「よっしゃ、麻燐ちゃんの為に俺、頑張るでー!」


準備を始めるのは忍足。どうやらトップバッターのようです。
傍でにこにこしている麻燐にVサインをしてアピールまでしています。


「ぶーぶー、なんで忍足からなんだにゃー」
「さっさと終わらしてほしいね」
「侑士、普通にやれよ」
「眼鏡、あとがつっかえてんだ早くしろ」

「射的ってこんなアウェーな遊びやったっけ……」


まあ、忍足だからというのも理由にあるかもしれませんが。
今回の射的は内容的に全員で楽しめるような遊びではありませんからね。
3発の弾でいかに麻燐に喜んでもらえるかというのを競うための射的大会ですからね。


「ここはやっぱ、軽そうな頭やろ!」


そう言ってくまのぬいぐるみの頭を狙う忍足。
パン!という音と共に弾は発射し、宣言通り頭に当たるが……、


「あーだめや、意外と重いわ」


どうやらその頭も重いようで、当たったものの身動き一つしません。
その後の2発もめげずに頭を狙いましたが、落ちることはありませんでした。


「あーー折角麻燐ちゃんを喜ばせるチャンスやったのに!」
「ゆうし先輩、惜しかったよ!」


ショックで忍足が麻燐に抱きつこうとするのをボディがートである樺地が止めています。


「なかなか手強そうッスね」
「どうだ、これがこの雛段のラスボスだぜ!」
「……いつからラスボスになったんスか」


何故か胸を張って言う向日に、海堂がぼそりという。
そして続いての挑戦者は、


「よし……油断せずに行こう」


言いながら銃に弾を詰める手塚。2番手は手塚のようですね。
もはやそれしか台詞がないのかっていうくらいお決まりの言葉ですが、気合いは充分です。
そして狙いを定めたところで撃つ。


「くっ、だめか」


撃ちましたが、それは標的に掠りもしませんでした。
残りの2発も同じ結果で終わることに。


「くくっ、手塚ぁ、油断してたんじゃねーのか?」
「……ああ、初めてやったがなかなか難しかった」
「は、初めてだったんスか?」
「ぶちょう!そんなに落ち込まないで、たけのこの里あげるから!」


思いのほか落ち込んでいる手塚に向かって、どこからともなく取りだしたお菓子を差し出す麻燐。
まさかの役得ですね。


「ふっ、今度は俺様だ!庶民どもは俺様の美技に酔ってろ!」
「……跡部さん、射的をやったことは」
「アーン?こんな庶民の遊び、俺様がやったことあるわけないだろう」
「「「(じゃあどうしてそんなに自信満々なんだ…)」」」


この言葉には聞いた日吉だけでなく全員が心の中で思いました。
そしてそんな跡部の射的を見守ること数分……。


「……っおい!この弾軽すぎんだよ!おかしいんじゃねえのか、アーン!?」
「当ててもいないのにそうムキになんなよ、跡部……」
「「「(もはやクレーマーにしか見えない……)」」」


もちろん自信満々だとしてもできないことがあるわけで。
3発ともに標的とは別の方向に飛ばした跡部は向日を睨みつけました。


「怒っちゃだめだよ!がっくん先輩は悪くないんだから!」
「っ麻燐……!」
「……しょうがない。麻燐に免じて許してやる」


麻燐にそう言われて感動している向日と溜息をつく跡部。
取れなくて悪かったな、と麻燐の頭を撫でて、次の挑戦者を待ちます。


「ふしゅー……」
「次は海堂か。どうだ、俺の分析を参考にするか?」
「……乾先輩のは当てにならないッス」
「!?」


これまでの結果が結果ですからね……。
あっさりとお世話になった先輩を切り捨て、準備を始める海堂。
そして、まるで狩猟のような体勢で身を乗り出しました。


「さすが海堂、リーチがあるな」


思い切り腕を伸ばしている海堂を見て手塚は一言。
射的では結構リーチも重要ですからね。
そして、発射。


「あっ……!」


弾が良いポイントに当たったのか、少しぐらつくぬいぐるみ。
だがすぐにバランスを保ち、どしりと座り直しました。
麻燐が残念そうに声を漏らす。


「今のすごい!薫ちゃん、頑張って!」
「ふしゅー……」


そして集中して残り2発を撃ちますが、ぬいぐるみは倒れることはなかった。
悔しそうな顔の海堂とは打って変わり、爽やかな笑みで登場したのは鳳。


「リーチなら、俺が一番有利ですからね」


言いながら、長身をくねらせてくまを狙う鳳。確かに、今までで一番ぬいぐるみに接近しています。
だが、何かに気付いているような表情で、日吉がその後ろで溜息をついています。
そして1発目。ぬいぐるみとは程遠い場所へと弾は放たれる。


「鳳……お前、ノーコンだろ」
「あ゙……」


その日吉の言葉の通り、鳳は1発も当てることなく挑戦を終えました。
こうして次々と襲い来る挑戦者を地に這わせるぬいぐるみ。
可愛い顔してなかなかやります。


「グレイトォー!」
「銃を持っても変わるのか!?」


その次の河村の挑戦も、人格が変わって強気になりましたが弾の威力は変わることはありません。
そして大石、日吉、乾の挑戦も終えて、次は芥川の番だ。


「やっと俺の番だC〜」


芥川は伸びをしながら銃を持つ。
そしてにこっと向日を見て、


「がっくん、同じクラスのよしみとしてくまのぬいぐるみ譲ってくれない?」
「んな直接的に頼まれても無理だっつの」


あまりに堂々と聞いてきた芥川に向日も苦笑い。
おいおい、と忍足も呆れたような顔をしています。


「ジロー先輩、いくらリーチもコントロールも何もないからって、見苦しいですよ」
「コントロールについては鳳に言われたくないC」
「いいから、早く終わらせて天才の僕に回してよ」
「「不二(さん)は黙ってて」」


あなたまで入って空気を重くしないでください。


「まっ、俺の麻燐ちゃんへの愛は本物だからね〜。負けないC!」


そうして狙いを定める芥川。
本気なのはいいんですが……。


「あーもう!悔C〜!!」


だからといってクリアできるほど甘くはありません。
胴体を狙ったり手を狙ったりしましたが、やはり少しぐらつくだけで倒れようとはしません。


「ねえがっくん、あのぬいぐるみに石詰めたりしてないよね」
「してねえよ!っつーか、お前も一緒に準備しただろうが!」


余程悔しいのか、唇を尖らせて言う芥川。


「ごめんね、麻燐ちゃん。取れなかったC」
「大丈夫だよ。頑張ってくれてありがとう」
「っ……こうなったら、ぬいぐるみの代わりに俺をあげ「ちょっと、僕の目の前で麻燐ちゃんに妙なことを言うのは止めてくれるかな」


麻燐に抱きつこうとしたのを不二に止められました。
妙なことって……合宿の時はあなたが先陣を切って妙なことを言っていたような気がしますが。


「麻燐ちゃん、僕に任せておいてよ」
「うん、周ちゃんも頑張って!」


にっこりと笑う不二。どうやら次は不二のようです。
射的大会後半戦。いったい勝者は誰になるやら………。