「ふぁ〜〜っ!…みんなぁ、おはよぉ……」


片腕に黒い猫のぬいぐるみを抱き締めながら麻燐は目を覚ましました。
横のベッドを見ても誰も居ない。
麻燐はまだ完全に冷めていない頭を捻る。


「おはよう」
「起きたか」


すると、反対側から声がした。
麻燐はそっちに顔を向ける。
すると、少し離れた床で大の中学生が丸くなって話をしていた。


「……何してるの?」
「皆で今日の練習について話していたんだ」


麻燐の問いに手塚がすかさず答える。
その言葉を聞いて麻燐はようやく頭が覚めたような感覚になった。


「練習っ!麻燐も考える〜!」


ベッドから飛び跳ね、皆の輪の中に入る。
すると、幸村がすまなさそうに眉を下げて微笑む。


「ごめんね、麻燐ちゃん。今日雨なんだ」
「え……?」


麻燐は大きな瞳で幸村を一瞬見つめ、すぐに窓へと目を向ける。
昨日晴れになることを祈っていた麻燐にとって、残念な事実です。


「……麻燐、悪いな。今日は室内で練習するからな」
「元気……出してください」
「今日くらい我慢するのだぞ」
「明日は必ず晴れるからな」


何もあなた達が悪いわけではないですが、皆が悲しそうな顔で麻燐に言う。
麻燐はゆっくりと顔を皆へと戻しました。


「……仕方ないよね。お空も、今日は何か悲しいことがあったんだよ……。だから麻燐、お部屋の中でも皆を手伝う!」
「「「麻燐……!」」」


全員の麻燐を見る目が変わりました。
きらきらしています。
跡部は親心からか、涙を浮かべていそうな顔をしています。


「……流石、麻燐だな……」
「ウス……」


氷帝のお二人は成長した我が子を見るような目ですね。


「うむ、それでこそこの合宿のマネージャーだ!」
「笠原、今日も油断せずに行こう」
「笠原……あ、麻燐のことだ!うん、頑張ろう!」


今、自分の名字を忘れかけてましたね。
確かに麻燐は皆から名前で呼ばれてますが……。


「ぶちょー!麻燐のことは麻燐でいいよっ」
「そうか……。ならば、今度からそう呼ぼう」
「うん!」


麻燐は嬉しさで手塚を見て満面の笑みを浮かべました。
それを見て手塚は少し頬を赤くしました。
……赤く、した!?


「手塚……麻燐は貴様なんかにやらねぇからな!」
「ふふ、娘が恋人を紹介しに来た時の父親のコメントだね」


幸村が冷静にツッコミました。
それでも本気な様子の跡部。


「それで、今日はどんな練習をするの?」
「それは皆の前で発表するよ」
「そうなんだ」
「ふふ、でも今日は特別なんだ」


幸村が何か企んでいる笑顔を見せました。
それでも麻燐には純粋な笑顔に見えます。


「特別?……あ!誰かのお誕生日だとか!」
「うーん、違うよ。今日は室内だから麻燐にも直接練習を手伝って欲しいんだ」
「え?でも、ドリンクとかタオルは……」
「それなら大丈夫。麻燐は心配しなくていいよ」
「そうなの?」
「うん」


幸村は始終笑顔で告げました。
その堂々とした笑顔を見て麻燐は納得したのか、分かった、と頷きました。


「それじゃあ、朝ご飯食べに行こうか」
「うん!」


自然と幸村が麻燐の手を引き、そそくさと部屋から出ていきました。


「……我々は置いてけぼりのようだな」
「あぁ?俺様とお前を一緒にするんじゃねーよ」
「!?」


黒い人と麻燐以外には強い跡部たま。
軽く真田を見下して部屋を出ていきました。


「……おい、真田」
「………………何だ、手塚」
「角に蹲ると風邪をひくぞ」
「……ウス」


どうやら跡部と幸村に酷い扱いをされて相当落ち込んだ様子。
それを見捨てることのできない手塚と樺地が慰めにいきました。


「……そうだな、」


真田はゆっくりと身体を起こし、手塚にポンポンと肩をたたかれながら歩き出しました。
……王者立海副部長の風格がまるでない!
副部長は精神的に弱いようです。


「後で桑原辺りに相談でもしたらどうだ」
「……そうだな」


ここでも使われるジャッカル。
そして了承してしまう副部長。
結果的に一番困る役回りがきてしまうのですね。
何はともあれ、元気を出してください!