「……立海には、『まーくん』が居るんやろ……?」


待ち時間中、忍足が小声で宍戸に聞いた。


「ああ。幼馴染のな」
「……くそくそ、嫌な予感がするぜ……」


向日は眉を寄せて言う。その予感は当たりますよ。


「あ〜!来たぁ」
「「「!!」」」


麻燐の声に、皆反応しました。
睨むようにこっちに来るバスを見てます。
氷帝の皆さんはもはや威嚇状態。
青学の皆さんも、久しぶりに立海と会うためか、注目しています。


「まーくんっ!」
「おー、麻燐。先に居ったんか」


会った瞬間、麻燐が仁王に抱きつきました。
宍戸と日吉以外、改めて麻燐の懐きっぷりに驚いてます。


「えへへ、まーくん、ちゅー」
「「「待て待て待てぇ!!」」」


また麻燐が仁王の頬にキスをしようとした時、氷帝メンバーは止めに入りました。
愛ですね。


「はわわっ…皆〜、何するの〜〜??」


仁王から引き剥がされた麻燐は、困った顔で氷帝メンバーを見上げます。


「麻燐ちゃん、ここは日本だから、会ったらキスをするなんてことしなくていいんだよ」
「そうや、仁王にキスなんてしたら妊娠してまうで!?」


鳳は小さな子供に言い聞かせるような態度で言います。
忍足、やきもちからなのか話が飛躍しています。どうしてそんな言葉が出るんですかね。
全員明らかに引いてますよ。


「おーおー、冷たいのう」


氷帝メンバーの気持ちが分かったのか、笑いながら両手を挙げる。
これはこれで皆の反応が面白いようです。


「……麻燐は渡さねぇぜ」
「くく、麻燐は俺のものじゃよ」


跡部まで仁王に警戒というか忠告をしています。
まさに一触即発ですね。
会って早々、何をやっているのやら。


「僕も参加しようかなっ」


これが楽しそうに見えるのか、不二が無邪気に言います。
いや、貴方は入ってこないで下さい。
余計ややこしくなりますから。


「先輩たちばっかりずるいッス!俺も麻燐に会いたかったのに!」


ここで仁王の後ろからひょこっと現れたのは切原。


「あ〜!くるくる〜!!」


切原を見て一言、麻燐が楽しそうに言う。
後ろで、氷帝・青学メンバーが笑いを堪えてます。


「ちょっ、俺はくるくるじゃねー!!」


切原、否定します。
そりゃあ否定したいですよね。事実だとしても。


「麻燐〜、久しぶり」
「あ、ブンちゃん!久しぶりぃ〜」


今度は丸井が現れました。


「な、何でブン太先輩は『ブンちゃん』で俺は『くるくる』なんだよっ!」


切原、納得いかないのか麻燐に抗議します。


「え〜と……じゃあ、赤ちゃん?」
「それは絶対に止めてくれ」


ブンちゃんという呼び方に倣ったあだ名ですが、それはさすがに呼んではいけません。
『くるくる』より嫌そうですね。


「普通に名前でいいって。ほら、『赤也』」
「ん、赤也〜〜」
「おっ、ちゃんとできんじゃん」


呼び捨てでもいいんだ。
麻燐ちゃん、良かったね。


「「「(何か羨ましい……)」」」


氷帝の皆さんは総じて『先輩』が付いていますからね。
それが慣れているとはいえ、呼び捨ても新鮮に聞こえます。


「ふふふ、皆酷いね。俺の存在忘れてる?」


やっとお出ましですか……。
そして忘れるわけがありません。


「あ゙…幸村部長……」
「赤也、後でグランド30周ね」
「な、何で俺だけッスか!?」
「何となくだよ」


魔王に逆らわない方がいいですよ。
さすがの切原も幸村の威圧感には反抗できないのか、項垂れしまいます。


「……遅れてすまない。少々荷物が重くてな」


遅れて登場してきたのは真田。
その後から柳、柳生、ジャッカルも着ました。
真田の手には何やら大きなカバンがあります。


「ん?そのカバン、幸村のじゃね?」


丸井が気付き言うと、真田は、


「ああ、そうだ。幸村が用があると言っていたのでな」
「「「(絶対パシられてるだろ)」」」


誰もがそう思ったのか心の中で呟きます。
病み上がりとは思えないパワフルさですから、疑われも仕方なさそうです。


「すごぉい!弦ちゃん力持ち〜」


自分では到底持てないであろう荷物を軽々と持っている真田を見て、麻燐が感心して言います。


「な、何が弦ちゃんだ!!」
「ひゃっ!!」


ですが真田が大声を出したので、麻燐は驚いて少し離れました。


「ふえぇ……嫌、だったぁ……?」


怒られたと思ったのか、泣きそうな顔で真田を見る麻燐。
驚いた真田の顔はおっかないですからね。


「っえ、あ、いや……その……」
「弦一郎、子供相手に怒鳴るとは良くないな」


柳……その発言もどうかと思いますが……。
さすがに少し罪悪感があるのか真田は言葉をつまらせます。


「真田くん……レディを泣かせるとは、関心しませんね」


柳生も、困った様に腕を組む。


「弦ちゃん…怒っちゃった……?」
「麻燐、泣かないで。後で真田にはよ〜〜〜〜く言い聞かせておくから」
「!?」


落ち込む麻燐の頭を撫でながら幸村がにっこり笑顔で言う。
……真田、ご愁傷様です。


『あ〜……あ〜……麻燐、愛してるぞ……』


真田への制裁が決定した後、どこからともなく声が聞こえてきました。


「……どっかで聞いたことのある声だな」


宍戸が心底嫌そうに顔をしかめた。


「……つーか、内容がキモいんだけど……」
「これって、絶対あれですよね」
「ああ。これは……」

『私、榊太郎は麻燐をとても愛している……』

「あれ?太郎ちゃん?」
「麻燐、耳を塞げ」
「この放送に耳を傾けんなよ」


氷帝メンバーは麻燐に言い聞かせました。
一人の少女を守ろうとする姿は何とも勇ましいです。


『ああ……私の麻燐……』


………。
誰も、何も言いません。
これ以上は氷帝の恥だと言わんばかりに、早く終われと心の中で願います。


『………マイクテス終了』
「「「マイクテストだったのかよぉぉぉ!!」」」


最悪なマイクテストですね。新手のテロかと思いました。
しかし皆の怒りを知らない43は、


『テニス部員たちは今すぐ屋内ステージのある場所に来い。今回の合宿の説明をするぞ。………もう、何時間待たせているんだ』


最後、寂しそうな声で言いました。
止めてください、鳥肌立ちますから。
ていうか、時間はまだ余裕があるんですが……いつから待っていたのでしょう。
そして放送が切れました。


「………………行くか」


少しの間迷った跡部。
だが放っておいても後が面倒と思い決断します。


「そうだな。部屋割りも発表されるだろうし、荷物も持っていこう」
「おっ、それは楽しみッスね!早く行きましょう!」
「うん、さっきの放送の主に言うこともあるしね」


冷静な手塚に盛り上がる桃城。
そして何を言う気ですか、不二は。


「皆〜!早く行こ〜?はくお部屋に行きたい!」


何だかんだぶつぶつ言ってる人も居ますが、麻燐と一緒に仲良く行きました。


「あっ!くそくそ丸井、麻燐から離れろよ!」
「んだよぃ、別にいーだろ!」


………仲良く、しましょうよ……。