午後の練習は、皆集中できないまま終わりました。
何せ、麻燐ちゃんがあの格好ですからね。
可愛くて気になっちゃう人や、見えるんじゃないかヒヤヒヤしている人。
色んな気持ちがあった午後の練習になったと思います。


「ふぅ〜、服乾いたぁっ」


部室の裏に干してあった自分の服を取りました。


「……乾いたみたいだな」
「あ、わか先輩!うん、もうばっちり!」


確認をしにきたのか、背後から声をかけた日吉に親指を立てて言う麻燐。


「んじゃあ、今から着替えてくるねっ」
「ああ」


日吉にジャージを返すために部室に着替えに行きました。


「………ほんとに、困ったマネージャーが入ってきたな」


日吉は溜息交じりで改めて呟きました。


「わーか先輩っ!」


早くも着替えてきた麻燐。
小走りで日吉の目の前に来ます。


「ジャージ、ありがとうっ」


笑顔でジャージを差し出した。
きちんと畳まれているが、何故だか一瞬それが自分のものとは思えなかった。


「………」
「……あ、やっぱり、洗って返した方がいいのかなぁ……?」
「……いや、別にそのままでいい」


日吉は目を逸らしてジャージを受け取った。


「(そんなにキラキラした笑顔で見るなよ……)」


どうやら、日吉は麻燐ちゃんの悩殺スマイルにやられたみたいです。


「ほんとにありがとうねっ!」
「ああ、分かった」


答えたにも関わらず、まだにこにこしている麻燐。


「……どうしたんだよ」
「えへへ、何かね、わか先輩っておにーちゃんみたいだなぁって」
「は?……」


少し眉を寄せたが、純粋に言っている麻燐の笑顔を見ると何も言えなくなりました。
もちろん嫌な気はしない。しないのだが。


「おーい、麻燐〜!早く食堂行くぜ〜!」
「今日こそは隣に座ってやるからなっ!」


遠くから宍戸と向日が呼びました。


「あ、はーい!今行くー」


日吉にまたねと手を振って、麻燐は行きました。


「……兄、か…」


何か複雑な表情で呟きました。





「ひ〜よ〜し〜〜」
「!?」


不気味な声が日吉の耳元で聞こえた。
日吉は驚いて後ろを振り向きます。


「お、忍足さん!急に出てこないでくださいよっ!」
「そう驚かんでもええやん。ルームメイトやねんで、仲良くしようや〜」


また企んでるような笑みで日吉の肩に腕を乗せました。


「……このまま古武術でやられたいですか?」
「おー怖。わかったって」


冗談とでもいうように腕を引っ込めました。


「で、そのルームメイトからのお願いやねんけど」


にこにこと日吉を見る忍足。
日吉は何だこいつ的な視線を忍足に向けます。


「……それなら簡潔にお願いします」
「簡単なことなんやけど、」


少し間を置いて、


「そのジャージ、ちょっと俺に貸してくれへん?」
「いっぺん死にますか?」


汚いものを見るような目で吐き捨てる日吉。


「頼む!明日には洗って返すから!」
「絶対に嫌です」


この言葉から忍足が何をしようとしたのかがよく分かります。
日吉は固く拒否する。


「しゃーないなあ。んじゃ、日吉の次で「ふっ!」……うぐほっ!」


とうとう忍足は日吉の古武術によって投げ飛ばされました。
自業自得ですね。


「ったく、貴方は何を考えているんですか」


気絶している忍足に向かって言う。
半日麻燐が着ていたからといって、麻燐の匂いはそんなに移っていないと思いますがね。


「………。これは、安全なところに置いた方がいいな」


持っているジャージを見て呟く。そしてやはり明日洗おうと強く思った。
そして、忍足はそのままで日吉は食堂へ向かった。


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