さて、それからは午後の練習も終わり、今はそれぞれの部屋に戻ってます。
皆さんとても疲れた顔をしています。
今日の麻燐と同室の人は……。


「あれ?ねぇねぇぶちょー、どうして弦ちゃんはあんなにやつれてるの?」


少し後ろを歩いている真田を見て、麻燐は隣の手塚に聞きました。
それも仕方ないです。
真田はあの厳しい練習の後ですからね。
それを知ってか知らずか手塚は、


「午後は張り切っていたようだからな。俺達も見習わないといけないな」
「へー!じゃあ、頑張ったんだね!」


……手塚、見てましたよね。
立海と青学は隣のコートです。
あのリンチが張り切って練習していたように見えるのか!


「よく分かってるね、手塚。あれが我が立海の練習(お仕置き)だよ」


すっと現れた幸村。
とてもにこやかに現れたので手塚は突然現れたことに違和感を持たなかった。
……というか、二人には聞こえませんよね。
黒いお言葉が。


「そうだなぁ、青学では不二に頼めばいいんじゃないかな。快く引き受けてくれるよ」
「そうか。不二と幸村は仲が良いからな」


本当にそう見えるんなら手塚……眼鏡を変えた方がいいです。
青学よ、こんな天然な部長で大丈夫なのでしょうか。


「手塚には無理だろーよ。なぁ、樺地」
「ウス」


前を歩いていた跡部と樺地が少し振り向く。
挑発するようなその言葉に手塚はむっとした。


「……何が無理だ。やってみなければわからないだろう。明日不二に頼……「悪かった手塚、俺様が悪かった」……?」


手塚、跡部を謝らせるなんて凄いですね!
流石の跡部も悪い気がしたのでしょう。
汚れた者は綺麗な者に弱いのは自然の摂理です。


「ふふふ、まぁ、同じ老け顔でも手塚ならまだ許せるかな」


幸村の言葉にも手塚は首を傾げる。
……天然って、時に羨ましいですね。
そんなことを話しながら、今日の麻燐の泊まる部屋に着いた。


「うわー!広い!他の部屋よりちょっと広い!」


麻燐は部屋に入るなり飛び跳ねました。
確かに、昨日やその前に比べると少し広かった。


「俺達部長は色々大変だからと、跡部が配慮してくれようだ」


丁寧に説明してくれる手塚。


「ふふふ、少し関係の無い奴がいるけどね」
「うむ。いくら跡部の希望だからと2年は……「君だよ」……ゆ、幸村……」


真田からしたら、部長でも副部長でもない樺地がいるのはと思ったのでしょうが、幸村にとっては違ったようです。


「俺が復帰した今、キミは必要ないんじゃないかな。唯一あるとしたら……雑用?」
「……こ、これでも俺は、お前がいない間副部長として「その結果があれかい」……すまん」


関東大会決勝のことを言われると真田は何も言えなくなります。
諦め、隅っこで体操座りをする真田。
それを哀れに見る跡部と樺地。
手塚は自分の意思で向かったと思っています。


「えーっと、じゃあ、麻燐はどこで寝ればいいの?」
「麻燐のベッドならここだよ」


幸村が指を差したのは真ん中にあるベッド。
どうやら、そのベッドは跡部と幸村の間だ。


「わーい!ふっかふか〜」


麻燐は早速ベッドに飛び込む。


「ふふ、本当に君は可愛いね」


それを幼い子供を見るような目で見る幸村。
よく見れば跡部も同じ顔だった。


「ねぇねぇ、麻燐寒くなっちゃった……。お風呂入りに行こう?」
「何だ、寒いのか?麻燐」
「うん……。あっ、外見て!曇ってる……」


麻燐は窓のガラスに手を当ててみました。


「本当だな。この様子だと今日の夜には雨が降りそうだな」


手塚は呟く。
その言葉に、麻燐は眉を八の字にした。


「えー!明日まで雨が続いちゃったら、練習、できないんだよね?」
「まぁ、それは仕方ないことだが……」
「やーだ!……麻燐、皆に練習して欲しい……」


ずん、と落ち込む麻燐。
そんな悲しそうな雰囲気に跡部は元気づけるように頭を撫でる。


「んな落ち込むな、麻燐。雨でも、室内でできる練習だってあるんだぜ?」
「……本当?」
「うん。それについては俺達部長が話し合うから麻燐は心配しなくてもいいんだよ」


優しく笑う幸村に、麻燐は少し安心する。
その影で幸村は麻燐の頭に乗っている跡部の手をつねった。


「じゃあ、お風呂行こうか。着替えとか準備してね」
「うん!」


麻燐は鞄から着替えを出す。


「樺ちゃん先輩!一緒に行こう?」
「ウス」
「うきゃあ!もしかして、連れてってくれるの?」
「ウス」


樺地は麻燐を抱えて部屋を出た。
麻燐もはしゃいでいる。


「……跡部、良いマネージャーを持ったよね」
「ふん……まぁな」
「そうだな。笠原は1年ながら弱音も吐かずよく仕事をこなしている」
「(笠原……?あぁ、麻燐のことか)」


跡部、いくら名前で慣れているからって忘れてたんですね。
そんな会話に真田は入れず、3人の後を追うようにして風呂場に向かいました。
麻燐も麻燐で、自分がそんな風に言われているとは考えもせず、樺地と仲良く廊下を歩いていました。