「はぁ〜。何とかしてレギュラーたちに近づきたいなぁ〜…」 「?じゃあ、教室行ったらいいんじゃない?」 休み時間、クラスメイトと会話をしていた麻燐。 どうやら麻燐のお友達は人気者なテニス部レギュラーたちのお近づきになりたいようです。 「…もう、麻燐ならともかく、私たちが行ったらどんな目に遭うか……」 麻燐の場合、大歓迎で迎えてくれますよ。 学校中、「麻燐ちゃま〜!」という声でいっぱいになります。 麻燐が特別なのは重々承知しているのか、呆れた顔で溜息を吐く。 「……そうなの?」 「そうなの。……あぁ、せめて、好みのタイプだけでも知りたいな〜…」 「だから、お願い!麻燐、聞いてきてくれない?」 手を合わせてお願いするお友達。 「?皆の好みのタイプ……?」 「うん!お願いっ!」 「いいよ〜!んじゃあ、聞いてくるっ!」 それくらいなら自分でもできると、快く承諾しました。 そして、部活開始の少し前。 「皆の好みのタイプ、教えて!」 また唐突に聞きました。 「……好みのタイプ、か?」 「うん!」 珍しい話題に跡部が驚いたように聞き返す。 「何や、興味あるん?」 「……侑士、息が上がってるぜ」 「いやぁ、麻燐ちゃんが俺の好みのタイプを聞きたいとはなぁ」 「誰も忍足だけなんて言ってないC〜」 「!!」 幸福を感じている時、芥川の言葉で一刀両断されてしまいました。 忍足は思わず膝を抱え込んでしまいます。 「まずは俺の教えてあげるね!えーっとね、明るくて楽しい子!」 「明るくて楽しい?」 「うん!麻燐みたいな子だC!」 何気にアピールしてます。抜け目がないのがさすがですね。 「ジローだけずりー!俺はな、ノリの良い奴!」 「ノリの良い?」 続いて向日が調子よく言う。 「ああ。ノリの良い……」 「?」 「(ノリ!?いや、ちょっとずれてるノリというか…いや、麻燐は……)」 麻燐が自分の好みのタイプに合ってるかどうか考えてます。 ……そんなに気にするものなんですかね。 「そういえば、宍戸さんのタイプって生意気な子……でしたよね」 「な、何で知ってんだよ!」 「いえ、常識ですから」 横から好みのタイプを当てられてしまった宍戸が驚いて隣に居た鳳を見上げる。 だがさらっと、当たり前のように鳳は答えた。 ……常識……なんですか? 「はっ、全然違ぇな」 跡部、麻燐を見ながら言いました。 そこが勝ち誇れるような箇所なのかは分かりませんが、なんだか満足そうです。 「なっ!そういう跡部だってだろ?」 「!」 「ん?景ちゃん先輩のタイプって?」 「えーっとね、勝気な人だって」 何故宍戸が跡部のタイプを知っているかは分かりませんが、反撃をします。 少し宍戸と似たタイプですね。 「ふむふむ…」 「まあ、麻燐とは逆やな」 「「………」」 そんなに気にすることでしょうか。 「それで、俺のはなぁ……「日吉は何だっけ?」………」 そろそろ自分の番かと口を開いた忍足の言葉を鳳が遠慮なく遮る。 「………」 「こら。存在感を消しても無駄だよ?」 どうやらこういった話題は苦手らしく、樺地の陰にいたようです。 それでも気付かれてしまいました。というか、鳳が逃がしてくれるはずがありませんよね。 「……なんだよ」 「だーかーら、日吉のタイプ!」 鳳がとても感じの良いスマイルで聞きました。 日吉は鳳のこのスマイルが苦手なようです。明らかに面白がっていると感じているこの顔が。 「……どうでもいいだろ」 「良くない。麻燐ちゃんが知りたがってるんだから」 「あとは、わか先輩とちょた先輩とゆーし先輩の……「麻燐〜忍足のは聞かない方がいいよ〜」 「な、なんでやねん!」 芥川の麻燐への配慮という名の嫌がらせです。 「もう、しょうがないなあ。俺が言ってあげるよ」 「何故お前が知っている!?」 「あはは、何でだろうね?」 だから、そのスマイルが怖いんです。 「えーとね、たしか清楚な人、だよ」 「せいそな人?」 「つまり、清らかってことだね」 麻燐、必死でメモを取ってます。 健気ですね。 「……そういえば、長太郎は浮気をしない奴、だっけ?」 「はい。まぁ、麻燐ちゃんは絶対浮気はしないから安心ですけどね」 相手が麻燐というのは決定事項みたいな言い方ですね。 これだけの先輩たちを前に名指しとは心臓に毛でも生えているのでしょうか。 「まぁ、悪い虫がつくのは俺が駆除するしかないでしょうけど……」 ちら、と誰かを見ました。 誰かなんて無粋ですね。ええ、忍足です。 「そんなに俺を睨むなや!……でも、麻燐ちゃんは脚綺麗やなぁ」 「脚?」 出ました。 物凄く唐突ですね。 もったいぶると遮られることを知ったための強引な切り出しです。 「侑士ー…麻燐にまで悪影響及ぼすなよ」 「いやいや、これは純粋に思うてやなあ……」 視線は麻燐の脚一点のみ。 ……気持ち悪いです。 「アーン?忍足、誰の許可を得て麻燐を見てんだよ」 許可を取らないといけないんですか。 それに、誰の許可なんでしょうか。 「脚?」 「…麻燐、忍足は脚の綺麗な奴が好きなんだとよ」 麻燐も突然の発言に首を傾げると、宍戸が呆れながら言いました。 「脚の綺麗な…って?」 「それはなぁ!麻燐ちゃんみたいなミニスカから覗く白い太もも!足首までの脚の線!どれをとっても綺麗や……!動くたびに俺の心臓がきゅんと……「心臓発作でも起こして今すぐ黙れ」……酷っ!!」 言われてもやむなしです。 流石跡部、忍足に対しては毒舌ですね。 こうなるために忍足に好みのタイプを言わせようとしなかった皆さんですが、改めて引いています。 「なるほど…」 麻燐、本当に分かったんでしょうか。 メモをしているその内容を確認したいくらいです。 「よーし、分かった!皆、ありがと!」 座っていた麻燐が立ち上がりました。 「……でもよ、んなこと聞いてどうすんだ?」 「えへへー、秘密」 今更のような気もしますが、向日が聞きます。 ですが、そこは麻燐、頼まれたことは言いません。さすがです。 「麻燐ちゃんの場合、オールカモンやで」 ウインクをしながら腕を広げる忍足。 何ですか、何を考えているんですか。 「あはは〜ありがとう。んじゃあ、麻燐、ちょっと行ってくるね!」 「?行くってどこに……」 「秘密ーー!」 と言うことで、麻燐は部室から出て行きました。 部活が始まる前にお友達に報告をしに行くみたいですね。 「……何なんだろうな」 「さぁ?」 テンションが高かった麻燐の言動を見て向日は更に首を傾げる。 宍戸も肩をすくめた。 「まぁ、ええやん。秘密がある麻燐も可愛ぇやんなぁ」 「忍足、頭でも冷やしたらどうだ?」 「すまんて。悪かったからデカい氷持つんは止めてくれ」 どうやら冷蔵庫から氷を持ってきた跡部。 そんなものまであるんですね。 「……ウs「でも、俺の好みのタイプが一番麻燐ちゃんに近かったですね〜」 今日の結果には満足したのか、ご機嫌な鳳。 「俺のだって近いC〜」 「……っは、それで決まるかよ」 対抗するように芥川も口を開く。 確かに、それで決まるとは思えませんね。跡部の言う通りです。 「……ノリ……いや、麻燐は……」 向日は未だに考え込んでます。 そんなに大事なことなんでしょうか。固定概念というやつでしょうか。 「……ウ「それやったら俺のタイプも麻燐ぴったりやんなあ」 「はぁ?てめえなんざ論外だ」 「!?」 跡部は相変わらず忍足に対しての態度が酷いです。 まぁ、脚が綺麗な子という好みは跡部には受け入れがたいことなのでしょう。 「へぇ、皆やってるねー」 「「「滝!?」」」 微笑みながら突然部室のドアを開けたのは滝。何気に初登場ですね。 「ど、どうしてお前……」 「いやー、楽しそうな話をしてたみたいだから」 どうやら今までの会話を聞いていたようです。 ならもう少し早く登場すればいいのに。 「…で、何か用でもあんのか?」 「くす、…俺の好みのタイプはどうしようかなーって」 「「「………」」」 滝の好みのタイプは誰も知りません。 皆さん一斉に目を逸らし、苦い顔をしています。 「俺の好みのタイプって、公開されてないんだよねー…」 「……そー…だっけか?」 中々メタな話をしだす滝。 宍戸は口元をひくつかせながら話を逸らそうとしてます。 「そうなんだよ」 言葉は優しいのに凄い迫力です。 「……まぁ、それはいいよ。しょうがないことだからね……」 「お、おい……」 「滝さん……」 「いいんだよ。こうやって話すことが楽しいし?」 最早開き直りに近いですね。 なにはともあれ立ち直ったのはいいとして。 一体、何をしに来たのかいまいち分かりません。 「最後にチョロっと寄ってみただけだし?そうだ、もうこんな時間だけど大丈夫なの?」 「「「え?」」」 その言葉に部室の時計を見ると、もう部活が始まってしまっている時間でした。 「っち、どうして知らせなかった、樺地」 「……さっきから……声を掛けてました」 全て声を遮られてましたね。 樺地は悪くありません! 「ごめんね、樺地。気付かなかったよ」 「……ウス」 鳳は素直に謝ります。樺地に対しては誰もが優しいですね。 「麻燐もそろそろ帰ってくるだろうし、先に始めるか」 「そうしよそうしよ!かっこEところ見せて、麻燐ちゃんをびっくりさせるC!」 「抜け駆けは許せませんよ」 「せやで、俺かて麻燐ちゃんを惚れ直させたる」 「「「まず惚れてないから」」」 こうして対抗心バチバチの皆さんは、今日の部活はいつも以上に白熱した練習ができたようです。 好みのタイプ (岳人の様子がおかしいみたいやけど……まぁ、明日になったら直っとるやろby忍足) |