「ではくじを引く前に、どんな役があるのか改めて確認しましょう」


美衣が言いながら、ホワイトボードを前に出す。
皆さんも心配そうな顔をしながら注目する。
麻燐も楽しそうにボードの近くに寄った。
そして美衣はボードに配役のを書きだす。
その内容は、

・継母
・姉1
・姉2
・ねずみ1
・ねずみ2
・猫
・魔法使い
・かぼちゃの馬車
・王子様の側近
・王子様

というものだった。


「これで私と愛子、それとレギュラーの皆8人で合わせて10人ね」


美衣が書ききると、にっこり皆に笑いかけた。
内容はどこもおかしくない。
原作でも登場する配役ばかりだ。


「配役は普通なんですね。安心しました」
「……むしろ不安がらせていたことが心外だわ」


日吉の安堵の息に、その様子を見ていた真奈が驚いたように目を丸くする。
すると今度は宍戸が、


「なぁ……これ、女役もあるけど……それってくじで区別されてるのか?」
「してないわ」
「!?なんでだよ!」
「私たちだって王子様役やりたいのよ!」


宍戸の叫びよりもずっとずっと力強い声で愛子が答える。
そのまさかの剣幕に宍戸は続きの言葉が出なかった。


「……自分らも必死やなぁ」
「もちろん、くじだからって全力でいきますわ」
「……くじでどう全力を出すんだよ」


本気の目で言う美衣に、溜息交じりで向日が呟く。


「まぁ、いいじゃん好きにさせてあげればさ〜。どうせ俺が王子様なんだし」
「まったくもって決まってませんよ、ジロー先輩。きっと俺になるでしょうし」
「あら?鳳くんだって自分の主張しちゃってるわよ?」
「あ、本当だ。うっかりしてました〜」

「……俺、もうあいつら怖えよ」
「ったく……麻燐のことになると見境ねえな」
「(いや、それ自分もやで……)」


向日の反応が一番正常です。安心してください。
普段黒い人との関わりがない美衣と愛子は苦笑い状態。
友人がこうも豹変する姿はやはり慣れないものですね。


「麻燐は誰が王子様でも嬉しいよ!」
「……麻燐、お前が寛大な奴でよかったよ」


一瞬にしてこの空気を和ます、そんな笑顔を振りまく麻燐。
そんな麻燐のおかげでこの妙な方向にずれそうになる空気が平穏になる。
おかげでツッコミとしての負担が軽減される日吉は、本当にありがたそうに麻燐の肩に手を置いた。


「?」


当の本人はよく分かっていないような顔をしていますが。


「ま、まぁ……こうやって話しているのもなんですから、早速くじを引きましょうか」


黒い人たちの眼差しが柔らかいものに変わり麻燐を見つめ始めたところで、美衣がそう切り出す。
それにつられて、愛子も用意していたくじの入った箱を取って来ました。
箱の中には、棒が何本か出ており、その先に役柄が書いてあるのだと一目で分かる。


「あ、ちなみに、真奈はナレーターをするから、くじは引かないのよ」


皆の前にくじ箱を差し出す愛子が付け足すように言った。


「へぇ〜。じゃあ高橋は王子様できないんだ?ざぁんねんだね〜」
「ふふ、そんなこと言っていいの?私が脚本なんだから、役の台詞に悪戯できるのも私なのよ?」
「ちょ、ちょっと真奈!」


それは言い過ぎ、と不機嫌状態の真奈を抑える美衣。
どこの部長も部員がこんなだと大変ですね。


「「「ねえ、それって誰のこと言ってるの?」」」


ひいいいいい!
皆さん一斉に反応しないでください!
というか、反応している時点で自覚済みですよね!?


「……?皆、誰に言ってるの?」
「「「なんでもないよ」」」


……そして打って変わり、麻燐の前では天使のように優しい微笑みを見せる真っ黒なお方3人。
麻燐の他には止めることのできる人物はいないような気がします。


「それより、早くくじ引いて引いて!麻燐、なんだか楽しみ!」
「ふふ、それもそうね。じゃあ一人ずつくじを引いていって」


にっこりと笑みを浮かべて言う真奈。
そして自分はくじを引かないので箱を持ち、皆に差し出す。
近くに居た芥川と鳳が先に引き、他の皆さんも恐る恐る箱から出ている棒を取りました。
棒の先には紙がくるくると巻かれています。
どうやらその中に配役が書いてあるようですね。


「な、なんだか緊張するぜ……」
「麻燐もどきどき!」


向日の呟きに、麻燐も少しはしゃいで答える。
その様子に、幾分か向日の緊張している心は安らいだようです。
そして全員が棒を引き終わった。


「それじゃあ……皆一斉に、紙を剥がして中身を見てみて」


真奈がそう合図をする。
それと同時に棒を紙から剥がし、書いてある文字を見る。


「キターーーーーーー!」
「な……っ!」
「俺のインサイトに狂いがあっただと……!?」


さてさて。
内容を見た瞬間に色々な反応を見せる皆さん。
一体、誰がどんな役を引いたのでしょうか……。