな説明だったよ」


最後の最後で幸村は跡部を押しのけて前に出る。


「それじゃあ早速始めたいと思うけど、その前に言い忘れていたことがひとつ」


その言葉に皆さんが首を傾げる。


「最初の鬼は…………麻燐だよ」
「「「えっ……ええぇぇえっ!?」」」


また一斉に麻燐を見ました。
一瞬きょとんとしていた麻燐だが、すぐに笑顔になると、


「えへっ!頑張って捕まえちゃうからね〜っ!」


その無邪気な笑顔に皆、何とも言えない複雑な気持ちを抱きました。