「麻燐の隣ゲット!」
「うぅ〜、向日ずるいぞ!」
「へっ、スピードは俺の方が勝ってんだよ!」


日吉が食堂に足を踏み入れると、子供の言い争いのような声が聞こえました。
眉を寄せながら席を見ると、


「……ファンタは無いの?」


夕食時までファンタを飲みたいと言う麻燐の左隣に座る越前。


「次は負けないからなっ!」
「俺だって負けねーかんなっ!」


麻燐の右隣に向日が座り、その隣に菊丸が座ってます。
タッチの差で席が決まったようですね。


「……向日、菊丸。食事中は静かにしろ」


そして、麻燐の目の前が礼儀正しくしている手塚。


「……むぅ」
「……俺、こいつ苦手」


二人は表情が沈みました。


「今日の夕食、麻燐の好きなものばっかり!」


そんな3人に囲まれて、麻燐は夕食を楽しそうに食べてます。


「………」


日吉はしばらくその様子を見ていると、


「あ、日吉〜。残念だな。もう席は空いてないぜ」


向日が気付いて話しかけた。


「……別にいいですよ。狙ってませんから」


目を逸らして言うと、空いている席に座った。


「ふんふんふーん♪」


さて、麻燐はご機嫌です。
ニコニコと料理を頬張ります。


「……よく食べるね」


その様子を見ていた越前が少し呆れ気味に言う。
最初に出会った時もお菓子をもりもり食べていましたからね。
そんなイメージがついてしまっています。


「うん!麻燐、食べるの好き!」


それに笑顔で答える麻燐。


「……そのくせ、小さいんだよね」
「あは、どうしてだろうね」


麻燐ちゃんは越前より小さいですからね。


「ま、別にそのままでいいけど」


それだけ言うと前を向いた。


「?そうかなぁ。リョーマくんが言うなら麻燐もそう思う!」
「おい越前!1年同士だからって抜け駆けすんなよなっ」


そこで割り込んできたのが向日。


「……関係ないと思うけど」
「クソクソ!チビのくせに生意気だぜ!」
「あんたもチビじゃん」
「俺はチビじゃねえ!」


麻燐を挟んで口論をしています。1年相手に大人げない……。


「まー、どっちもどっち、だにゃ」
「うるせー!」


途中で菊丸が笑いながら口を挟むとちゃんと返事をする向日。気にしていますからね。


「もう、二人とも喧嘩はだめだよっ!仲良くしないと〜」


それを困った顔で止める麻燐。


「ほらっ、麻燐のミートボールあげるからっ!」


そう言って3人に自分のミートボールを渡した。


「「「(食べ物の問題じゃないんだけど……まぁ、いっか)」」」


麻燐の優しさで3人の争いは納まりました。


「………麻燐、」


しばらくして、手塚が麻燐に話しかけた。


「ん?どうしたの?」
「さっきから気になっていたんだが……」


手塚は立ち上がり、麻燐へと顔を近づける。
周りはぎょっとした顔で手塚を見る。


「お前……」
「?」
「口元が汚れている」


そう言って、自分のハンカチで麻燐の口元を拭いた。


「ふぇ……」


麻燐は突然の事で小さく声を漏らす。
そして、手塚は綺麗に汚れをハンカチで拭き取った。


「……麻燐、綺麗になった?」
「ああ、綺麗だ」
「ありがとうっ!ブチョ!」


いつの間にか手塚の呼び名が「ブチョ」に変わっていた。
だが、手塚は気にしていない様子だった。


「(て、手塚が怒らないにゃ〜〜……)」
「(ってか、よく『綺麗』とか普通に言えたな)」
「(……手塚部長ってこんな人だっけ)」


3人は言わないだけで、疑問は沢山ありました。
手塚の意外な一面を一部知り、その日の夕食は終わりました。