無事宍戸にも雑貨を買ってもらい上機嫌な麻燐。 ちゃんとお礼を言ってから、次は向日のいる場所へ向かいます。 「向日は何をしてるの?」 「えーっとね、縁日をやってるんだって!」 菊丸の質問には麻燐が答えました。 それにしても、この大人数での移動はなかなか大変というか……周りからしたらとんだ迷惑ですね。 すると、何かに気を取られ立ち止まった人物が一人。 「あそこは一体何をしているところなんだ…?」 移動中、手塚が気になった場所。 立ち止まったまま何かを凝視している手塚の視線の先を見て、青学メンバーはぎょっと目を剥きます。 「て、手塚、そんなことよりほら、あっちに焼きそばの屋台があるよ!」 「う、うまそうッスね〜!手塚部長、一緒に買いに行きませんか?」 どうにか手塚の視線を逸らそうと大石と桃城がタッグを組む。 だが手塚は眉を寄せるだけ。どうしても気になるようです。 そして、 「あっ、景ちゃん先輩だ!」 麻燐も手塚の視線の先のものに気付き、声をあげる。 それがなぜ跡部の名前かと言うと、 「ふっ……やはり俺様の美しさはスルーなんかできねえよな」 こちらを見て微かに微笑んでいる跡部……………のポスター。 麻燐の後ろにいた本物は満足そうに髪を掻きあげています。 「ああ……見つかってしまいましたね」 「しゃあないんや……。岳人のクラスに行くにはここを通らなあかんし……」 「………氷帝の恥ですね」 鳳と忍足が苦笑して呟く。日吉に至ってはドン引き状態です。 だがそれも、自分に酔ってしまっている跡部には聞こえず、 「ふははははどうだ!ここが俺様のクラスの出し物、俺様・ザ・ワールドだ!」 「「「(ネーミングセンス……)」」」 「ほう……」 「すごーい!すごいすごい景ちゃん先輩!」 興味ありな反応したのは手塚と麻燐だけです。 残念ながら他の皆さんはぽかんとしていたり呆れていたり哀れみの目を向けたりしています。 氷帝の皆さんは今すぐにでも逃げ去りたいという気持ちでいっぱいです。 「……君たちのところの部長って、いろいろ残念だよね」 「そう言わんといてやってや……本人は楽しんどるんや」 「自覚がない分罪だよね。むしろ罪しかないよ」 「アーン?俺様の美しさが罪だって?」 「なんでそこしか聞こえてないんだい?どんだけ都合の良い耳をしてるの?」 それ以前に酷い事をたくさん言われていたんですがね……。 不二は嫌そうな顔で口元をぴくぴくさせています。 「すごいな。これだけ撮影したんだ。相当な時間がかかっただろう」 「ふっ、そんなことはない。ここにある写真のうち半分は俺様のファンの隠し撮りだからな」 「何でそんなものを堂々と飾ってるの!?」 信じられない、という表情でツッコむ大石。 しかも隠し撮りをされていることについて全く問題視していませんね、跡部は。 むしろ利用するとは……やはり、跡部の考えることは全く分かりません。 「景ちゃん先輩がいっぱいいるー!」 「どうだ、麻燐。最高の世界だろう」 「……それは自分だけや」 部屋のあっちこっちに跡部がいるため、物凄く居心地の悪そうな顔をしている皆さん。 同じクラスの忍足も、楽ができるからってやりすぎたかなと少し反省しています。 「これだけ貼るなら床にも貼ればよかったじゃん。絶対ストレス解消になるよ」 「……越前、踏みつける気満々だろ」 さすがの越前も苛々している様子。 隣で桃城が苦笑いで言った。 「どの景ちゃん先輩もかっこいいよ〜」 「そうだろう。……そうだな、麻燐なら好きなものを好きなだけ持っていっていいぜ」 「えっ?」 「ああ、これだけ喜んでくれてるからな。当然だ」 得意気に言う跡部。 麻燐は喜んでいるというか……ただ珍しいからはしゃいでいるだけのようにも思えますが。 ここは跡部の好きに解釈させておきましょう。 「んー……いい、麻燐、いらないよ」 「!?!?!?」 まさか断られるとは思っていなかった跡部。 とっさにインサイトポーズを作ります。 「だって麻燐には、本物の景ちゃん先輩がいるんだもん」 「なっ……」 「ほら、こうやって、お話できる方が楽しいでしょ?」 「麻燐……」 麻燐の言葉に感動し、何も言えなくなる跡部。 そんな感動的空間が作られている中で、 「うっ……」 「どうした、海堂!」 「……吐き気がするッス」 「なんだって?大変だ、海堂が跡部酔いした!」 「大丈夫かにゃ、海堂〜!」 「まさかの体調不良者やて!?」 「油断したな……。この場は危険だ。すぐに全員避難しろ!」 手塚の言葉に青学のメンバーは素早く撤退する。 「……危険って言ってましたよね」 「妥当だと思うよ。何もかも濃い跡部さんがこれだけ居るんだし、悪酔いしても仕方ないよ」 とうとう後輩にまでこんなことを言われるようになってしまったんですね。 その後は、自分たちも早く出ようと跡部と麻燐を切り離し、教室から強制退場させました。 「……全く、普段見慣れない美形を見た所為で酔っちまったのか」 「そろそろ殴って改心させてあげてもいいんじゃないかな」 「さすがに冗談だ。マジにとるんじゃねえ」 不二の言葉に溜息をつきながら言う跡部。 本当に冗談だったのか、全員が疑問に思っていますよ。 「大丈夫?薫ちゃん……」 そんな中、心配そうに眉を下げて海堂を心配する麻燐。 急に顔を覗き込まれた海堂はびっくりして思わず顔を反る。 「ふ、ふしゅー……」 「ふしゅー?」 「はは、麻燐ちゃん、もう海堂は大丈夫だって」 麻燐に心配された海堂を嫉妬してか、鳳は麻燐にそう言う。 そして気分が落ち着いたのか、海堂は立ち上がる。 「よーし、海堂の体調も良くなったことだし、次こそ向日の所に突撃だにゃー!」 空気を変えるかのように言う菊丸。 麻燐も笑顔で、それに便乗しました。 そうして、再び大人数での移動がはじまりました。 |