立海陣も食事を済ませ、少しゆっくりしている時。 その方たちはやってきました。 「いやー、こんなに混んでいるなんて思わなかったよ」 「そうね。ふふっ、そんなにテニス部の子たちはイケメンなのかしら」 「……ママ、何を期待しているの?」 「麻燐の可愛いウエイトレス姿よ」 にこにこと、穏やかな表情で言う男性。 その隣にはさらりと笑顔で嘘を吐く女性。 ……そう、正真正銘、麻燐の両親です。 「いらっしゃいませ〜」 二人が喫茶店に入ると、出迎えたのは探偵姿の忍足。 麻燐は立海陣との会話に夢中になっています。 「あら、早速イケメン発見っ」 「ちょっとママ!?隣にパパいるんだけど!?」 うふふっと上機嫌で忍足を見つめるママに、パパは冷や汗もの。 そのママの視線をしばらく見つめ返した忍足は、何か思いついたように目を見開いた。 「麻燐ちゃんそっくりや!」 驚いたようにそう声をあげると、その場に居た全員が注目した。 その中にはもちろん麻燐もいて、両親の存在に気付くと笑顔で近寄りました。 「ああっ!ママとパパだ!」 「「「何!?」」」 言いながら、ママに抱きつく麻燐。 パパの大きく開いた腕が虚しいですが、その発言で皆さんは麻燐の両親だということを理解しました。 「初めまして麻燐さんのお父様お母様。僕は麻燐さんとお付き合いしている幸村精市です」 「まあ、ミステリアスなイケメン」 「付、つつつつつ!?」 素早く席を立ち両親の前に跪いたのは幸村。 魔王服なので、マントを翻して登場した姿が様になっています。 「何を言ってるんですか。麻燐ちゃんは僕の大切な存在です」 「違うC〜!麻燐は、俺と相思相愛なんだC!」 「あら、爽やかイケメンに可愛いイケメン」 「なんっ!?さ、三股!?」 スーツ姿の鳳、巫女姿の芥川まで登場し、ママはにこりと目の前に並んだ3人を見つめています。 パパは隣で失神して泡を吹きそうな勢いですが。 「おまんら、何勝手なこと言っちょるんじゃ。ママさんにパパさん、お久しぶりじゃのう」 「まあ!もしかしてまーくん?」 「………あ、ああ……雅治くんじゃないか」 麻燐と幼馴染の為、交流のある様子の仁王。 二人を押しのけ、両親に挨拶をします。 「しばらく見ない間に格好良くなっちゃって〜」 「そんなことはないぜよ。ママさんも、一段と綺麗になったのう」 「あらあら、相変わらずうまいんだから」 仁王の言葉にママも嬉しそうにしています。 初めて麻燐の両親を見た他の皆さんは、 「やべえだろ。麻燐の母さん」 「そうですね……瓜二つですね」 「つーか美人すぎだろ」 「親子というより、姉妹に見えるな」 「もうっ、皆して。おだてても何も出ないわよ〜」 向日、日吉、丸井、柳の呟きに当たり前のように反応する麻燐ママ。 びっくりするほどの地獄耳ですね。 「お前らどけ」 ここで跡部が動き出します。 両親の前に立ち、礼儀正しくお辞儀をしたと思うと、 「席の案内も素早くできず申し訳ありません。どうぞこちらへ」 「あら……。ふふっ、ありがとう」 「………」 紳士的に二人を空いている席へと案内しました。 ママは少し驚いたようだが、微笑んで。 パパは、跡部に限らずその場に居る男全員に敵意剥き出しの視線を向けて。 「うむ。あの対応、たまらんな」 「ま、さすがに跡部は落ち着いてるか」 その行動に真田と宍戸がそれぞれ呟く。 こういう時に、カリスマ性が光りますね。 そして素早く注文を受け、紙に書き留める。 「あなたが景ちゃん先輩?」 「……?跡部景吾は僕ですが」 「麻燐がよく話してくれるわよ。いつも麻燐がお世話になってるわね」 穏やかな表情で、跡部に言う麻燐ママ。 そのことに気付いた麻燐は、 「もうっ、ママ余計なこと言わないでよ!」 「うふふ、もう照れなくてもいいのに」 「照れてないー!」 「それに本当のことじゃない。いつも帰ってくるとテニス部のお話ばかりするじゃない」 「うう、それは……」 ママの言葉に口ごもる麻燐。 