「麻燐はまだ13歳のいたいけな少女です。まだ飲酒もできないし選挙権もないのに男女交際を認める訳にはいきません」


しらーっと唇を尖らせて言うパパ。


「……つまり、成人するまで男女交際は許さないということだな」
「ええっ!?それはいくらなんでも可哀想っしょ!」
「そんなことあるか!責任も取れない若造にたぶらかされることの方がよっぽど可哀想だ!」


少し呆れながらも冷静に呟く柳に切原が仰天する。
それに対するようにパパもカッと怒声を響かせています。
……男の譲れない争いがここにはあります。


「はい、じゃあ麻燐ちゃんは景ちゃん先輩の隣に立ってー」
「わかったー」
「ちょっとおおお!男と写真なんて許しません!」
「もう、パパはいちいち厳しいんだから」


跡部とのツーショットを撮ろうとしたママ。
その手にあるカメラを颯爽と奪い取り断固拒否を示すパパ。
するとママは頬を膨らませて言いました。


「大体、パパは考えが古いのよ」


さらに腕を組み、説教ポーズをとる。


「中学生なんだから恋愛の一つや二つくらい親なら快く容認するものよ」
「で、でもママ……」
「パパだって学生の時に私に何十回と告白してきたじゃない」
「ぎゃあああああああああああ何て事を公然の場で言ってるの!?」


説教タイムになり、周りが完全に置いてけぼり状態になってしまいました。


「……麻燐の両親は、いつもあんな感じなのか?」
「うんそうだよ。仲良しさんなの!」
「仲良し……というか、よくあるかかあ天下にしか見えねえな」


向日が聞くと、麻燐は屈託のない笑顔で言う。
隣でぼそっとジャッカルが呟きましたが、周り全員そう思っていると思います。


「それに、麻燐には私以上に才能があるのよ。良い男をはべらせる才能が!」
「はべらしてどうするの!?」
「麻燐はもっと経験を積んだ方がいいの。男をつまみ食いして、そして女の中の女になるのよ」
「ならなくていいよ!?むしろならないで!」


ぷんすか可愛らしい顔で怒りながらとんでもないことを言っているママと半泣きのパパ。
周りが若干引き気味にその光景を見ていると、


「せっかくこんなに可愛い麻燐がいるんだから、イケメンの一人や百人、虜にするのが世の中の摂理というものなのよ」
「それ絶対に違うよね!?いくら麻燐が絶世の美少女だからってそれはだめ!恋愛をするなら純愛じゃないと!」
「………言ったわね」


双方が熱くなり、喧嘩というよりただ娘を褒めているだけにしか聞こえなくなってきた時。
その勢いでパパが言ってしまった一言。
その一言を聞くと、ママはにこりと笑った。


「今の、皆聞いたわよね」
「……ママ、何を……?」
「麻燐とは、純愛なら許してくれるって」
「はめられたあああああ!!」


どうやら先程の喧嘩は全部ママの策略ということですね。
その罠にまんまとはまってしまったパパ。
パパがママを超えることはできないということです。


「ママさん強すぎだろぃ……」
「さすが麻燐のママさんだね。俺も見習う所があるよ」
「お前さんはこれ以上腹黒くならなくてよか」


丸井、幸村、仁王が呟く。
仁王が若干呆れ気味なので、どうやらママの本性を知っていた様子。


「あらまーくん。私は腹黒いんじゃなくて計算高いのよ」
「すまんのうママさん。相変わらず麻燐愛は俺も見上げるぜよ」


地獄耳も健在ですね。
仁王も困ったように笑っています。


「ということで、パパもお許しもでたことだし、麻燐もいっぱい恋愛していいのよ」
「いっぱいはだめだよ!?というかパパは絶対に許さないからね!」


まだ意地は張っているものの、完全に立場が弱くなってしまったパパ。
今回もママの完全勝利ですね。


「わかった!麻燐頑張る!」
「……麻燐ちゃんがママさんみたいになったら手強いやろな」
「本格的に麻燐の将来が心配だぜ……」


忍足が呟き、跡部が真の保護者のような発言をしています。
何はともあれ、この恋愛騒動は決着がついたようです。


「うふふ、麻燐の将来の旦那さんはこの中から現れるのかしら」
「……ママ、いくらなんでも麻燐はまだ中学生で」
「早いに越したことはないの」


大人しく席に座りなおしたママとパパ。
麻燐はにこにこして首を傾げています。


「だんなさん?」
「麻燐は何も聞くな」
「まだまだ麻燐は純心だものね。そろそろママも秘伝の技を伝授する時が」
「来ないよ!!一生来ないよ!やめてよママ、怖い!」


ママの意味深な発言に、もはやキャラがぶれているようなそうでもないようなパパが泣きそうな顔で拒否します。
氷帝と立海の皆さんはその秘伝の技が如何なものかとても気になっている様子ですが。


「……麻燐のママさんがどんな戦歴を持っているのか気になりますね」
「そりゃあ麻燐のママさんだし?百戦錬磨だと思うC〜」


戦歴ですか。


「うふふ、皆聞きたい?でも中学生の皆にはちょっと刺激が強すぎるかもしれないわね」
「ママ止めて。パパですら怖くて今まで聞いたことないんだから!」


肘をついてにこりと微笑するママは魔性の女に見えます。


「まぁ、それは冗談として」
「「「(冗談だったのか……!?)」」」


多分、冗談ではないと思います。


「麻燐はちょっと世間知らずで天然っぽいところがあるけど、」


麻燐を手招きし、寄って来た麻燐の頭をぽんぽんと撫でる。


「この子は素のこの子のまま、皆に全力で関わってるつもりなの」
「?うん、麻燐はいつでも全力だよ!」
「だから……これからも、麻燐のことをよろしくね」


最後は、先程までよく見かけた意味深な笑みとかではなく。
一人の母が子を想う、優しい笑顔でそう言った。


「……まあ、友達として仲良くするくらいならパパも何も言わないよ」


それに便乗するかのように、少しそっぽを向きながらパパも言いました。
……若干不服そうな表情ではありますが。
そのことにその場に居た皆さんが驚き、ママとパパの顔を交互に見る。
そして、


「「「こちらこそ、よろしくお願いします!」」」


と、嬉しそうな笑顔を見せて言った。
その表情を見て安心したような表情を柔らかくするママとパパ。


「ふふ、やっぱり皆いい子たちね」
「ふん。麻燐の見る目に間違いはないからな」


ようやく、両親との境もなくなった様子。
学園祭にて顔を合わせるとは思っていなかった皆さんですが、仲良くなれて嬉しそうです。


「今度是非、お宅に伺って挨拶しに行きますね」
「いつでも歓迎するわよ」
「鳳、抜け駆けは許さんぜよ。俺も久しく挨拶してなかったからのう。近いうちに行こうかの」
「私も、麻燐さんと関わる上でご両親への挨拶という肝心なことを忘れていました。紳士として恥ずべきことです」
「ああもう、なんでお前らはそうなんだよ……」


相変わらず抜け目のない鳳、仁王、柳生たちに宍戸は呆れて溜息を吐く。
ママはウェルカム状態ですが、パパは嫌そうに眉を寄せました。


「あ、それと、麻燐と恋人になったら絶対にママに言ってね。パパには内緒よ」
「なっ!?!?それは許しません!」


本日何度目かの許しません発言。
それも今となれば一つの笑いの種です。
しばらく皆さんで談笑をしながら、ひと時を過ごすことができました。