「う〜〜……眠いよ〜〜」


部屋に着くなり、麻燐はベッドに倒れこみました。


「俺も〜!ねぇ〜、もう寝ない?」
「もうか?まだ9時だぜ〜?」
「……麻燐ね、いつも9時に寝てるの」
「うへーマジかよ。良い子なんだなぁ」
「えへへ〜」


感心した丸井が麻燐の頭を撫でる。
褒められたことが嬉しくて、麻燐は心地よさそうに笑った。


「うん、凄いよ。俺達3年の中でもそんなに早く寝ないのに」
「……越前や桃に見習わせたいな」


青学3年の良い人たちは言いました。
普段苦労していますからね。


「お、大石先輩!俺はこんなに早くなんて無理ッスよ〜」
「だからって、お前が寝るのは深夜だろ?……まぁ、越前みたいに遅刻はしないからいいけどな」
「そうッスよ、越前の奴起こして自転車に乗っけてくのが俺の日課になっちまったんスから!」
「……桃、また二人乗りしてるのか?」
「……あ」


越前になすりつけようとしたものの、口を滑らせてしまい失敗。


「えぇ!?二人乗り?」


ですが、その言葉に麻燐がやけに反応しました。


「いーなー!麻燐も自転車の後ろに乗りたいっ!」
「?麻燐、乗りてーのか?」
「うん!麻燐ね、憧れなんだぁ。登下校に自転車で送ってってもらうの!」
「へー。氷帝にはしてくれる人いねーのか?」
「うーん、いつもね、景ちゃん先輩の長い車で送ってってもらうの」
「うわっ!俺はそっちのが羨ましいけどな……」
「?そう?」


そりゃあもう。
今になっては跡部の義務、麻燐ちゃんの日課ですけどね。


「だったら今度俺が自転車に乗っけてあげるC〜」
「ほんと?あ、でも……寝ないでね?」


麻燐ですら心配してします。


「大丈夫!麻燐がしっかり俺に掴まってくれてたら平気だC〜」
「うわ、絶対やらしいこと考えてるッスよね」
「ん〜?どこがぁ?」


『考えてます』という文字が顔に出てますよ。
芥川は分かりやすいですね……。そもそも隠そうともしていませんし。


「ちぇー、いいよな。お前らは近くて。俺は県が違えからいつでも会えるってわけじゃねーし」


丸井が溜息をしながら言った。


「そんなことないよ!まーくんが立海に居るって分かったから、お休みの日とか遊びに行くもん!」
「お、本当か?楽しみにしてるぜ〜(でも、仁王に会うためなんだよなぁ……)」


複雑ですが、それでも嬉しいことには変わりありません。
理由がなんだろうと、会えるんですからね。


「……じゃあ、そろそろ寝る?」


電気のスイッチに手を掛ける河村。


「あ、うん!えーっと、麻燐はここのベッドだよね!」
「そ。んで、俺がこっち」
「俺も麻燐の横ー」
「ちぇ……。でもま、仕方ねーか」


横の人はご機嫌で。
桃城はまだぶつくさ言ってます。
大石と河村は苦笑いでしたが、電気を消しました。


「おやすみなさぁい」
「「「おやすみ」」」
「おやすみ〜、麻燐、丸井くん」


芥川は二人限定ですか。
その後は全員寝つきがよく、昨日のようなことにはなりませんでした。





「あぁぁっ!」


翌朝、桃城の声が部屋に響きました。


「ん……?どうしたんだ、桃」


その声に気付き、大石と河村が起きる。


「どうしたの?起きるの早いね」


河村が眠たい目を擦りながら聞きました。


「い、いや、ちょっと喉が渇いて目が覚めただけなんスけど……。それより、見てくださいよ!」


桃城が指を差すのは麻燐のベッド。
どうしたんでしょうか。


「?……あ、」
「……こりゃ大変……」
「何で芥川さんが麻燐のベッドに居るんスか…」


桃城の言う通り、麻燐のベッドに芥川が居ました。
しかも、お互いを抱き枕だと思っているのか、抱きついてます。


「寝てる途中に入っちゃったみたいだね」
「『入っちゃった』じゃないッスよ……。これ、絶対わざとですよね」


十中八九そうでしょう。
一度眠りについた芥川が勝手に移動するわけないですからね。


「……どうする?時間は少し早いけど……起こす?」
「いや、俺達が起こしても無理だと思うッス」
「どうして?」
「……きっと、機嫌悪くすると思うッス。ここは、丸井さんに起こしてもらいましょう」


流石だね、桃城。
よく分かってます。


「丸井さーん、起きてください」
「ん…?……あ、?」


寝起きはいいのか、すっと起きる丸井。
そして自分を起こした桃城を見る。


「あー……桃」
「(桃!?)丸井さん、寝ぼけないでくださいよ……」
「ん……うん」


どうやら、頭は動いてないみたいです。
『桃』は完全にフルーツの発音でした。


「とにかく丸井さん、こっち見てください」


桃城がベッドを指差す。
丸井はそれに合わせて視線を動かす。


「……あ、こいつら……」


目の前には幸せそうに寝てる二人。
その光景を見てどうやら頭も冴えたようです。


「……って、はぁ!?何で芥川が麻燐のベッドに居んだよ!」
「それがよく分からないんス。多分、わざとだと思うんスけど……」
「いや、絶対わざとだろぃ」
「ですよね」


丸井もそう思ってる様子。
相手は芥川ですからね、そう思っても仕方ありません。


「ったく、麻燐も気付かず芥川に抱きつきやがって……」


呆れてるのか、呟く丸井。


「よし、布団剥ぎ取るぜ」
「了解ッス」


丸井の号令に桃城も良い返事をする。
そして丸井が布団の端を持ち、思い切り捲り上げる。


「起ーきーろー!おいっ!いつまでくっついて寝てんだよ!」


怒鳴るように起こしました。
すると、


「ん……むにゅ……ぁれえ?」


先に起きたのは麻燐。
今の状況に気付いたのか、抱きつかれてる芥川を見る。


「……ジロせんぱい…?」
「芥川も起きろー」


横で丸井が芥川を揺らして起こしていた。


「あ……ブンちゃん……おはよう」
「おはよ、麻燐」
「んぁ〜〜……まだ眠いC〜……」
「寝るんなら自分のベッドで寝ろよ」


不満そうに目を擦る芥川に丸井はぴしゃりと言った。


「あれぇ?……ジロ先輩、麻燐のベッドで寝てたの?」
「だって〜、麻燐の隣が良かったんだもん」
「だってじゃねえ。ほら、ベッドから降りろ」
「むぅ……」


仕方なく芥川は麻燐のベッドから出ました。


「そっかぁ、だから寝てる時あったかかったんだ!」
「麻燐良い匂いしてたC〜」
「あ、芥川さん……そんなこと思ってたんスか?」
「ほんとのことじゃん」
「そうかもしれないッスけど……」


ぶつぶつ言うのは嫉妬の表れです。
羨ましいんですよね。


「う〜ん!よく眠れたぁ〜!」


完全に目を覚ました麻燐が伸びをしました。


「皆、おはよう!」
「おはよう、麻燐ちゃん」
「おう、おはよっ」


まだ挨拶を済ましてない人にも挨拶をして、


「今日も、部活頑張ろうね!」
「お、おう……そうだな」


桃城も、嫉妬のことを忘れ、麻燐の笑顔を純粋に可愛いと思いました。
一件落着!


「麻燐っ!一緒にご飯食べよ〜?」
「うん!行く!」


張り切ってる麻燐と芥川を桃城たちが追いかける形で食堂に向かいました。