「何故だ!!何故俺様が王子様じゃないんだっ!!」 と、眼力をより一層強くして絶望しているのは跡部。 眉を寄せ目は見開き、額には汗が滲んでます。 それほど驚愕の結果だったようですね。 「というか、どこからそんな自信が持てるんだよ……」 そんな跡部を横目に見て呟くのは根っからのツッコミ精神を持つ宍戸。 彼もまた、自分の引いたくじの内容を見て溜息をついています。 「宍戸、お前何役だよ」 「……ねずみだ」 「ぎゃはは!宍戸がねずみとか!」 「なっ……そう言う岳人はなんなんだよ」 「俺は猫だぜ!」 「そう変わんねえじゃねえか!」 と、何やら中学生らしい会話を繰り広げる二人。 すると横から、 「………宍戸くんもねずみなのね」 「うおっ!……って、後藤か……」 元気が全くと言っていい程なくなっている愛子。 何やら一瞬にして老けてしまったみたいです。 その全身から感じられる負のオーラに、宍戸は一歩後ずさる。 「え?も≠チて……」 「そうなの、私もねずみなの……ああっ!なんで王子様になれなかったの!!」 どうやら愛子の落ち込みようはそのことが原因のようですね。 宍戸は理解し、苦笑を浮かべた。 「りょー先輩と愛子おねーちゃんは、ねずみさんだったの?」 「麻燐ちゃま……ええそうなの。王子様ではなくてとても残念です……」 「まぁ……そう目立つ役ではないよな」 「そんなことないよ!だってねずみさんは、シンデレラを助けてくれる素敵な役だよ!」 どことなく落ち込んでいる二人に、麻燐がそう話す。 にこっと、心から思っているかのように言う麻燐に、一気に二人の心を掴みました。 「そう考えたら……そうだよな」 「麻燐ちゃま……!麻燐ちゃまがそうおっしゃるのなら、私、全ての力を麻燐ちゃまをお助けするために使います!」 「(お、おいおい……)」 あまりの変わり身の早さに、宍戸はたじたじ。 だが麻燐は満足そうに笑っていた。 そして何かに気付いたように、 「景ちゃん先輩はなんだったの?」 同じく不満げな顔をしていた跡部に声をかけた。 いつにも増して眉間に皺が寄っている跡部は、そんな麻燐を見る。 そして言うのを少々躊躇いながら口を動かした。 「俺様は……魔法使いだ」 「ええ!すごーい!景ちゃん先輩は魔法使いなんだ!」 「ああ、不覚だがな……」 本当に残念そうですね。 いくら何様俺様跡部様でも、くじの結果はどうにもできないみたいです。 見事に翻弄されていますね。 「樺ちゃん先輩は?」」 「ウス」 「えー!すごい、ぴったり!」 「ほう。ということは、俺様とセットみたいなもんだな」 「ウス」 「(さすが麻燐ちゃまに跡部くん、樺地くん語を理解してるのね……)」 あの2文字に一体どんな感情・意味が込められているのか。 聞こえた会話に、改めて二人を尊敬する美衣だった。 だが、美衣本人は今それどころではない。 自分が引いたくじの結果に、跡部同様不満を感じていた。 そのことに後悔をしているのか、険しい表情でくじを凝視する。 どうして自分はこのくじを引いてしまったのか。 すぐ隣にあったくじを引けば結果は変わっていたのではないか。 「あっ、美衣おねーちゃんは?」 「私は……シンデレラのお姉さん役ですわ」 「そうなんだ!なんだかぴったり!」 「えっ?ぴ、ぴったり……?」 「うん!だって美衣おねーちゃんは優しいし、大人っぽいし、すごくおねーさま!!って感じだから!」 「っ麻燐ちゃま……!」 ですが、そんな邪な考えも麻燐の一言で全て消え去ってしまいます。 ……麻燐ちゃんの言葉はもはや仏の言葉のようですね。 美衣は感動を覚え、勢い余って麻燐に抱きつきます。 「あーあ、残念だなあ……。まさか俺が継母役になるなんて」 そんな二人の傍でそう呟いたのは鳳。 鳳のことですから、やはり王子様役を狙っていたのでしょう。 ですが跡部や美衣と違い、そこまで不満な顔はしていないようです。 「あ、日吉。日吉はどうだった?」 「死にたい」 「なぁんだ、日吉は姉役かー。じゃあ俺と似たようなものだね」 「うるさい黙れ大きな声で言うないっそのこと殺してくれ」 この世のものとは思えないほど絶望した表情を見せる日吉。 心の底から願った、女役だけは嫌だ、という思いは叶えられなかったようです。 今にも灰になってしまいそうな日吉を、鳳は気遣う様子もなく、 「いいじゃん。こうなったらとことん演じて華々しく散っていこうよ」 「俺は今すぐ散りたいんだ」 「いいじゃねーか、日吉。俺なんて猫だぜ?」 「性別の変更が出来るあたり楽じゃないですか」 途中で向日が励まそうとするも、日吉の機嫌の悪さは治りません。 とうとう頭を抱えてしまいました。 ここで、麻燐の登場です。 「わか先輩?どうしたの?」 「ああ、日吉はね、麻燐ちゃんのお姉さん役になったんだよ」 「っ鳳……」 「そうなの?」 麻燐もさすがに驚いたのか、日吉を見つめます。 