どうやら本当のことのようです。 「……ああして二人揃うと不思議な気がするな」 「なんつーか……麻燐が二人いるみたいッス」 ジャッカル、切原がその光景を見ながら呟く。 「それに……」 「「「(麻燐のお母さんの成長具合が反則だ……っ)」」」 初めて忍足のみではなく、全員の心の中が一致しました。 皆さん、麻燐ママの豊満な胸を直視できないようです。 今の麻燐は残念なくらいぺったんこですが……ママを見ると、これからに期待大ですね。 「って、何をけしからんことを……!やはり切腹するしか……!」 「健全な中学生として普通なことだと思うよ」 「麻燐さんとはまた違った、大人の魅力を感じますね」 真田、幸村、柳生がそれぞれ麻燐ママを見ながら言う。 いくら中学生には見えないとはいえ、中身は一応思春期真っ盛り。 その部分に目がいってしまうのは仕方がありませんよね。 「ふふ、皆してそんなに遠くに居ないで、こっちに来てお話しましょうよ」 そんな皆さんの視線に気付いてか気付いていないのか、手招きをする麻燐ママ。 にこりと大人独特の余裕ある微笑みに、小首を傾げて皆さんを見上げる仕草。 もう怖いです。大人の魅力とても怖いです。 「今日はようやく皆に会えたんだもの。嬉しいわ」 「えへへ、ママもパパも、きっと皆のこと大好きになるよ!」 「………それはどうかな」 麻燐の明るい言葉とは相対的に、パパの悟りを開いているような低い声が響きます。 「パパはそうは思わないけどね」 「どうして、パパ?」 「………」 心配そうに首を傾げる麻燐に、しばらく無言になるパパ。 その様子にはテニス部メンバーも不思議そうに思っています。 そして、細く開かれていたパパの目がカッと見開かれ、 「愛らしくあどけない、まだ齢13のいたいけな少女に猫耳ゴスロリを着させる男なんぞ信用できるかっ!!」 「パパ、カメラをそんなに強く握っちゃだめよ」 「………はっ、しまった」 あまりの勢いに、撮影をしようと持っていたカメラを持ったまま声をあげるパパ。 ママに指摘され、急いでカメラを隠す。 「そうは言っても……。ここはコスプレ喫茶ですよ?」 「いくらコスプレとは言っても限度があるだろう。こんな可愛……。いやいや、見せ物のような姿!いくら麻燐が超絶美少女で猫耳もゴスロリも世界で一番似合ってしまうからって許せないことだ!」 「はい麻燐ー、こっち向いてー」 「えへへー」 「あ、ちょっとママ、もうちょっと全身が映るように撮らないと!あとでDVDに焼くから手ぶれしないように慎重にね」 せっかく熱く語っていたところ、ママがビデオカメラを回し始めたところで威厳が半減しました。 その様子を見て、その場に居た麻燐一家以外全員が思いました。 「「「(ああ……そうか、親バカなんだ……)」」」 気持ちが良く理解できるのか、少し微笑ましげに見つめる皆さん。 そして、先程と同じようにはっと我に返ったパパはそんな中学生たちの視線に気づく。 「なんだか俺……麻燐のお父様とは仲良くできそうです」 「ああ、なんつーか……跡部とかと同じ思考だってことが分かった」 「………ご、ごほん!というわけで、パパはコスプレを認めません!」 鳳と宍戸の呟きに、少しだけ早口で言い始めるパパ。 どんどん威厳ある父の像は遠ざかっていますけど。 もはや取り戻しのつかないくらいのラインにいますけど。 「さらに、」 「「「?」」」 「男女交際なんて絶対に絶対に絶望的に認めません!!」 コスプレ反対よりも強く、きっぱりと言い放ったパパ。 「……なんだか話の論点ずれてねえ?」 「どうやら本当に言いたいのはこちらのようだな」 丸井と柳が呆れたように呟く。 父親も必死なのです。 その父親の傍らでは楽しそうに撮影ごっこをする麻燐とママ。 モチベーションというか、気持ちにかなりの断層があることが分かりますね。 さて、突然の両親の乱入が丸く収まることができるのでしょうか。 |