「それでは、この2日間を通して、最も人気があり、満足度の高かった出し物の発表します」


今は閉会式の真っただ中。
最後の締めとして、校長がごほんと咳払いをしながら結果の書いてある紙を持つ。
このタイミングでようやく、長い長い閉会式による眠りから覚める人物もちらほら居る中で、麻燐は目をきらきらさせて結果を待つ。
全力で挑んだ学園祭。麻燐にとっても思い出深いものとなりましたからね。


「アンケートの結果……第1位に輝いたのは、男子テニス部のコスプレ喫茶です!」


言い放った途端、パンッと色鮮やかな紙吹雪が舞い、大きな声援と拍手が巻き起こる。
どうやら満場一致の結果のようですね。


「やったあ!麻燐たちの喫茶店が1番だよ!」


その結果を聞いてすぐ立ち上がり、満面の笑顔で喜ぶ麻燐。


「ふんっ……当たり前だ」


生徒会長として前に立っていた跡部は満足そうに腕を組んで言う。
目の前にある跡部の姿に気付いた麻燐は、また笑顔になってぴょんぴょん飛び跳ねながら手を振る。
余程嬉しいんでしょう。麻燐ちゃまファンクラブの黄色い声援に手を振り返すことも忘れています。
もちろん、そんな嬉しそうな姿を見て他のテニス部メンバーも喜んでいます。
同じように立ち上がって喜ぶ向日、芥川、鳳。
それを見守る忍足、宍戸、日吉、樺地。
麻燐も一人一人見つけては、笑顔を向けています。


「それでは、代表は前に来てください」


司会進行を務める委員の指示に従い、跡部がすたすたと校長の前まで歩く。
そしてくるっと後ろを振り返り、


「麻燐、来い」


手をこまねき麻燐を呼ぶ。
麻燐は一瞬驚いたが、嬉しそうに立ち上がり前へと駆けていく。
そして駆け寄ってきた麻燐に手を差し出し、麻燐が手を重ねると、高くその手を掲げる。
勝利のポーズだと分かった麻燐は、目をきらきらさせながら跡部を見て、さらに祝福する全校生徒を見つめた。


「跡部の奴……全校の前で抜け駆けかよ」
「全く油断ならないC」


その様子を見ていた向日と芥川がお互いに歯ぎしりをする。


「………目立ちたがりめ」


宍戸は呆れた様子で溜息をつき、


「やることなすこと、かなわんなぁ」


忍足は苦笑気味に言い、


「馬鹿なのかあの人は……」
「いいなぁ、全校生徒の前で見せつける絶好のチャンス……」
「ウス……流石、です……」


額を手で抑える日吉と、悔しそうに羨ましそうに二人を見つめる鳳、頷きながら見守る樺地。
そんな視線を一手に集めながら、跡部と麻燐は1位の賞状を受け取った。

こうして、始終賑やかなままだった学園祭は閉会式と共に幕を閉じた。





「えへへ……」


解散となったものの、まだ賑わいだままの体育館。
すでに麻燐の周りにはテニス部が勢揃いしている。
当の麻燐は貰った賞状を見つめながら、にこにこ笑っている。


「どうしたんだよ麻燐、そんなに賞状が嬉しいのか?」
「うん!麻燐ね、初めてしょーじょーもらった!」


向日の言葉に大きく頷き、賞状を掲げる麻燐。


「またまた。麻燐ちゃんの可愛さは表彰もんやで。天然記念物並やで」
「そうですね。忍足さんと同意見なのは悔しくて舌噛み切りそうですけど俺もそう思います」
「俺そこまで嫌われとるん!?」


