「おっ、麻燐じゃねーか!」
「がっくん先輩!」


あと少しで向日の教室というところで、向日本人に声をかけられた一同。
麻燐が嬉しそうに向日に駆け寄る。


「すげえ可愛いな、麻燐!えーっと、なんてったっけこれ……」
「赤ずきんさんだよ!」
「そうそう、やっぱり麻燐は何着ても似合うんだなー」


なんて、はにかみ笑顔を見せながら麻燐の頭を撫でる向日。


「ありがとう!それでね、がっくん先輩に見てほしい物があるの!」


そう言いながら、ラストとなった雑貨を向日に見せる麻燐。
向日はそれを見て、


「ああ、これが麻燐の言ってた雑貨店の商品なのか?」
「うん!いっこ100円なんだけど……どう、かな?」
「もちろん買うぜ!麻燐の可愛い赤ずきん姿も見れたしな!」
「い、潔い!さすが俺のパートナーや!」


ちゃっかり麻燐を褒めるのも忘れない、男らしい向日の態度に忍足が感動しています。
そんな良い雰囲気の中、向日に突進する人物が一人。


「にゃーーー!向日なんかに独り人占めさせないにゃ!」
「!?!?は!?お前、菊丸……」


どん!と突き飛ばされるように麻燐から引きはがされてしまう向日。
その意外な人物に一瞬目を丸くします。


「ていうか、僕たちの存在に気付いていなかったんだね」
「……麻燐しか見てないってことッスね」
「油断している証拠だな」


菊丸を先頭に、次々に現れる青学メンバー。


「あれ!?なんで青学の連中が……」
「ウス」
「……ということだ」
「いや、そう言われても、俺樺地の言葉を意訳できねえし」


樺地が状況を説明しようと一歩乗り出し、跡部が腕を組み言いますが……結果伝わりません。
今のところ樺地とまともに会話ができるのは跡部と鳳と麻燐だけですからね。
なので、向日への説明は日吉がしました。


「へー、創立記念日か……まさか、学園祭でまでお前らと顔合わせることになるとはな」
「ところで、岳人は今何してん?」
「俺?俺は、射的の景品の買い足し。意外と皆うまいんだよな」
「射的かぁ!楽しそうッスね!」


桃城が笑顔で肩を回し始める。やる気満々ですね。
その話を聞いて、麻燐もぱあっと笑顔になりました。


「射的!ねえ、それって、銃でばんってやるやつだよね?」
「うん、そうだよ。麻燐ちゃんはやったことあるの?」
「それが……いつもパパが危ないって言ってやらせてくれないの」
「そうなんだ。優しいお父さんなんだね」


大石が少し拗ねている麻燐を見てほっこり心を和ませる。


「だからね、射的で頑張ってる人とか見ると……すごくかっこいいなって思うの」

「よっしゃ、俺の出番だな!麻燐、見てろよ!」
「何を言うとるんや桃城。ここは俺が麻燐ちゃんを惚れ直させるところや」
「初めから惚れてなんていないよ。変態は引っ込んでて」
「青学の真っ黒さんだってお呼びじゃないC〜!俺が適任でしょ〜」
「あっは、皆さんごちゃごちゃと見苦しいですよ。俺に任せてください」


麻燐の一声に素早く反応する桃城、忍足、不二、芥川、鳳。
さすがの反射神経とも言えますが……全員揃って見苦しいと思います。


「ったくせっかちな奴らだな……。おい聞け!第1回射的大会を開催する!」
「(あなたも人のこと言えませんよね……)」


跡部までもそう声を上げる始末。
既に乗り気のメンバーたちを目の前に、声に出すことはしない日吉。
それが幸か不幸か、全員参加の射的大会に転じることになるとは……。


「いいか、ルールは簡単だ。麻燐の気に入った景品を一番に撃ち落とした奴が勝ちだ」
「了解だ。チャレンジは一人1回……順番は、じゃんけんだな」


跡部と手塚が仕切り、順調に第1回射的大会が開かれようとしています。
何やら楽しい事が起こるというのを本能で感じている麻燐は、楽しそうににこにこしています。


「麻燐、どの景品が気になる?」
「えっとね……あれ!あのくまさんのぬいぐるみが気になる!」


麻燐が指を差したのは、雛段の真ん中の段にある、両掌に乗るくらいの大きさのくまのぬいぐるみ。
意外と重量もあり、射的で落とすのは難しい部類に入ります。


「あれは……難しいね。どこを狙えばいいのか分からないよ」
「それに、最初にチャレンジするか後にするか……どっちが有利かも、微妙だね」


難しそうな顔でぬいるぐみを見つめる河村と不二。


「あれかー。あれは今まで結構な人数挑戦してたけど、なかなかしぶといやつだぜ?」


向日が意地の悪そうな笑みでそう言う。
どうやら向日は縁日のスタッフ側なので参戦しないようですね。
ですがその言葉も、逆に皆さんに火をつけることになりました。


「ふはは!この俺様のインサイトに敵うわけがねえ!」
「なんでこんなことに……。だが、またとない下剋上のチャンス」
「ふしゅー……。負けるのは性に合わねえ」
「……あの角度からいけば落とせる確率、78%というところかな」


各々、ぶつぶつ言いながら頭の中でシュミレートしている様子。
そしてじゃんけんで順番を決め、もうまもなく第1回射的大会(という名の小競り合い)が始まろうとしています。


「ふふっ。真剣な皆のお顔、とってもかっこいいね」
「ウス」


麻燐と樺地はそんな風に見守りながら、勝負の行く末を楽しみに待っています。


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