「ん〜〜〜〜っ終わった!」


補習も終わり、先生が教室から出て行った後。
麻燐は大きく伸びをして後ろを振り向いた。


「えへへ、なんだか皆とお勉強するの楽しかった!」
「俺もだぜ。なんつーか、やる気が出てきたし」
「A〜?それは麻燐を見てるのが楽しいだけで、授業は頭に入ってないんでしょ?」
「ばっ!馬鹿なことを言うなっ!」


そう言いながらも、事実だったのか顔を赤くする向日。
芥川はよく見てます。


「そういうジローは寝てなかったよな」
「目の前に麻燐が居るのに寝てたらもったいないC!」
「………お前は正直だな」


あまりに堂々と答える芥川に、宍戸は呆れたように呟いた。


「それにしても、普段からあんなに積極的に授業を受けてるの?」
「うん!お勉強は好きだから!」
「すごいね、麻燐ちゃんは」


分からない事があったらすぐに先生に聞いていた麻燐。
その姿を見ていた鳳は感心して麻燐の頭を撫でた。
褒められた麻燐は、嬉しそうに、でも少し恥ずかしそうに笑った。


「ああ……もう、きゅんきゅんしたわ……当分、俺の萌えゲージは満タンや!」
「……忍足さん、幸せそうですね」
「当たり前や!何度写メを撮ろうとして自制してきたか!」
「……そんなことをしたら、絶対蹴ってました」


忍足の隣に座っていた日吉。
その不自然な動きというか麻燐を見る目に……何度喝を入れようと思ったか。


「ふん、なかなか面白い体験ができた。麻燐もよく頑張ったな」
「ううん、景ちゃん先輩のおかげだよ!ありがとう!」
「ああ。……じゃあ、帰るか」


放課後を補習の時間で終わらせてしまったようですね。
元々、学園祭の準備は滞ってなかったのでよしとしますが。

そしてその後はいつもと同じように跡部に送ってもらい、麻燐は無事に自宅へと帰ることができた。





「ねぇ麻燐ちゃん、ママ、不思議に思っていたことがあるんだけど」
「なぁに?」
「いつも……誰に送ってもらっているの?」
「あ、それはパパも気になっていたよ。麻燐の友達かな?」


家に着いて食卓につくなり……ママがそう切り出す。
パパも同じ疑問を抱いていたのか、麻燐の方を見た。


「ほら、なんだか……長くて黒くてピカピカした車に乗ってるじゃない?」
「あれはリムジンっていうんだよ、ママ」
「そうそう。高い車らしいし……近所の人たちからもよく聞かれるのよ」


ママは車に詳しくないようです。
それにパパが言葉を付け足す。
そして、


「ああ、あれはね、景ちゃん先輩のお家の車だよ」
「あら!噂の景ちゃん先輩だったのね」
「うん!とっても優しいの!」
「うふふ、今度お礼を言っておかないと」


どうやらママはその名前に聞き覚えがあるらしく、嬉しそうに笑った。


「……ママは知ってる人なのかい?」
「ええ。よく麻燐から聞いてるわ。男子テニス部の部長で、とってもかっこいい子だとか」
「!?!?!?!?なんだって!!」


思いもよらぬ言葉から、思わず口に含んだお茶を吐きだしそうになったパパ。


「ちょ、ちょっと待て。景ちゃん先輩って……女の子じゃ、ないのか…!?」
「そうだよ〜。跡部景吾さんって言うの!」
「ななななななななっ!?」


新たな言葉に再び反応するパパ。
その様子を麻燐とママは首を傾げながら見ている。


「あ、跡部って……もしかして、あの跡部財閥の!?」
「「あとべざいばつ?」」


パパが言った言葉にさらに不思議そうな顔をする二人。
どうやら、そのような言葉は聞いたことがないようです。


「パパが勤めている会社の何十倍も大きな会社……いや、企業だよ!……本当に知らなかったのか?」
「麻燐、そんなの聞いた事なかった〜」
「ママも、ニュースとかあまり見ないせいかしら」
「…………。とにかく、凄い企業の一人息子さんだ。まさか、そんな人が麻燐を送っているとは……」


パパが頭を抱えた。
まだあまり凄さは分かっていないが、何となく理解したママは、


「ふふ、なんだか凄そうね。麻燐ったら、この年で玉の輿のチャンスかしら」
「ママ!」
「……たまのこし?」


麻燐は首を傾げています。


「よし、こうなったらその相手を麻燐の魅力で骨抜きにしちゃうのよ。ママの子だもの、麻燐は出来る子よ」
「えっと……麻燐がんばる!」
「!?頑張らなくていいんだよ、麻燐!」


ママが良からぬことを吹き込もうとしているのをパパが必死で止めようとする。
だが、もうママは乗り気になってしまったようです。


「ママが中学生の時にはすでに極めていた女の魅力を全て引き出す秘技を教えるわね」
「ママーーーーーー!」


可愛い可愛い娘にそんなことを吹き込まれたくないのか。
はたまた、自分が引っかかってしまったのかもしれない技を聞くのが嫌なのか。
そんな複雑な思いが交錯する、パパなのでした。