「よし、皆集まってるな」


授業も無事終わり、今は放課後。
皆さん、いつものように部室に集まります。
かといって部活をするのではなく、部活ごとの出し物の準備時間のため、やることがなく他愛もない話をしていた。
そこで、一番最後に部室に入ってきた跡部がそう言った。


「なんか仕事でもあんのか?」


向日がそう聞いてみる。
だが、跡部は詳しく話そうとはせず、


「いや、ここで話すのもなんだからな。全員、服飾室に来い」
「服飾室……というと、演劇部の部室ですね」
「そうだ。今日はそこに用事がある。ほら、麻燐行くぞ」
「うん!」
「何の違和感もなしに誘いにいったな」


ナチュラルに麻燐を呼び、手を繋いだ跡部に忍足がツッコむ。
最近の跡部は恥も外聞も何もなくなった気がしますね。
もちろん、その跡部の抜け駆けは許されるはずがなく、麻燐の残っている片方の手は芥川が奪った。


「ったく……もうちょっと静かに移動できねえのかよ」
「俺はもう慣れてきました」


後ろで宍戸と日吉が呟く。
まったく、苦労が絶えませんね。





そして、皆さんの目の前には服飾室の扉。
ここにくると少し昔のあの光景を思い出しますね。
早速入ろうと、跡部が扉のノブに手をかけると、


「「「麻燐ちゃまあっ!!」」」
「へぶっ」


その扉は先にファンクラブの3人によって開けられ、扉の真ん前に立っていた跡部の顔面に直撃。
あの学園の跡部様が「へぶっ」って言いましたよ。


「ああ愛しの麻燐ちゃま!お会いしたかったですわ!」
「今日も、何て可愛らしいの!」
「相変わらず麗しいわ!……あら、跡部くんそこで何してるの」


もはや麻燐以外視界に入っていませんね……。
跡部はぶつけた鼻の頭を押さえながら、3人を睨む。


「お前らなぁ……少しは周りの危険を考えろ!」
「ごめんなさい。でも私たち、麻燐ちゃまのことになると周りが見えなくて……」
「まさか跡部くんがすぐそこに居るなんて思わなくて……」
「でも跡部くんだって、麻燐ちゃまのことになると盲目になるでしょう?」
「…………まあ、そうだな」
「「「(認めるなよそこ!!)」」」


もうこの部長はだめだ。
そう強く感じた瞬間でした。


「……で、お前らがここにいるってことは、何か用があるのか?」
「そうなのよ、宍戸くん。あのね、ついに完成したの」
「へ?」


愛子の言葉に、宍戸は変な声を出す。
完成した、とはどういうことだろうか。


「まぁまぁ、とりあえず部室に入ってよ」
「はーい!」


にこりと笑いながら促す真奈。
忍足の次くらいに胡散臭いその笑顔に少々警戒しながらも、レギュラーの皆さんは部室に入りました。
ですが麻燐は喜びながら入って行きました。
そして全員が部室に入り、扉が閉められた。
入ってすぐ、皆さんが目にしたものは、


「………シンデレラ〜逆ハーレムver.〜=c……?」


日吉が思わず呟いた言葉。
そう、その言葉がホワイトボードに大きく書かれていました。
意味が分からない様子のテニス部メンバーたちは、がやがやと話し出す。
そしてその様子に気付いた美衣は、


「これが、私たちが有志で発表する劇のタイトルですわ!」


堂々と、楽しそうに言い放った。
突然のことに呆然としていた皆さんも、今の言葉でようやく状況が読みこめたようです。


「麻燐たちが出る劇?わあ、楽しみーー!」
「あ、ああ、この前言ってたあれか」
「なんだよ……何事かと思ったじゃねえか」
「ふふ、二人とも勘が鈍いのね」


くすくすと笑う真奈。
そして言葉を続ける。


「私が脚本を書いたの。少し時間がかかっちゃったけど……。それで、これから配役を決めたいと思って」
「配役……ですか」
「ええ。もちろん、人数分の役はちゃんと用意してあるから、全員が劇に出られるわよ」
「………俺は、別にいらねえんだけどよ……」


真奈の言葉に脱力する宍戸。
どうやら劇に出たくないのか、やる気はないようです。


「ていうか、〜逆ハーレムver.〜ってなんだよ」
「そのままの意味よ。シンデレラが逆ハーレム状態なの」
「………」
「元の物語のシンデレラは継母や二人の姉にこき使われたりしてるでしょ?だけど、我が愛しの麻燐ちゃまにそんな事ができるわけがないわ」
「我が≠チて……」


日吉が溜息をつく。
もうツッコむまい。


「へえ。シンデレラっちゅうことは、王子さんの役とかあるんや〜」
「ええそうよ。まあ、忍足くんには関係のないことでしょうけど」
「それってめっさひどいで」


にっこり笑顔で真奈に言われた忍足。


「てか、王子様は俺って決まってるC〜」
「別に決まってませんよ」
「そこ、すぐ喧嘩を始めるな」


芥川と鳳が言い合いになりそうなところを跡部が止める。
どうやら、鼻は大丈夫だったようです。
そうして腕組をしながら、


「で、どうやってその配役を決めるんだ?」
「ああ、それならくじで決めようと思って」
「くじ!?」
「ええ。その方が公平だし、私たちが用意すれば小細工なんてできないでしょ?」
「小細工なんて、そんなこと俺がするわけないC!」
「俺が≠チて言ってる時点でする気満々だということに気付けよ」


向日がそっとツッコむ。
芥川が言うと悪気があるのか天然なのかいまいち分からないようです。


「くじか……それならいいぜ」
「異議なしや」
「そう、よかった。あ、もちろん麻燐ちゃまはシンデレラ役よ」
「麻燐がシンデレラ?うわーっ、緊張する!」
「ふふ、きっと凄く可愛らしいシンデレラになるわ」
「愛子おねーちゃん、ありがとう!」


麻燐はかなり乗り気のようです。
ですが、問題は皆さんの配役。
誰が誰役になるか……また長くなりそうですね。