「うぅっ……ふぇえ……」
「お、おい……そんなに泣くなよ……」
「そんな風に泣かれると……こっちだって寂しくなっちまう…」


手を目に当てて涙を流している麻燐。
それを、向日と宍戸が落ち着かせてる。


「ふぇっ…やだぁ、行かないで……」
「麻燐ちゃん……。出来ることなら俺も麻燐ちゃんと別れたないんやけど……」
「これだけは、しょうがないんだC〜…」


それをまた忍足と芥川が慰める。
麻燐の頭を撫でようと伸びた手を芥川が思い切りつねったのは誰も気付かなかったでしょうが。


「ねぇ、お願い……。麻燐とまだ一緒に居ようよぉ……」
「……俺様だってそうだ。…だが、これだけは俺様にもどうしようもできねぇんだ……」
「うぇえ…やだよ…皆と離れたくないよう……」


こうして、3年生と麻燐が悲しい雰囲気に包まれている時。





「ただの修学旅行で何やってるんですか」
「まるで永遠の別れみたいに。ねぇ、樺地」
「ウス」


日吉と鳳は呆れた様子で見ていました。
樺地は中立の立場ですが、一応返事はしておきます。


「あーもう!折角の雰囲気が台無しじゃねーかっ!」


向日がそんな2年生たちを見て言う。


「何が雰囲気ですか。2泊3日の修学旅行に」
「2泊3日でも麻燐ちゃんと別れるんは寂しーゆう話やんか〜」
「うぇ……麻燐も寂しい……」


麻燐はまだ涙を流しています。


「もう、そんなに泣かないの。俺達が居るから」
「っ……でもぉ…」


鳳が優しく慰めに入ると麻燐は涙を拭く。


「2年だけじゃ部活真面目にやるかとか心配らしいC〜」
「別にジロー先輩みたいに寝ませんから平気です」


振り向けば黒。
麻燐との態度の差は誰もが認めます。


「跡部さん、こちらの事は忘れていいですから(下剋上下剋上……)」
「はっ、俺様の居ない間に何をしようとしても無駄だぜ」


テニスの事でしょうか、それとも麻燐でしょうか。


「麻燐は俺様に懐いてんだよ」


麻燐でした。


「でも、好いているのは俺ですよ」
「なら愛しとんのは俺や!」
「「「忍足(さん)は論外」」」


面倒になってきたので目も向けずに言いました。


「皆して酷いわっ!せめてこっち見てぇや!」


寂しがりやな忍足。
ですが最早この扱いには慣れてきているご様子。


「でも、本当に大丈夫なのかよ。俺達が居なくても」


心配性な宍戸は麻燐を見て言う。


「はい。部活は俺達がまとめますから!」
「心配しなくて結構です。俺がまとめますから」


宍戸の前では良い姿を見せたいのか鳳が快い返事をしますが、対抗心むき出しな日吉は鳳よりも大きな声で答えた。


「そうそう。頼りになる日吉がいますから」


鳳、笑いながら言い直す。大人な対応ですね。


「っうぅ……」
「……麻燐」
「あう……わか先輩…」


いつまでも泣いている麻燐を見て、日吉が思わず声をかけた。


「俺じゃ頼りないか?」
「っそ、そんなことない……」
「なら、泣き止め。心配するな」
「……うん」


泣き止んだ麻燐の頭を日吉がポンポンと撫でる。
だんだんと扱い方がうまくなっているのは下剋上の成果ですかね。


「「「(送り出す側もいいな……)」」」


3年はそんなやり取りを見て密かに思ってました。


「なので、修学旅行楽しんで来てください」
「あはは〜。あ〜……鳳に言われるとな〜」


まるで厄介払いに近い態度の鳳に、芥川が首を傾げて呟きます。
今にもガン飛ばしが始まりそうな雰囲気。


「お、おみやげ買ってきてやるからなっ!」


向日が雰囲気を別の方向へと変えました。


「おみやげっ?わぁ、楽しみ!」


麻燐、もう元気になりました。


「麻燐が喜ぶんなら、俺も買ってきてやるよ」
「ほんと?」
「俺にもくださいねっ!」
「ああ」


元気になったのがやはり嬉しいのか、宍戸も笑顔で言った。
そして何気に会話に入ってる人約1名。


「あ…でも、皆のも買ってきてね?」
「安心しろ。俺様がちゃんと買ってやる」


ちゃんと他の2年のことも忘れない麻燐。
優しいですね。


「えっと、明日からだよね…」
「おい、もう暗い顔するな。分かったな?」
「うん!」
「んじゃ、また明日の朝に会おうぜ」


出発するのは朝早くですが、普段の朝練と同じような時間なので見送りができるようです。


「うん!麻燐、頑張って朝起きる!」
「ほんまええ子やなぁ……」


忍足がほろりと涙を流しました。


「帰ってきたら楽しいお話聞かせてね!」


全員で約束をし、その日は皆で帰りました。
跡部の長い車で。

次の日の朝も、結局今日みたいになったことは2年がぼやいていました。





お別れ……
(帰って来た時も一部嬉し涙を流してましたよ……by日吉)