「ねえ……本当にもう行っちゃうの?」 そろそろ昼になる頃。 麻燐と氷帝メンバーは玄関まで青学メンバーを見送りに来ました。 「ああ。もともと午後からは部活の予定だったからな」 「もっと麻燐と一緒に居たかったけど、仕方ねえな、仕方ねえよ」 どうやら青学メンバーとはここでお別れようですね。 創立記念日で休みということでしたが、通常の休日のように午後からは部活をする予定だったようです。 休みである午前の時間を氷帝の学園祭に充ててくれたと。 「くすっ、どうせなら麻燐ちゃんも一緒に来てもいいんだよ」 「青学なんかに行くわけないC〜!」 さり気なく誘っている不二には芥川があっかんべーをして追い払う。 鳳もにこにこ顔で麻燐の前に立ち塞がっています。 「はぁ……相変わらず、過保護すぎでしょ」 「ふしゅー……」 その様子を見て呆れている越前と海堂。 常識人は大変ですね。 「でも、麻燐楽しかったよ!学園祭に来てくれてありがとう!」 黒い睨み合いが続く中、麻燐がにっこり笑顔で言う。 一瞬にして空気が柔らかくなるのが分かりました。 「俺たちも、楽しませてもらったよ」 「それに、また麻燐ちゃんに会えて嬉しかったしね」 大石と河村も同じく笑顔で、麻燐に目線を合わせて言う。 ……2歳年下の子にするような行動とは思えませんが、まあいいでしょう。 麻燐は目線が近くて嬉しく思っているようですし。 「うん!麻燐も、会えて嬉しかった!また、今度は麻燐が青学に行くね!」 「ああ、いつでも来るといい。君用のドリンクを用意して待ってるよ」 「……おい、うちの麻燐に変なもの飲ませるな」 キラリと眼鏡を光らせて言う乾に、跡部が警戒するかのように言う。 乾の用意するドリンク……嫌な予感しかしません。 ですが、度々起きた惨事を知らない麻燐は純粋な笑顔で、 「うん!楽しみにしているね!」 「「「(その時は俺が全力で阻止する……!)」」」 乾以外全員の心がリンクした瞬間でした。 「それじゃあそろそろ行こうか」 「ああ、そうだな」 大石の言葉で青学の皆が歩き出す。 「皆、部活頑張ってねー!」 その青学メンバーの後ろ姿に、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらエールを送る麻燐。 大声で返してくれたり手を振ったり照れていたり、青学の皆さんの反応は様々でしたが。 氷帝の皆さんは一致して、ジェラシーを感じています。 「ほら麻燐、もう居なくなった人たちのことは置いておいて、二人きりで学園祭楽しもうよ〜」 「待ってくださいジロー先輩。もう回る時間はありませんし、二人きりになんて絶対にさせません」 抱きつこうとする芥川を止めるのは最早鳳の仕事……というか鳳にしかできませんね。 そして鳳の言葉に忍足が賛同する。 「せやで、もう昼前やしな。そろそろ昼食をとってシアタールームに向かわな」 「ほえ?しあたーるーむ?」 「麻燐忘れたのか?1日目の昼は映画観賞があるって」 日吉の言葉に、初めはきょとんとしていた麻燐も、すぐに「あっ」という顔をして、 「思い出した!」 「映画か……麻燐と離れるのは惜しいが、仕方ねえな」 腕を組んで言う跡部。 映画を見る時は場所が決まっているので、学年ごとに別れなければなりません。 どうやらそのことに跡部は納得していない様子。 「俺様と麻燐だけVIP席でもいいんだがな」 「阿呆。学園祭でそんな我儘きかへんで」 呆れたように言う忍足。まさに正論です。 「分かってる。麻燐も、友達と見たいだろうからな」 そう言いながら、ちらっと麻燐を見る。 本人と言えば、楽しそうに樺地と話をしています。 