※基本、この物語は第三者視点(ナレーター)が進行していきます。




今日は氷帝学園中等部の入学式から3日目と、桜の花も散る前の良い日和。
新1年生である笠原麻燐はある人物の元に向かっていました。


「すみませ〜ん」


音楽室に入ると人が二人いました。
ビシッとスーツで決め、首元には薔薇スカーフで着飾るまるで教師に見えないような人物と、泣き黒子があるすらっとした男子生徒。


「む…(か、可愛いな)な、なんだ?」


教師らしき人物は麻燐を見て男子生徒との会話を中断させます。


「(監督……目が犯罪者だな)」


あまりの食いつきように、男子生徒は目の前の中年男性を軽蔑の眼差しで見ます。
そんなことも気にせず、麻燐は変人に怯むことなく話しかけます。


「えっと、テニス部の顧問の先生ですか?」
「そうだが」
「良かった!えっと、麻燐をテニス部のマネージャーにして下さい!」
「いいだろう!」
「(おいおい、早いな)」


あまりの決断の速さに言葉も出ない男子生徒。


「お嬢さん、きみの名前は何だ?」
「あ、えっと、笠原麻燐です!」
「そうか…詳しい話をしなければならないので、今度私が一人の時にここに来なさい」
「ほぇ?」


ご丁寧に膝を折り麻燐と視線を合わせたまではいいですが、肩に手を置いたうえにその発言。事案発生待ったなしです。
突拍子もない言葉に一瞬目を点にした麻燐ですが、


「ふざけんな43!」
「ぐあっ!」
「まじでキモイんだよ!」
「ぐほっ…あ、跡部…、麻燐ちゃんを、部室に…案内し…」


後ろにいた跡部により事案発生は未然に防ぐことができました。グッジョブです。
突き飛ばされバタッと倒れた43……と呼ばれたのは榊。
音楽教師でありテニス部顧問であるれっきとした教師です。念のために紹介をしておきましょう。
登場して数分もたたないうちに永眠となりましたが。


「あれ?先生寝ちゃったのー?」
「放っておけ。……ほら、行くぜ」
「あ、うん!」


突き飛ばしは麻燐の見えない所でのことなので、麻燐にはそう見えたようです。
まあ大丈夫だろうと天性のポジティブシンキングを発揮し、麻燐は跡部に手を引かれて歩き出した。


「ねぇねぇ!貴方はだぁれ?」
「アーン?俺様を知らねぇのか?」


まるで子供のような問いかけに、跡部は思わず立ち止まり麻燐を凝視します。
知らない人についていってはいけませんよ。


「うん!だって、初めて会ったでしょ?」
「……入学式ん時、挨拶しただろーが。俺様は生徒会長だ」
「せーとかいちょー!うわぁ、凄いんだね!」


まるで初めて見たというように目を輝かせ跡部を見上げる麻燐。


「知らなかったのか?」
「うん!あの時は麻燐のお昼寝の時間だったから!」
「寝てたのかよ」
「うん!…あ、ということはテニス部のぶちょーさん?」
「そうだ。…それは知ってるんだな」
「うん!クラスの子が噂してたから!」
「そうか」


やはり俺様の噂は光の速さで駆け巡るなと鼻を高くした跡部。


「チャームポイントは泣き黒子だって!」
「な ん だ と」


初めに目についてしまうので仕方ありませんね。


「違うの?」
「…いや、違…わねぇけど(何か子供と話してるみてぇだな)」


まだ小学生から上がったばかりですから。
というか、大分本題からずれてるのですがいいのでしょうか?


「おー、跡部ー」
「あ?忍足か?」


二人の姿を発見したのか、忍足と呼ばれる人物が声を掛けました。
振り向き、麻燐と目が合った忍足は目を大きく見開く。


「……どうしたん?この子」
「ああ、こいつは…」
「めっちゃ可愛え!」


忍足、ロリコン魂を抑えきれず、説明も聞かずに麻燐に抱きついた。


「あはは、むぎゅー」


麻燐ちゃん…抱き返したら忍足がその気になっちゃいますよ?


「っ!…お兄ちゃんとあっちの校舎裏に行こか」
「待て変態伊達眼鏡」


跡部、何だか凄いオーラを出しています。
そして物凄い力で忍足の肩を掴んでいます。
変態というものは総じて、ターゲットと二人きりになろうとしますね。


「あ、あはは…じ、冗談やんか…(ってか酷い事言うてなかったか?)」
「てめえのは冗談に聞こえねぇんだよ」


未だにギロリと睨みつける跡部。


「そ、それより…この子はどうしたんや?」


とりあえず話を変えよう…そう思った忍足は早速行動に移す。


「今日からうちのテニス部のマネージャーをやる事になった」
「ほんまか!俺めっちゃ嬉しいわ!」


喜ぶ忍足の無邪気な舞いに跡部はドン引きです。


「麻燐も嬉しい!あ、あそこが部室?」
「そうだ」
「よーっし!れっつらごー!」


どうやら歓迎されていると感じた麻燐は忍足を真似るように飛び跳ねる。
そして視線の先にテニス部員らしい姿の人物が出入りする部屋を見つけ、言葉と共に麻燐は走る。


「あ、おいっ、待て…!」
「嬢ちゃーん、走ったら危ないでー!」


それに続き跡部、忍足も走った。
傍から見ると怪しい追いかけっこですね。





出会い
(いやあ、天使に会うた気分やなぁby忍足)