「青学の皆〜っ!ドリンクだよ〜!」 声は聞こえるものの、姿が見えず。 「あっ、麻燐!」 ドリンクを持っているので慎重にこちらに向かっていました。 零したらいけないですからね。 そんな麻燐の姿を見て、青学は自分たちから近寄りました。 「ったく、危ねーなぁ、危ねーよ」 「っあ、桃ちゃんっ!」 「ドリンクもーらいっ」 「英二もっ!」 そして次々と減るドリンク。 麻燐のトレイにはドリンクが無くなりました。 「ありがとう。重かっただろう」 「えへへ、平気だよっ!皆の為だから!」 「優しいね、麻燐ちゃんは」 「ありがとっ!」 手塚と河村もドリンクを受け取る。 青学でも褒められて、上機嫌な麻燐。 「うん。麻燐はいいお嫁さんになるよ」 「あはは、そうかな〜?」 「勿論。今度僕のところに花嫁修業に来ない?」 「修行?」 「「「不二(先輩)っ!!」」」 「くす。冗談なのに」 冗談に聞こえませんよ。 誰もが本気に取ります。 「……それより麻燐ちゃん。調理場に大きな果物を見なかったかい?」 「ん、果物……。あ、あった!えっと……ドr「いや、あったんならいいんだ」……ほぇ?」 「新乾汁の材料に使う予定なんだ。だから、あの果物の存在は気にしなくていい」 「いぬいじる……?」 乾は小声で聞いたつもりだが、麻燐の反応と汁という単語に敏感な皆さんはすぐに気付きました。 「うげーっ!また乾が変なの作る気だっ!」 「勘弁してくださいよ〜…」 「ふっふっふ。大丈夫だ。今回は苦味と甘味の両方を加えバランスを保つつもりだからな」 「「「それが余計に不味いんだよ」」」 乾は分かってやってるに1票。 「……美味かった」 そんな中、トレイにドリンクのコップを戻したのは海堂。 今までで全部飲んでくれたみたいです。 「わあ、もう飲んでくれたのっ?ありがとう!」 「……つ、疲れてたからだ」 「今度っ、薫ちゃんのは少し多めにするねっ!」 「なっ……」 「おいっ、マムシだけずりーなぁ、ずりーよ。俺のも多めで頼むぜっ!」 「桃ちゃんも?分かった!」 「にゃー!俺も俺もっ!」 「英二もね?うん、頑張るっ!」 皆抜け駆けは許しません。 たかがドリンク、されどドリンクです。 「……あれ?」 そこで、麻燐が何かに気付きました。 「ん?どうしたんだい、麻燐ちゃん」 「あのね……リョーマくんってどこにいるの?」 さっきから姿が見えない越前を心配する麻燐。 「ああ、おチビなら心配ないにゃ。もう少し向こうで打ってるって」 「まだリョーマくんの分渡してないのっ。麻燐、渡してくる!」 「あっ麻燐……」 麻燐ちゃんは、少し走ってコートに向かいました。 「……越前の奴」 「抜け駆けかにゃ〜?」 「くす。いけないね」 そう言いながら、顔は面白そうににやけている先輩たち。 「はは……楽しそうだな」 「そうだね」 理由を知ってか知らずか微笑ましく見ている優しい人たち。 生意気な後輩が同い年の女の子と仲良くできそうなのが嬉しいのでしょう。 いい先輩たちですね! 「リョーマく〜んっ!」 「ん……?あ、あれって……」 コートに居た越前が麻燐に気付きました。 「リョ、リョマく〜んっ…」 「……横棒抜けてるけど」 「は、はい、ドリンク!」 「…あぁ、もう来たんだ」 汗を拭って麻燐の持っているドリンクを手に取った。 「………」 「………」 「………」 「………」 「………何?」 じーっと越前の顔を凝視していたため、疑問に思い越前が聞く。 「ドリンク、おいし?」 にこっと笑って答えを待つ麻燐。 「……俺はファンタの方が好きだけど……」 「…ファンタ?」 「そ。グレープ味。炭酸の」 「うーん……」 素直に美味しいと言えばいいものを。 ですがその言葉をアドバイスだと思った麻燐は少し考えました。 「分かった!じゃあ、次からリョーマくんのドリンクにグレープと炭酸入れてあげる!」 「そんな事しなくていいから」 「え〜…そう?」 「そう。これでいいよ」 最後に一気にドリンクを飲んで麻燐にコップを返しました。 そしてまたラケットを持ってボールを打ちました。 「リョーマくんって凄いね!」 「……いきなり何?」 「だって、麻燐と同じ年なのに、レギュラーで強いなんてっ!」 この合宿唯一の同い年。 だから麻燐は親近感も他の人よりあり、余計に仲良くなりたいのでしょう。 「……まぁ、小さい頃からやってるし……。あんただって、よくあんな学校でマネやってられるね」 「?皆優しいよっ!お手伝いするの楽しいし」 「……ふーん。まぁ、頑張ったら?」 「うん!」 越前の言葉は少し皮肉っぽかったが、麻燐は気付きません。 素っ気ない態度にも麻燐はなんだか嬉しそうです。 「………」 「………」 「……いつまでそこに居る気?」 「あっ!まだ立海のところに行かなきゃっ!じゃあね、リョーマくん!」 「ん」 麻燐はトレイを持って急いで戻りました。 早く届けたいと焦ったのか、途中で何度かつまづきそうになっていました。 「……変なの」 その健気な後ろ姿を見て、越前は少し笑いながら呟きました。 ×
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