「ねぇねぇ」
「アーン?なんだ?」
「今度、合同合宿の挨拶に行くって、ほんと?」


麻燐の問いに、一瞬口をつまらせる跡部。
そして意を決して持っていた本をパタンと閉じました。


「……何で知ってる?」
「えへ、さっきね、がっくん先輩たちが話してるのを聞いちゃった」
「……岳人、忍足、ジローか?」
「「「何で分かるんだよ!」」」


他の人物の名前まで言い当てられ、犯人たちは口を揃えて言う。


「合宿で盛り上がりそうなのはお前らくらいだからな」
「ねーねー、いろんな所に挨拶しに行くんでしょー?麻燐も連れてってー!」
「「「それはだめ」」」


部室内に居た全員が即答です。


「えー、どうして?」
「他校でナンパでもされたらどーすんだよ!」
「麻燐、可愛くないから大丈夫だよー」


向日の真剣な言葉に、あははとあどけない笑顔を見せる麻燐。


「「「(その笑顔が可愛いんだよ!)」」」

「でも、麻燐ちゃんは方向音痴だから迷っちゃうよ?」
「あー……そうかも」
「な?だから、だめや」
「でも、皆がついてきてくれるでしょ?」


その発言に、思わず「えっ」と言う顔をする皆さん。


「皆、優しいから、麻燐に色々教えてくれるでしょ?」
「「「うっ…(耐えろ、耐えるんだ!)」」」
「麻燐…皆と行きたい……」


上目遣いをし、甘えたように話したと思えば、捨てられそうな子猫のように切なそうな顔をする。
麻燐ちゃん、これで天然だから凄いです。


「俺が付いてったる!」


一番我慢が出来なかったのは忍足です。
立ち上がったのと同時に皆さんからどつかれてしまいました。


「くそくそ侑士!俺、我慢してたのに!」
「せやかて生殺しやん!こんなに萌えるに!」
「忍足さん……少し我慢を覚えて下さいね」


後輩にまで説教をされる忍足。もはやいつもの光景です。


「やったー!麻燐も連れてってくれるんだぁ!」


麻燐ちゃん、忍足の気も知らずに(知らなくていいけど)喜んでます。


「……ちっ、あの伊達眼鏡が……」
「あーあ……これでまたライバルが増えるのかよー」
「忍足の所為だCー」


麻燐を行かせたくないのは本音がつい出てしまっていますね。
麻燐の可愛さは皆さんよく分かっていますから。


「それで、どこに行くの?」


そんな皆の気持ちも知らずに、麻燐ちゃんは行く気満々です。


「……立海と青学だ」
「りっかいとせーがく、かぁ……合宿って、いつから?」
「……明日だ」
「えぇっ!もう?なんで早く言ってくれなかったのぉ?もう行かなきゃだめだよー」


そう言って出かける準備をする麻燐。
マネージャーとしてのやる気は満々です。


「「「(麻燐を連れてったらライバルが増えるからだっ!)」」」


心の中で頭を抱え込む皆。
とことん麻燐バカが揃っていますね。


「……ちっ、しょうがねえ。問題は、誰を連れて行くかだな」
「え?皆で行けないの?」


当然のように皆と団体行動だと思っていた麻燐は目を丸くする。
まぁ、挨拶程度なら代表者のみで良いですからね。


「俺が行くC〜!」
「くそくそ!ジローが行くなら俺が行くっ!」


真っ先に名乗りを上げたのは芥川。
先を越されまいと向日も威勢よく手を上げます。


「そうだな……宍戸と日吉、お前ら付いてけ」
「「俺(ですか)?」」


本人たちは予想していなかったのか、思わず声を上げて跡部を凝視します。


「ちょ、何で宍戸と日吉!?」
「俺も行きたEー!」
「お前らだと麻燐と同じで騒いで挨拶になんねえだろ」
「「うっ……」」


安易に想像がつくのか、跡部はずばりと言う。
そして二人は図星なのか何も言えなくなっています。


「あの、俺は?」
「鳳は……忍足の見張りを頼む」


跡部、それは今思いついたでしょう。
どうやら黒い人と麻燐を一緒にするのも心配なようです。


「はい、分かりました」


鳳、快く引き受けました。
忍足がこっそりとついていく可能性も十分に有り得るそうです。


「跡部さんは行かないんですか?」
「俺は明日の準備があるからな」


鳳の問いに跡部は溜息をつきながら答えた。
本当は麻燐の傍にいてあげたいが、どうも手が離せないみたいです。


「麻燐」
「ん、なぁに?」
「お前は、菓子を食ってろ。いいな?」
「わぁい!分かったぁ!」


跡部、麻燐の扱いには慣れてます。
お菓子に夢中になれば他校との接触も最小限に抑えられるだろうという目論見です。


「……俺たちは拒否権無しかよ」
「ま、いいじゃないですか。……これで下剋上だ!」
「………」


溜息をつく宍戸と、小声で言いながらガッツポーズをする日吉。
比較的常識人な宍戸は荷が重くなりました。

こうして麻燐、宍戸、日吉で合宿のについて挨拶に行きます!