「よし、今日は洗濯にチャレンジしよう!」


練習も始まり、マネ室にて笑顔で言った麻燐。
またまた嫌な予感がします。


「昨日はドリンクだけで終わっちゃったし……」


目の前の洗濯の山を見ます。


「綺麗なタオル使ったら気持ちいいよね!」


今日も晴天。夏も近づき温度も上がる頃。
麻燐も肌でそれを実感してます。


「よーし、目指せふんわりタオル!」


頭の中に洗剤等のCMを浮かべ洗濯に気合を入れてます。





「はぁ〜〜っ、疲れたぜ〜〜…」
「……向日さんも、体力落ちてきましたね」
「う、うっせーよ、ヒヨッコが」


練習も一息ついて休憩中。


「……おい、日吉」
「…なんですか」
「悪いが、この洗い物を部室に持っていってくれないか?」


跡部が指し示したのは、今日使ったタオルやら、汗で着替えたユニフォームなどが溜まったカゴ。
朝からハードな練習をしているとすぐにいっぱいになってしまいます。
その雑用ともいえる仕事を頼まれ、日吉は眉を寄せる。
だが、相手は跡部だったので逆らいません。


「分かりました」
「そうか。鳳も手伝ってやれ」
「はい」


そして、皆から最後にタオルを回収して部室に向かう途中、


「……あ、」
「ん?……チビ助か」


部室の少し前で、同じようなカゴを持ってる越前に出くわしました。


「越前くんも洗い物回収?」
「まあね。……ったく、桃先輩たちが押し付けるんスよ」
「あはは、大変だね」
「おっ、お前らも先輩に言われて?お互い大変だな〜」


その間に入ってきたのは切原。


「お前もか」
「そ。…ったく、後輩だからって面倒だよな。……ジャッカル先輩でも手伝わせればよかったかな」


それはジャッカルが可哀想です。
切原はもう少しちゃんとジャッカルを先輩扱いしてあげてください。


「まぁ、とにかく入るぞ」
「中には麻燐が居るんだろ〜?」
「仕事の邪魔にならないようにしないとね」
「……仕事、やってんの?」


失礼な。
麻燐ちゃんはちゃんと洗濯を………。


「「「!?」」」


先頭の日吉がドアを開けた瞬間、何やら泡らしきものが浮いているのが見えました。


「うっきゃあっ!もー、どうしちゃったのぉ……?」


泡の発生源である奥の部屋からは麻燐の声。
……もしかして、


「麻燐?何やってんだよー!」


切原が泡を掻き分けて入っていきます。
鳳もそれに続く。
日吉と越前は大体予想がついたような顔でいます。


「うえぇ……赤也〜〜っ」


麻燐の居る場所まで辿りつくと、麻燐は涙目で皆を見上げて助けを求めます。


「っ?麻燐…っ!」


切原は泡に包まれてる麻燐を抱き上げました。


「どうしたの?麻燐ちゃん」
「チョタ先輩……、洗濯をしようとしたらね、洗濯機が怒って……」


麻燐はヴヴヴと激しく動いてる洗濯機を指差しました。


「大丈夫。こんなのすぐに直るから」


鳳は麻燐に爽やかな笑顔を向け、ポチッとストップボタンを押しました。
洗濯機は一瞬にして静かになった。


「……あ、おとなしくなった…」


麻燐はまた呟く。


「ふぅ、びっくりしたぜ〜」
「あう……ごめんね、皆……」
「いいよ、麻燐ちゃん」


情け無さそうに眉を下げる麻燐を見て、鳳が麻燐の身体についた泡を払いながら宥める。


「………切原」
「なんだ?」
「いつまで抱いてるつもりだ」
「あ……」


切原の腕にはまだ麻燐が居ました。
それを日吉が注意し、引き剥がす。
あまりの手際の良さに切原は呆然としています。


「あう〜……冷たい」


麻燐の服は多少泡は取れたものの、濡れてました。


「……ねえ」


越前が後ろから声をかける。


「とりあえず、ここから出ようよ」
「……そうだな」


床もびちゃびちゃで落ち着いて話せるような状況ではありませんからね。
5人は場所を移動した。


「………で、どうしてあんなことになったんだ?」


麻燐はとりあえずタオルで濡れた服を拭いている。


「ん……とね、今日は、昨日できなかった洗濯をやろうとしたの」
「ああ」


跡部から言われた仕事に入っていましたからね。切原が頷く。


「で……ほら、ふんわりしたタオルで拭いた方が気持ちいいと思って……」
「うん」


一生懸命伝える姿と麻燐の優しさを聞いて鳳も優しく相槌を打ちます。


「だから…………洗剤をたくさん入れたら……」
「……やっぱり」


予想通りの言葉が出てきたため、日吉が呟く。


「そしたら洗濯機が急に怒り出して……」
「別に洗濯機は悪くないけどね」


越前も呆れて言う。正論ですが、麻燐はシュンとしてしまいました。


「まぁ、失敗は誰にでもあるからね?次は俺が教えてあげるから」
「うん……」


悪気がないのは分かっていますからね。何気に自分をアピールするところもさすがです。


「はぁ〜、でも、怪我がなくてよかったぜ……」


切原はほっと息を吐く。それが何よりです。


「………でも、」


麻燐は口を尖らせた。


「……でも?」
「昨日のお洋服……全部だめになっちゃった……」


台無しにしてしまったことが心残りで、麻燐は悲しそうに言います。


「またすぐ洗濯し直せば問題ない」


フォローもそうですが、実際まだ間に合うので日吉は告げる。


「今度は俺も一緒にやるから大丈夫だよ」
「ありがとう、チョタ先輩……あと、それとね、」


鳳の優しい微笑を見てお礼を言う麻燐。
だがまだ言いたいことがあるのか、上目で皆さんを見ます。


「……麻燐の服も全部……濡れちゃって……」


今着ている服も、いくらタオルで拭いたからとはいえ簡単には乾きません。


「もしかして、着替えは……」
「……今着てるので、もうないの」


どうやらだめになってしまった洗濯物の中に残りは入ってしまっているようですね。


「………冷たい」


麻燐は何か言いたげな目で皆を見る。


「……つまり、服を変えたいんだな?」


日吉の問いに静かに頷いた。


「……じゃあ、この中の誰かのジャージを貸せばよくね?」


切原の言葉にしばし沈黙。
全員がお互いの顔を見つめていました。
新たな問題が浮上してきましたね。


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