「皆大変!麻燐ちゃんが泣きやまないC〜っ!!」
「「「なにっ!?」」」


芥川が慌てて部室の扉を開くと、そこにはすでに着替え終わっていたレギュラーたちの姿が。
そして麻燐の普通じゃない様子に気付き、近寄る。


「ふええっ……」
「ど、どうしたの麻燐ちゃん!」
「おいおい、どうして泣いてんだっ?」
「落ち着け麻燐。俺様がその涙の原因を全勢力を尽くして排除してやる」


心配そうに顔を覗き込む鳳と向日。
そして心配の度が過ぎてしまったのか、とんでもないことを言い出した跡部。
だが、麻燐は泣いたまま何も言わない。


「麻燐ちゃん……っ、泣き顔もキュートやけど、なんや胸が苦しくなってきたわ……」
「麻燐が泣いているところ、初めて見ました」


辛そうに胸を押さえている忍足と、冷静に言ってみるもののどうしたのか気になる日吉。
だがどうやって慰めたらよいのか分からず、何もできずにいます。


「おい、二人とも少しどけ」


ここで後ろから登場したのは宍戸です。
頼りがいのある言葉で、鳳と向日の間を割って入る。
そして泣いている麻燐の頭を優しく撫で、目線も合わせる。


「どうした、麻燐?なにか嫌なことでもあったか?」
「うっ……ひっく……」


かもし出る頼れる兄貴オーラで、麻燐から事情を聞き出そうとしています。
さすが、面倒見のいい人ですね。
そんな宍戸の言葉に、麻燐も耳を傾け……少しだけ首を横に振った。


「そうか。じゃあ、何か悲しいことでもあったのか?ゆっくりでいいから言ってみろ。な?」
「う……ん、りょーせんぱ…っく、あの、ね……」


涙目。紅潮した頬。震える声。
普段の宍戸ならその様子を見ただけで気絶してしまいそうな様子ですが……。
今は兄貴モードに入っているので、そんなやましいことは微塵も感じていません。
後ろで心臓を押さえている忍足と違って。


「お昼……忘れ物を取りに行ったらね、眠ってたジロ先輩に捕まって……」
「えっ?俺……?」


意外そうな顔で、自分を指差す芥川。


「そのまま抜け出せなくて、それで……麻燐、ジロ先輩と一緒に寝ちゃって……」
「ああ、それで……?」
「麻燐、授業さぼったことになっちゃったよね?それが、悲しくて、麻燐……」


しゃくりあげながらも一つ一つ話し始める麻燐に、いつの間にか皆さん聞き入ってしまっていました。
そして何とか事情を把握した皆さんは、


「つまり……ジロー先輩の所為ってことですね」
「うわーーーん!麻燐ちゃんごめんね!俺、わざとじゃないんだよっ!」
「クソクソジロー!お前、なんてことしてんだよ!」
「ったく……激ダサだな」


麻燐に抱きつきながら謝る芥川。
そしてそんな芥川に、怒りや呆れ……いろいろな言葉が飛び交いました。


「みんな、ジロ先輩を叱らないでっ」
「っ麻燐……」
「ジロ先輩は、眠ってただけだから……何も悪くないの。麻燐も、途中から一緒に眠っちゃったし……」
「麻燐ちゃん……!」


麻燐を泣かせてしまった事を悔やんでいる芥川も、その言葉に思わず涙目に。


「麻燐はただ、授業に出られなかったことが悲しいの……」
「麻燐……そんなに、勉強したかったのか?」
「うん……だって麻燐……皆勤賞目指してたから、」
「……さぼりと皆勤賞はまた別だと思うが」


ぼそりと言った日吉の言葉は麻燐には聞こえていない。
麻燐にとっては同じようなことなのでしょう。


「………安心しろ、麻燐」
「ふぇ?」


ここで、大人しく話を聞いていた跡部がそう言いました。
麻燐は小首を傾げ、跡部を見上げる。


「俺が校長に掛け合ってきてやる。麻燐のさぼりを、塵のようになかったことにさせる」
「おいおいおいおい。そんなことしていいのかよ」
「簡単なことだ。そう大したことでもないしな」


思わぬ提案に宍戸が慌てて口を挟む。
だが対して跡部は当然のように言ってのけた。


「……なんか最近、跡部の思考がどうなってるのか分からねえ」
「あかんで宍戸、理解しようとしたら。それに、あれでも跡部は本気なんや」


後ろでこそこそ話す宍戸と忍足。
隣では日吉が溜息をついています。


「本当に、そんなことできるの……?」
「ああ。全て俺様に任せろ。……ほら、涙を拭け」
「っうん、」


跡部からハンカチを受け取り、涙を拭く麻燐。
少し目が赤くなってしまいましたが、とりあえずは泣き止みました。
そして、


「麻燐のために、ありがとう。景ちゃん先輩」


麻燐がそう言って微笑みました。
その笑顔を跡部は見て、


「じゃあ俺様は行ってくる。お前らはここで待ってろ」


上機嫌で部室から出て行きました。


「………権力持ってるやつは、怖いな」
「そうだな。しかもあいつは自覚症状がない」
「……冷静に考えたら、今から駄々をこねにいくようなものですからね」


向日、宍戸、日吉は跡部がいなくなったのを確認して、そう呟きました。
だが、後ろを振り向いて麻燐の笑顔を見ると、これも仕方がないかと思ってしまう3人。
麻燐を元気づけながら、跡部が戻ってくるのを待つことにしました。