笑顔でさらっと言ってのける鳳。手付きは優しく麻燐の頭を撫でたまま。
隣で忍足が「恐ろしい子…!」と言いたげに口に手を当ててます。


「麻燐のおかげで1位になれたようなもんだC〜」


高速で鳳の手を振り払い、麻燐の頭を撫で撫でしはじめた芥川。
鳳がイラっとした様子でまた笑顔のまま芥川を見つめているのを宍戸が宥めています。


「そんなことないよ!皆のおかげだよ!」
「謙遜することはない。……麻燐の影響は凄まじかった」


思い出しているのか、表情を険しくさせながらも麻燐を褒める日吉。


「あ、珍しく日吉が褒めてる」
「きっと1番になれたんが嬉しいんやろなぁ」
「何事も常に下剋上です」


鳳と忍足が珍しそうに言う。
すると日吉は無表情のままそう即答した。


「げこくじょー達成だね!」
「麻燐ちゃんからならいつでも下剋上されたいC!」


拳を振り上げる麻燐を見てきゅんきゅんしながら言う上機嫌な芥川。
どうやら皆さん、1位が相当嬉しいご様子。
1位で当然と思っていそうな跡部でさえ、


「だが、本当に麻燐はよくやった。コスプレも、接客もな」


手離しで麻燐を褒めています。……って、これはいつものことですね。


「これで一気に麻燐の知名度も上がったな」
「元々上がってたような気もするけど」


宍戸と向日がしみじみと言う。
嬉しさと少しの物寂しさを感じますね。


「麻燐ちゃんがマネになってくれて数ヶ月……初めて会った時は衝撃的だったなぁ」
「確かになぁ。こう、ずきゅんって心臓持ってかれたわ」
「……そのまま動かなくなればよかったのに」
「聞こえとるでージロー」


皆さん一目見た時から麻燐ちゃんに惚れぼれしてましたからね……。


「あの頃は、俺だけの天使だったのにな……」


ぼそっと呟く跡部。哀愁漂わせていますが、あなただけのものではなかったはずです。


「俺だけ、じゃねーだろ、跡部」


それにいち早く気付いた宍戸がツッコむ。
そして、


「俺たちだけの……だろ」


どうやら麻燐が人気者になって寂しい気持ちは変わらないみたいです。


「宍戸さんっ……!」
「っておい!どうしてお前は泣きそうなんだよっ!」


その言葉に感動したのかただの宍戸贔屓なのか、鳳が切なそうに宍戸を見ます。


「あー……確かに、あの頃はファンクラブなんてなかったしな」
「麻燐ちゃんの良さを知ってたんは俺たちだけ……やったなぁ」


しみじみと昔を思い出しているのか、口数が少なくなってきた皆さん。
その空気を感じ取ったのか、麻燐が口を開きます。


「どうしたの皆?なんだか寂しそう」
「……皆、お前が好きなんだとよ」


問う麻燐にずばり的確に要約した言葉を言い放ったのは日吉。
すると麻燐は目をぱちくりさせて、


「じゃあ寂しくなることないよっ!」


にっこりと笑った。


「だって、麻燐も皆のこと大好きだから!」


当然でしょ?と自信ありげな表情で言う麻燐。
それに驚きつつも、嬉しそうに皆さん表情を緩めます。


「そうやったな。麻燐ちゃんが俺らのこと嫌いになるわけないよな」
「もちろん、俺が一番麻燐ちゃんのこと大好きだけどね!」
「麻燐ちゃんへの愛なら俺も負けませんよ!」


麻燐の笑顔が移っていくように、皆が笑顔になる。


「……あれ?なんだかあっちの方が騒がしいよ?」
「ああ、これから後夜祭だ」
「こうやさい?」
「キャンプファイヤーだぜ!燃やして踊るんだ!」
「その言い方だと良いイメージできないでしょう……」


どうやら学園祭はまだまだ終わりではないようです。
燃やすの意味は分かっていないようですが、踊ると聞いて楽しそうに期待し始める麻燐。


「とにかく、もう少し楽しめるってわけだ。行こうぜ、麻燐」
「うん!行く!」
「おい宍戸、リードするのは俺様の役目だろう」
「別に決まってへんやろ。なー麻燐ちゃん」
「ああっ!なんだかメラメラしてるよ!」
「……キャンプファイヤーに夢中な麻燐ちゃんも萌えや……萌え可愛いわ……」


悪く言えば無視をされたのに、忍足は相変わらずポジティブです。
麻燐に悪気は全くないので良しとしましょう。

こうして、学園祭ラストスパート、後夜祭キャンプファイヤーが始まろうとしています。