「えへへ、どんな映画かなー」 「ウス」 「楽しい映画だといいねっ」 「ウス」 「麻燐、暗くなると眠っちゃうから……頑張って最後まで見たいなぁ」 「ウス」 樺地は返事をしているのか相槌を打っているだけなのか……。 二人以外にはよく分かりませんが、麻燐が楽しみにしていることは分かります。 「さて、さっさと昼飯にして行くか」 「そうですね」 「麻燐ちゃん、お昼ご飯食べに行こうか」 「うん!」 エスコートしようと麻燐の右手を取る鳳。 こういうところは流石、育ちの良さと意地の悪さが出ていますね。 「育ちの良さだけで充分じゃないですか?」 ごめんなさい。 この後の昼食は宍戸と向日とも合流し、いつものように皆さんで食べました。 もちろん、食堂やお弁当ではなく、他クラスの模擬店で食べました。 跡部は全力で反対していましたが。 ですが、食べ始めると最後まで食べるのは流石跡部ですね。 賑やかにしすぎて周りの客が引いていたのも事実です。 いつもテニス部メンバーだけで食べている昼食の実態が晒されてしまいましたから。 また、 「麻燐ちゃまがオムライスを頬張っていらっしゃるわ!」 「まあ!小動物みたいで可愛らしい!」 「この時のために用意した一眼レフカメラがうなるわ!」 どこで嗅ぎつけたのか、麻燐の昼食の様子を一目見ようと押し寄せたファンクラブの皆さんが居たのは別のお話。 模擬店をしていた2年の生徒たちもあまりの迫力と遠慮のなさにたじたじでした。 ちなみに一眼レフカメラを用意していたのは美衣です。 「ったく……ここまできて、よくやるよな」 「ああ。こうなったら、どこからどこまで見られていたのか気になるところやな……」 食事を終え、模擬店から出たところ……向日と忍足は呟きました。 先程までは青学メンバーが一緒でしたからね。 あまり目立った行動はできなかったんでしょうね。 ですが、麻燐を今まで見ていたのではと思うと、何か恐ろしいものを感じます。 「確かに、麻燐ちゃんのご飯食べるところはリスみたいで可愛かったけどね〜」 「だって美味しかったんだもん!」 「そうか……それなら、よかったかな」 満足したのか、芥川の言葉に満面の笑みで答える麻燐。 初めは反対していた跡部も、その笑顔を見て落ち着いたようです。 「……あまり落ち着いて食べられなかったけどな」 「うん。ファンクラブもそうだけど、喫茶店の人たちの目がね……」 同じ2年のためか、日吉や鳳に助けを求めていた様子の生徒たち。 さすがにそれに応えることはできないようでした。 自分のことで精一杯だったようですね。 「でもこれで腹ごしらえはしたし、あとは休憩するだけだな!」 「宍戸……お前、映画寝る気だな」 「うっ……べ、別に、んなこと考えてねえよ」 「あー?俺は寝るぜ。縁日の店員も疲れたしなぁ」 ふぁあと欠伸をする向日。 確かに、射的の時もずっと見守っていてくれましたからね。 「あれ?りょう先輩とがっくん先輩は寝ちゃうの?」 「ん、ああ……やっぱこう、疲れが出るというか……」 「映画も興味あるわけじゃないからなぁ」 麻燐の言葉に苦笑しながらも正直に答える二人。 「そっか……。うん、でも二人とも頑張ってたから仕方ないよね」 どうやら二人の疲労を理解しているのか、責めたりはしません。 少し悲しそうな顔をしたが、すぐにまた笑顔になって、 「じゃあ二人の分まで麻燐が見てあげるね!だから、二人は寝てても、麻燐がしっかり内容を教えてあげる!」 「麻燐……」 突然の言葉に二人は驚いたような顔を見せるが、すぐに同じく笑顔になりました。 宍戸は、寝ないように意気込んでいる麻燐の頭を撫でて、 「じゃあ、頼んだぜ、麻燐」 「うん!」 そう言い、氷帝メンバー全員でシアタールームへと向かいました。 |