「絶対、絶対来てよね麻燐!」 「もちろんだよ!」 「俺、麻燐が来なかったらいじけるからね!」 「じゃあジロ先輩、また後でねっ」 なんていう会話が少し続き、午後に仕事のある芥川は自分のクラスに戻って行きました。 「皆のところにも、ちゃんと行くからね!」 「ウス」 「うん、待ってるよ」 「来てから後悔しても遅いからな。帰さないぞ」 にこっと笑いながら言う麻燐に、同じく微笑みながら返す2年メンバー。 日吉だけ若干スイッチが入っていますが。 「あはは、日吉は本当にいじめっ子だなぁ」 「ふん……」 「でも俺も、麻燐ちゃんが来るの待ってるからね」 日吉は日吉でお化け屋敷での麻燐の反応が見てみたいんでしょうね。 鳳も楽しみにしているのか、そう言ってその場を去った。 「よーし、午後も楽しむぞー!」 別れを告げ、すっかり気を取り直した麻燐は学園祭午後幕に向けて意気込んでいました。 その麻燐の後ろにいるのは、跡部、忍足、向日、宍戸の4人。 「全力で学園祭をエンジョイしてるなー」 「えへへ、だって楽しいんだもん」 声をかけた向日の隣で飛び跳ねて喜ぶ麻燐。 「「「(出し物より麻燐を見ていたい……)」」」 なんて邪な考え方をしている先輩達。 ぜひ麻燐にはこの人たちから逃げてほしいですね。 「それじゃあ、どっちから行く?」 ですが、この麻燐の笑顔を裏切らないことが先決のようです。 麻燐の頭の中にある選択肢は芥川か2年メンバーの待つ出し物の場所のようです。 「そうやなぁ……俺は麻燐ちゃんと一緒ならどっちでもええけど、ジローの方先に行った方が安全やと思うな」 「……なんか分かる気がする」 忍足が苦笑いで言った言葉に、宍戸も同意する。 「ジロ先輩は寂しがり屋だもんね」 だがその言葉には流石に宍戸も同意することはできませんでした。 気の利かせた跡部が話を変える。 「ジローは縁日では何やってるんだ?」 「あー……確か、水風船すくいかな」 「へえ。あのジローがじっと人のチャレンジ見とれるん?」 「……それはわかんね」 「水風船楽しそう!それじゃあ早速、行こ!」 先程の縁日では射的しかできませんでしたからね。 麻燐は心から楽しそうに、向日の腕を掴んで歩き始めました。 「岳人だけずるい……!やけど、後ろ姿見ると可愛く見えるなぁ」 「あ!?ふざけんな変態ロリ侑士!」 「ロリ!?」 パートナーに言われてはさすがに傷つく様子の忍足。 仕方ありません。パートナーに対して禁句を言ってしまったのですから。 「お前も学ばねえな……」 宍戸の言う通りです。 そしてそのまま麻燐を追う形で縁日の場所へと向かう一行。 「麻燐ちゃあああああああああん!」 そして辿り着くや否や、光線の如く芥川は麻燐へと抱きつきました。 もちろん、腕にひっついていた向日をひっぺ返して。 たった数分離れていただけでこれですか。 麻燐を他人から引き剥がすことに関しては一級品ですね。 「ったく……麻燐を見るとすぐこれだな」 「お前が言えることじゃないと思うぞ、跡部」 「なっ……!お、俺様は麻燐の保護者として当然の事をだな……」 「あっれー?景吾くん、貧乏揺すりまでして、まるでジローに嫉妬しとるみたいやーん」 「滅せよ変態」 「悪ノリしただけやん!」 度が過ぎます。 そして今世紀最大の殺意を見せた跡部。 あながち忍足の言っていることが間違いではないような気がしますね。 「麻燐ちゃん、何してく?俺と一緒にお化け屋敷行っちゃう?」 「待て待て。縁日から飛び出すなよ」 そんな忍足と跡部をよそに、そんなことを言いだした芥川。 向日に止められました。 「お化け屋敷は後で行くの!ここではね、水風船すくいがしたい!」 「水風船?いいよ、こっちこっち!」 笑顔で麻燐の手を引く芥川。 このシーンだけを見ると、優しい先輩なんですけどね。 「おい跡部、そんなところで忍足虐めてていいのか?麻燐行っちまったぜ」 「今行く」 「おう」 「ちょい待ち!俺へのケアの言葉はないん!?」 元々あなたが撒いた種じゃないですか。 関わりたくない、と言わんばかりにスルーする宍戸。 「ゆーし先輩たちー!早く早くー!」 「今行くでー!」 麻燐に呼ばれ、すぐに通常運転に戻る忍足。 全く現金な人たちです。 「……これはなんだ?」 「え?跡部……知らないのか?」 「そういや、射的も知らなかったもんな……」 芥川と麻燐の待つ場所まで行くと、跡部が眉根を寄せた。 目の前にあるのは低くて広い水槽のようなものの中で浮くゴム風船たち。 ということで、忍足が説明する。 「そうか。風船を手に入れる為にあらゆる手段を駆使する遊びか」 「一体どんな説明を受けたんだよ」 さっきの仕返しと言わんばかりの笑顔を浮かべる忍足。 大きな溜息をつきながら宍戸が正しい水風船すくいの説明をした。 そんな忍足の小さな復讐が終わったところで、 「じゃあ早速、麻燐やる!」 「わかった!じゃあはい、これが釣り糸ね!」 「……おい、料金は」 「えー俺の麻燐ちゃんからお金取れっていうの?」 「………」 向日が指摘するものの、芥川は首を振って否定した。 芥川の、優しさというよりはただの甘やかしの部分と、こういう時でも俺の≠ニ言う意地の悪さに向日は額に手を当てた。 「おい跡部、お前部員の教育どうなってんだよ」 「俺に言うな。それに、お前もクラスメイトの教育がなってないぞ」 「互いに押し付けるなよ……」 再び宍戸が溜息をつきながらなけなしのお金(100円)を袋に入れました。 「宍戸も麻燐のためならなけなしの金も惜しくないんやな」 「なけなしって言うな!俺は普通だ!」 おっと……忍足もナレーターと同じことを言いましたね。 やはり宍戸と言ったらそういうイメージがあるようです。 周りが異常なだけなんですけどね。 「かっこつけか」 「違えよ!?こういうのはきっちりしときたいタチなんだよ!」 「りょー先輩、ごめんね……。麻燐、気付かなくて……」 「い、いや、別にいいぜ(原因はジローだしな……)」 宍戸の兄貴肌がきらりと光ったところで。 麻燐の水風船のチャレンジが始まりそうです。 |