「そういえばさ、麻燐のクラスは何やるんだよ」


学園祭まで残り2日。
いつものように部室に集まると、向日がそう口を開いた。
その問いかけに、麻燐は笑顔で、


「麻燐のクラスはね、雑貨店をやるの!」


そう答えた。
意外だったのか、皆さんは興味深そうな表情になる。


「雑貨か……。何を作るの?」
「うーんとね、ミサンガとか、ポーチとか、ビーズアクセとか……」
「へぇ、可愛らしいね」


思い出すように指折り数える麻燐を見て鳳は言う。
それは雑貨のことなのか麻燐のことなのか。


「ミサンガか。合宿の時も作ってくれたよな」
「うん!今回もたくさん作ったの!」
「麻燐は頑張りやだな〜。俺も、あの時のちゃんとつけてるぜ」


にっと笑って手首を見せる向日。
それに対抗しているつもりか、


「俺だって肌身離さずつけてるC!むしろ、このミサンガを麻燐だと思って大切にしてるんだからね!」
「ほんとう?嬉しいっ」
「俺だって付けとるで!それはもう、風呂の時も欠かさずな!」
「お前が言うと気持ち悪いんだよ」
「何を言うんや宍戸!」


そう言う自分もつけとるやん、と忍足が言うと宍戸は照れくさそうに目を逸らした。
皆さん、ちゃんと付けているみたいですね。


「はっ、俺様だって付けてるぜ。麻燐からの初めてのプレゼントだからな」
「プレゼントって……そんな大袈裟な、」
「そんなこと言って、日吉も付けてるんでしょー?」
「っ……」


にやにやと笑いながら言う芥川の言葉に、反論しない日吉。
図星なのでしょう。


「俺も、麻燐ちゃんが作ったものならパワーがありそうだからね」
「ふふっ、皆ありがとう!もちろん、麻燐も全部つけてるよ!」
「「「全部??」」」


その言葉に氷帝の皆さんは敏感に反応しました。
そしてその問いに応えるように麻燐は、


「うん!ほら、仲間の印!」


嬉しそうに手首にある3つのミサンガを皆に見せた。
氷帝のもの、青学のもの、立海のもの。
3蓮で見るととてもカラフルだ。


「そ、そうか……。まぁ、当り前っちゃーそうだよな」


少し向日が悔しそうに口を尖らせて呟いた。
自分たちだけではないことに嫉妬しているのでしょうね。


「ミサンガだからな。付けてもらわなきゃ可哀想だしな」
「うん!麻燐もね、大切にしてるんだよ」


そう言って、どこか懐かしそうにミサンガを見つめる麻燐。
そんな麻燐の前でしゃがみ、両肩に手を置いた鳳。


「そうだね……。でも、ミサンガなんだから千切れたほうが嬉しいよね。その方が、ミサンガも生を全うできるんじゃないのかな」
「「「(呪う気だ。全力で千切れるように呪う気だ……!)」」」


もはや鳳の考えていることは皆さんに筒抜けですね。
そんな邪気を一切感じない麻燐は、


「確かにお願い事は叶えてほしいけど……でも、やっぱり千切れちゃうのは悲しいな」
「麻燐ちゃんは、どんなお願いしたんや?」


すかさず忍足が聞いてみる。
そのことは他のメンバーも気になるのか、じっと麻燐を見つめた。


「麻燐のお願い事?うー……でも、少し恥ずかしい……」
「可愛っ……じゃなくて、俺も気になるC!」


恥ずかしいと言いながら目を逸らす麻燐。
一瞬芥川の本音がもろに現れました。


「じゃあ……内緒にしてね?」
「当たり前だ。俺らが他のやつらに言うかよ」


にっと笑う宍戸に安心したのか、麻燐も笑顔で口を開く。


「えっとね……青学のミサンガには、青学の皆がずっと元気でいられますようにってお願いしたの」
「え?」
「じゃあ、立海のにも?」
「うん、そうだよ!立海の皆がずっと元気でいられますようにって」


氷帝の皆さんは少し脱力した。
もしかしたら、麻燐の個人的で密かな願いが分かると思ったのに。
でも、麻燐らしい願い事に誰もが微笑ましそうな顔で麻燐を見た。


「じゃあこの氷帝のミサンガにも、俺たちが元気でいられるように願ったのか?」


跡部が聞いてみる。
麻燐なら元気に即答するだろうと思ったが、この時は違った。


「えっとね……その……少し違う、かな」
「え、そうなの?」


鳳が予想外の言葉に思わず反応する。
それは皆さんも同じ。


「じゃあ、何を願ったんだよ?」


向日が首を傾げながら聞く。
すると麻燐は、ミサンガを優しくなぞり、


「皆と、ずっと楽しく過ごせますように……って、お願いしたの」


そう呟いた。
その言葉は皆が予想もしなかった言葉。
てっきり、また自分たちのことを願っているものだと思っていた。
だが、この氷帝のミサンガには……。
皆と=c…。つまり、麻燐も含まれている。


「麻燐……」


垣間見えた麻燐の本心に、一瞬にして皆さんの心があたたかくなった。


「俺たちも、ずっと麻燐ちゃんとこうやって過ごしたいって思ってるよ」
「つーか、もう麻燐がいないと物足りないっての」
「お、お前ら喜びすぎだっつの……」
「宍戸さんも、顔赤いですよ」


鳳は優しく頭を撫で、向日が飛び跳ねて言った。
宍戸が落ち着くように言うものの、結局は墓穴を掘っただけだった。


「俺も俺も!ずっと麻燐ちゃんと一緒にいるC〜!」
「芥川さん、微妙に違ってますよ」
「っ泣けるわぁ。麻燐ちゃんが、こんなこと思うとってくれてたやなんて……!」
「ふん。当たり前だ。俺様といて麻燐を退屈させるわけがねえからな」


そう言いながら笑顔になる皆に、麻燐も同じように笑顔になった。
ここであたたかな空間が作られたところですが、残念ながらチャイムが鳴り解散ということになりました。


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