日吉の悩んでいるような苦しんでいるような表情を見て、 「でも、大丈夫だよ!わか先輩は努力家だもん!お姉さん役だって、上手くできるって信じてる!」 「なっ……」 「だから心配しないで、わか先輩!麻燐もわか先輩が女の子になれるようにお手伝いするから!」 と、純粋な笑顔を日吉に向けました。 どうやら、女役を嫌がっているのではなく、上手く女役を演じられるか悩んでいると思われてしまったようです。 きらきらと、自分を応援する麻燐に日吉は、 「っあ、ああ……ありがとう、な……」 もう何も言えなくなりました。 涙を呑みこみ、この状況を受け入れることに決めました。 「麻燐、俺も猫役頑張るからな!」 「がっくん先輩の猫さん!楽しみー!」 「はは、俺も麻燐ちゃんの為に継母役頑張るからね」 「チョタ先輩がママ!えへへ、なんだか楽しそう!」 この二人は気楽に役がこなせそうですね。 特に鳳なんて器用そうですからね。 「ふっふっふ……」 さて、来ました。 今まで黙っていたので、誰も知らない間に抹消されたのではないかと心配していましたが。 どうやら無事だったようです。 「ついに、来た……」 自らのチャームポイントでもある、眼鏡を光らせ。 目の前できょとんとしている麻燐を見つめ。 抑えきれぬ興奮を今、 「俺の時代がキターーーーー!!」 爆発させた。 さっきから「キター」とうるさかったのは忍足のようです。 両手に作った拳を高く掲げ、叫ぶ。 そんなに嬉しいことがあったんでしょうか。 「きたでぇ麻燐ちゃん!俺の時代が!麻燐ちゃんの王子様となれる時代が!!」 とんでもなく調子に乗っている忍足は、勝ち誇った顔で麻燐に告げる。 その言葉を聞いた瞬間、ぱあっと顔を明るくする麻燐。 ぎろっと憎しみで忍足を睨むその他の皆さん。 「侑士先輩が王子様!うわあ、すごく似合いそう!」 「ありがとな麻燐ちゃん。きっと麻燐ちゃんへの愛情の強さが俺にこのチャンスを与えたんや!」 そして両手を広げた忍足に麻燐が飛び込もうとするのを、阻止した人物が。 「それって嫌味?俺に対する嫌味?あと一歩で王子様役なのに妥協して側近の位置にきちゃったみたいな俺への嫌味なの?」 後ろから忍足の首ねっこを掴みぎりぎりと力を込めている芥川。 そのせいでぐえっとなった忍足の異変に気づき、麻燐は抱きつくのを止めました。 「なんで忍足なの?よりによってどうして変態なの?」 「い、いやいやジローさん。くじやから仕方ないやん。それに俺は変態じゃないんやけど」 にっこりと黒いオーラを蔓延させている芥川に、同じく苦笑いで対処している忍足。 あの笑顔に負けたらだめだ。負けたら俺は終わる。 そんな考えを強く持ち、忍足はなんとか反抗した。 「ジロ先輩?」 「麻燐ーっ!俺悔Cー!麻燐の王子様役やりたかったのにいっ」 麻燐が小首を傾げながら芥川の名前を呟くと、芥川は忍足から手を離して麻燐に抱きつきました。 忍足は、恐ろしい子……!とでも言いたそうに芥川を見る。 「まさか忍足になるとはな……」 「一番私たちが危険視していた結果になるなんて……!」 「くそくそ侑士!ずりーぜ!」 「忍足さん、今からでも遅くはありません。酷い目に遭いたくなければ変わってください」 「え、ちょ、皆ひどくない?」 あまりの言われように標準語になる忍足。 ですが、これは忍足が嫌いだから言っているのではありませんよ。 皆、王子様役を取られたというところに嫉妬しているのです。 「俺だって王子様になって麻燐ちゃんと結ばれたかったのにー!」 「ジロ先輩……だけど、側近さんも大事な役だよ?」 「うう……でも……」 「王子様は確かに目立つ役だけど、他の役もいっぱい良いところがあるし、とっても素敵なんだよ?だから、ジロ先輩も側近さんの役を頑張ろう?」 いじける芥川を慰めるように、優しく言う麻燐。 いやいや、何も芥川は目立ちたいがために駄々をこねているんじゃないんですよ。 あなたの相手役がしたいんですよ。 ですが、そんなことを考えてもいない麻燐は、必死に他の役の良いところをアピールしています。 まあ、傍から見たら1年が3年を慰めている不思議な図なんですけど。 「う〜〜……わかった。麻燐が可愛いから許す!」 「?わーい!」 一体何を許されたのか分かりませんが、芥川の機嫌が直ったことに喜ぶ麻燐。 さて、場のいざこざも収まったところで、役のまとめでもしましょう。 ・ナレーター→真奈 ・シンデレラ→麻燐 ・継母→鳳 ・姉1→美衣 ・姉2→日吉 ・ねずみ1→宍戸 ・ねずみ2→愛子 ・猫→向日 ・魔法使い→跡部 ・かぼちゃの馬車→樺地 ・王子様の側近→芥川 ・王子様→忍足 こうまとめて見ますと、より一層シュールですね。 鳳と日吉はどう女役を演じるのか。 跡部は無事魔法をかけられるのか。 樺地のかぼちゃとは一体どうなるのか。 忍足は変態ではない王子になれるのか。 ……なんだか不思議なシンデレラになりそうです。 ×
|